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おっさんのごった煮短編集

夏祭りの肝試し(改訂版)

夏祭りの肝試し 改訂版です。

ラストを書き足しました。

提案して下さいました、たらこくちびる毛様、ありがとうございましたm(_ _)m




 地域の青年会に入ったのは自分の意思じゃなかった。

 


 世界的な疫病の蔓延で、東京暮らしで働いていた俺はめっきりと減った仕事で生活も苦しくなり、已む無く田舎へと出戻ることにした。


 実家は兄夫婦が暮らしている。流石に兄嫁に子供と俺にとっては交流の少ない「他人」のいる家に帰るのは気が引けるし、何よりも四十手前の独身で実家住みは田舎では目立つ、両親も兄も実家で暮らせばいい、部屋もあるし、借家の家賃が勿体無いと言ったが、絶賛無職で部屋住みは肩身が狭すぎると断ったのだ。


 地元に戻っても、最初の頃は飲食店で雇ってくれるところもなく、農家を手伝ったり、あれこれと町の季節労働を繋ぎでしている内に方々に顔が知られるようになった。


 あー安さんとこの次男坊かー。そんな感じで仕事を斡旋して貰い、食うには困らない程度には生活出来るようになり、何とか調理の仕事にもありつけた。


 そのあたりで地元の青年会へと誘われたのだ。


 もう青年って年でもないと断ったが、元より若者が少ないのだからと言われると、年を理由に断った手前、反対に断りづらくなってしまった。



 夏休みで地元に帰省する家族には当然に孫を連れる者たちもいるし、少ないと言っても集落には子供がいる。

 地元の神社の境内で納涼祭を開くのは毎年のこと、商工会、青年会、農業組合に自治会とあちこちが手を貸しあって行われる地元の祭りは、大変に小規模で、子供の頃に比べてどんどんと出店も減り、活気が無くなっている。


 「そのうち、無くなるんかな」


 そんなことを言っていると、自治会長に声をかけられる。


 「武くん、神社裏の祠までの肝試し、引率を頼んでいいかい」


 あー、まだやってたんだなー。なんて思いながら了承すると、お願いねー、と気安い言葉が返ってくる。

 

 神社の裏山は標高も低く、雑木林は地元の農林課の管理で辛うじて維持されている程度。

 舗装されていない山道を少し登ると祠があるのだが、希望者の子供がいれば肝試しとして大人が引率して祠まで行くのだ。

 祠までの山道には簡易の灯籠も用意してあり、脅かし用の案山子やお化け役の大人もいる。


 『8時30分より、ちびっこ肝試しを行いますので、希望者は保護者同伴の上で境内奥右手側にあります実行委員テントまで御越しください』


 希望者の子供が親や祖父母を伴って集まって来る。

 実行委員の一人として同伴の保護者から了解を貰っては順番を決めていくと、一人だけ保護者がいない女の子が俺を見ていた。


 「どうしたのかな、お父さんお母さんとはぐれちゃった」

 

 町の人間の顔なら、ある程度は見知っているが見覚えのない、でもどこか見たことあるような、小学生高学年くらいの女の子だ。

 まあ、だいたいは見知っていると言っても全員ではないから、移住者の多いマンションなんかの住人なら知らなくてもおかしくないし、見たことあるような感覚はもしかすれば、何処か知り合いの家の孫娘が両親の帰省で来ているのかもしれない。

 


 「ううん、サナひとりで来たの」


 「さなちゃんって言うのかな。もしかして肝試しに参加したいのかな」


 そう聞くと、さなと名乗った女の子は嬉しそうに首を縦に降った。でもしかし参ったな。道中に危険はほぼ無いが、それでも一応は保護者の許可を貰わないと。そんな事を考えて困っていると、女の子は段々と悲しそうな顔になる。

 

