第五話 襲撃!?
馬車に乗ってしばらくして、わたしはうとうとし始めた。
『お姉ちゃん』
カーテに笑いかけられたが、わたしは厳しく告げた。
『カーテ! 何度言わせるの。わたしのことは“姉上”か、“お姉様”と呼びなさい!』
『でも、お姉ちゃん』
『わたしたちは、ヴァイアーシュトラス公爵の養女になったのよ! 田舎出身、ましてや庶民の出だと、バレるわけにはいかないわ。まずは、貴族らしい言葉遣いから!』
あのとき、カーテは半泣きになっていたっけ。
『ふたりきりのときぐらい、いいじゃない』
と言われても、譲らなかった。
『そういう例外を作っていると、油断したら地が出てしまうかもしれないわ。だめよ、カーテ。わたしたちは、公爵家の娘なの。それらしく振る舞わないと。あなたのためなのよ!』
あなたのため、あなたのため、あなたのため、あなたのため、あなたのため、あなたのため、あなたのため……。
ぐるぐると言葉が回って、覚醒する。
「……カーテ」
わたしは妹を叩いたことなんて、なかった。
でも、カーテは「叩かれた」に等しい気持ちだったのかもしれない。
わたしは厳しい姉だった。
カーテの教育に力を入れられていないと感じたわたしは、姉ではなくむしろ教師になったつもりだったのかもしれない。
どこに出しても恥ずかしくない、淑女になるように。
カーテも、わたしがカーテのためにやっているとわかってくれていると思っていた……。
でも――
通じていなかった。というより、あれはわたしの自己満足だったのかもしれない。
「とんだ、悪役だわ」
窓にうっすら映る自分を眺める。
表情のない、人形のような娘。
これは、罰なのだろうか。
目をつむったとき、がたんっと馬車が揺れてわたしは椅子から転げ落ちた。
次いで、衝撃。
何事!?
気がつけば、わたしは馬車の壁だったところに横たわっていた。
馬車が横転したのだと、遅まきながら気づく。
頭が痛い。横に投げ出されていたトランクをつかみ、どうにか立ち上がる。
不意に、頭上から――真上にある馬車の扉が開き、腕が差し込まれた。
わたしがその腕に片手でつかまると、その腕はわたしを引っ張り出してくれた。
外に出て、投げ出される。
「何するのよ!?」
てっきり助けてくれたのかと思ったのに。
なんとか起き上がるが、足が痛くて立てなかった。
にらみかけて、わたしは凍りつく。
わたしを馬車から出してくれたと思しき男は、フードを目深にかぶっていて抜き身の剣を持っていた。
ハッとして辺りを見渡す。
同じような格好をした男たちが、わたしと馬車を取り囲んでいた。
御者や、同行していたはずの騎士が見つからない。
まさか……逃げた!?
御者は仕方ないとして。騎士まで逃げ出すことがある!? なんて腰抜け!
「さあ、嬢ちゃん。命が惜しければ金目のものを渡してもらおうか」
リーダー格であろう男が、しわがれ声で語りかけてくる。
「……渡せば、助けてくれるの? そもそも、あなたたちは誰?」
「命はな。残念だが嬢ちゃん自身も、売り飛ばすよ。いい商品になりそうだ。俺たちは盗賊だよ」
盗賊。
まさかの事態に、手が震える。
嫌よ。こんなところで終わって、たまるものですか。でも――どうすればいいの!?
「うわっ!?」
盗賊のリーダーが、いきなり倒れる。
見れば、黒い狼が彼を襲っていた。
アオーン、と狼が遠吠えをすると、どこからか狼がたくさんやってきて、盗賊たちを襲っていった。
「やばい! 逃げるぞ!」
盗賊のリーダーは剣で狼を牽制しながら、駆け出す。
盗賊たちは馬にまたがり、あっという間に行ってしまった。
残されたのは、たくさんの狼とわたしだけ。
助かったけど……これって、また危機一髪?




