最終話 夏の花嫁と狼の王(3)
結婚式のあとは、宴会だった。
宴会の熱気と酒の酔いが回ったわたしは、「少し、廊下に出ているわ」とジーグルトに言づけて、主役席から立った。
夏でも夜になると涼しい気候のおかげで、廊下はひんやりしている。
手で顔をあおいでいると、誰かが会場から出てきた。
「……カーテ」
「お姉様」
彼女はわたしに一歩近づき、涙を流した。
「な、なんで泣いているのよ」
「わたくし……あたし、お姉様があたしを嫌ってるんだと、ずっと思ってた」
「――――なんですって?」
「だって、あたしの好きなひとと婚約したり、しつけも厳しかったしさ。昔、寒い家で身を寄せ合ったお姉ちゃんは、もうどこにもいないんだって思って、すごく悲しかった。だから、あたしもお姉ちゃんを嫌いになったの」
カーテは子どものように泣いていた。化粧が台無しだ。
カーテから見たら、そう見えたのかしら。
「嫌いになるわけないでしょ。……もっとも、最近のあなたはあまりにもひどかったから、ちょっと嫌いになってたけど」
「だよね。それでいいって思った。でも、なんだか――今日の幸せそうなお姉ちゃん見てたら、このままじゃ嫌だって思って。ごめんなさい、お姉ちゃん。あたし、ひどいことをした。許されるとは思ってない。許さなくていいよ」
「…………カーテ。わたしも、聖人じゃないの。だから、今すぐ許すとは言えないわ。でも、こうしてジーグルトと結婚できたのは、間接的にはあなたのおかげだし、少し感謝してもいるの。あなただから言うけど、たしかにわたしはオトフリート様に恋なんてしていなかった。都合がいいから、あのひとを選んだだけ」
わたしは正直に言って、カーテの肩を叩いた。
「あとね、わたしはあなたがオトフリート様のこと好きだなんて、知らなかったのよ。それは本当よ」
「お姉ちゃん」
「それと、教育はあなたのためだった。でも、厳しくしすぎたみたいね。それは、謝るわ」
「……うん」
「わたしもまだ、心の整理がつかないの。だから、どのぐらいかかるかわからないけれども、また――いつかのように一緒に笑いましょう」
すれ違ってしまった、わたしたち。完全に昔のように戻るのは無理でも、いつかは――。
「うん……。お姉ちゃん」
「さっさと涙を拭いて、化粧を直して笑顔で戻るのよ。ひどい顔になってるわよ」
わたしは廊下を歩いていたメイドを呼び止め、カーテの化粧を直してもらうように頼んだ。
そのあとわたしは会場に戻らず、西の塔に向かった。
窓に手をかけて、月夜を見上げる。
「エヴェリーン」
声をかけられて見下ろすと、ジーグルトが階段を上ってくるところだった。
「ジーグルト」
「ここで何をしているんだ?」
「涼んでいただけ……と言っても、通用しなさそうね。色々、考え事をしていたの」
わたしはカーテと話したことを語った。
「すぐには難しいけど、いつかまた……と思っているの」
「そうか。また、姉妹仲がよくなればいいな」
「ええ。でも、伯父やカーテのおかげでここに来られたようなものよね。結果よければ全てよしだと思っておくわ」
「それがいい」
ジーグルトは笑って、わたしの手を取り、口づけを落とした。
きっと、ここに来なければ恋すら知らずに結婚していただろう。
「俺の花嫁。そろそろ戻らないと、みんなが心配する」
「ふふ、それもそうね。行きましょう」
わたしはジーグルトに手を引かれて、階段を下っていった。
(完)
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