 「さな……ちゃん」


 何とはなしに口についた言葉に僅かな既視感を覚えたけれど、気のせいだと思う。とりあえず混乱していても仕方ないと近くを見やると自治会長がいた。


 「須崎さーん、この子、肝試しに参加したいらしんですが、一人で来てるみたいなんです」


 「あー、まあ、許可を貰ってるのも形式的なものだし、万が一のために引率もいるんだから、いいかな。武くん、悪いんだけど面倒みれる」


 「自分は構いませんが、おじちゃんが一緒に行くんだけど、いいかな」


 「うんっ、ありがとうっ! 」


 「じゃあ、悪いんだけど武くん、お願いね」


 「はぁ、わかりました」


 

 そんなやり取りで特例が認められたが、元々は俺が子供の頃は勝手に裏山に入って遊んでいたし、この肝試しだって、子供だけで普通に参加出来たんだ。

 肝試し中に怪我をした子がでて、それ自体は軽傷だったこともあって、然程問題とはならなかったけれど、事後の対応策として今の形になったと聞いてる。

 そう言う意味では自治会長が把握しているなら多分問題はないと思う。



 さなちゃんの番になり、俺はさなちゃんと共に山道に入っていく。言っても大した距離じゃない。大人の足なら10分とかからず往復出来る。子供の足に合わせるために多少は伸びるだろうが知れたものだし、先発で向かった子を追い抜くことは無いにしても祠について返ってくる子とはすれ違う筈だ。お化け役もいるのだし、問題はないさ。



 歩き初めて脇に等間隔で設置された灯籠の一つに目が止まる。丸井商店の文字、でも丸井商店っておばあちゃんが具合を悪くして俺が中学の時に店を畳んだ筈だし、おばあちゃんはそのあとに亡くなってるよな。

 いくら田舎とは言え、古いものを使い回しし過ぎだろ。そんな気持ちと懐かしい想いに独り言が口をついてしまった。

 

 「丸井のばあちゃんの十円店、よく行ったなー」


 そんな独り言にさなちゃんは繋いだ手を引っ張って楽しそうに話してくる。


 「十円店って駄菓子屋さんだね、私はぞうさんの容器のヨーグルトみたいなの好きだよ」


 「そうなんだ、俺もあれは好きだな」


 嬉しそうにころころと笑っているさなちゃんにやっぱり既視感がある。それよりも今時の子がよく駄菓子屋なんて知ってるし、十円店って俺の親たちが呼んでたのを子供が真似したもんなんだが、やっぱりどっかの家の孫なんかな、おばあちゃんあたりから聞いたんだろうか。


 しばらく歩いていると後ろから足音がする、振り返って見るも姿は見えなかったが、女の子の足にあわせているから、追い付いて来ているのかもしれない。

 

 「そういや、次は駿坊だったか」


 「駿坊? 」


 「あー、さなちゃんの次の番の子」


 青果店の一人息子の駿坊はやんちゃ盛りで元気がいい、追い付かれても不思議はない。ただ、そのわりに足音は俺の物とそう違いがない気もして、まあ、深く考えることでもないか。


 

 おかしい、さなちゃんはさっきから嬉しそうにあれこれ話して来て笑っているが、山道の一本道をずっと歩いているのに誰にもすれ違わないし、後ろから来る足音も永遠に追い付いて来ない。

 そもそも、もう祠に着いていい筈だ。


 「さなちゃん、なんかおかしいから一度戻ろうか」


 俺がそう言うとさなちゃんは首を傾げた。


 「でも、まだ祠に着いてないよ」


 「そうなんだけどね、でも本当ならもう着いていておかしくないくらい歩いてるし」


 そう言うと、さなちゃんはケラケラと笑い出した。


 「タケは相変わらず怖がりだねー。お化けだって出てないのに」


 両手でお腹をおさえて笑っているさなちゃんの言葉が良くわからない、相変わらずってなんだ。


 「いや、怖がりじゃないよ、確かにお化けも出てないね」


 そう言って気付く、気付いてしまう。「お化け役」も「案山子」も何にもない、それにしばらく立ち止まっているのに「足音の主」が近付いて来る様子もない。



 「やーっとわかったかー。今ここにはタケとサナしかいないんだよ。やーっと捕まえた」


 

 そうにっこり笑う真っ赤なワンピースの女の子は、ポニーテールとそれを縛る大きな黄色のリボンを揺らして指を出してくる。


 「約束したでしょ」



 「市賀早苗……さなちゃん」


 俺は腰が抜けたようにへたり込み、座りこんでしまった。目の前の女の子が小学生のころ大好きだった女の子と酷似していると思い出してしまう。

 

 「もう、思い出すの遅いよーっ! 」


 そんなバカなっ!


 だって早苗は、さなちゃんは中学に上がる直前、交通事故で死んじゃったんだ。丁度この神社のあたりで。



 俺は立ち上がることも出来ずにケツをついたまま足をめちゃくちゃに動かして逃げようとする。


 「来るなっ! 来ないでくれっ! 」


 「大丈夫だよ、ほらっやっと来たのっ! 」



  嬉しそうに微笑むさなちゃんの目線の先には、おどおどと頼り無さげな見た目の小学生の頃の俺がいた。






 「もうずーーっと一緒だよ」



 

 嬉しそうに微笑むさなちゃんの顔が灯籠に照らされて影が揺れる。

 瞳に映る炎の揺らぎが一際強くなる。


 「……あ……あぁ」


 あぁああぁあぁああぁぁぁぁあぁあぁあー


 俺は四つん這いになってがむしゃらに逃げ出そうとした。

 近くの木にしがみついて立ち上がり、来た道を戻ろうとすれば、目の前の灯籠が急に燃え上がる。


 轟ヶと火柱を上げて燃え出した灯籠に(おのの)いて後ろ向きに足をもつらせ転んでしまう。

 土が剥き出していた筈の山道にいつの間にか鬱蒼と雑草が繁っている。夜露に濡れた雑草の匂いと土の匂いが否応なしに現実だと知らせて来る。


 見上げれば火柱はあちこちの灯籠から上がっている。森の木々には何故か燃え移ることもなく、炎に照らされた山道とは対照的に影が深く闇に沈んでいる。

 深い深い闇に浮かぶ木々のざわめきが巨大な化け物のように見えて。


 「あ……あぁあぁあーっ」


 頭を掻きむしり踞る。


 「夢だ夢だ夢だ夢だ……夢に決まってるっ! 」


 肩に置かれた手を反射的に振り払おうとして、体が動かない。


 「タケ、そんなに一緒は嫌? でも大丈夫だよ、鵺様が姿を変えてくれるから、ほら、そこに昔のタケがいる」


 俺の首は勝手に動いて、子供の俺と目が合う。


 「タケと離ればなれになった私のために鵺様がずーーっとタケの姿で側にいてくれたんだよ」


 「約束したでしょ。いつか結婚しようねって」


 子供の姿の俺が近付いて来る。


 来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな……来るなぁぁぁっー


 「お前さまは贄だ。あの童女の執着は旨いんでな。ここに縛られるが良いよ。大丈夫だ、身も心も童子の頃に戻してやろう」


 男とも女とも老人とも子供ともわからない不気味な声を聞いた後、視界が真っ暗になった。




 「私のタケ、鵺様がずーーっとここに居ていいって言ってたんだよ。里に来ても此処には近付かなかったね。やーっと捕まえた、もう放さないからね」




 


 とある田舎の夏祭り、突然に‘たった一人で’姿を消した男が干からびて木乃伊のような姿で見つかったのはお盆も終わるころ、祠の前であったという。





 





 

感想お待ちしてますm(_ _)m

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[良い点] おお、改訂前の後半に大きな追加が! これいいですね~。 ( *´艸`)
[良い点]  独身者が失意の帰郷で恥を忍んで糊口をしのぐ日々の中で幼なじみとの再会。そんな生活だったらば厭世観を持ち始めていても不思議じゃない。だけど日常に呑み込まれて気づかぬいろいろ残念な鈍感主人公…
[良い点] 主人公がなし崩し的に青年会に入ってしまうという導入が不安を誘い、 少女と肝試しというシチュがハートフルな結末も思わせましたが、 恐ろしい結末が待っていましたね。 田舎に戻ってきた時点で主人…
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