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第三十五話 求婚



 ヴァイスヴァルトの厳しい冬が終わり、短い春がやってきた。


 その頃にはもう領主の仕事にも慣れて、わたしは毎日を忙しく過ごしていた。


 コルネールは裁判のあと、猫族のもとに帰った。


 少し淋しいが、仕方ない。


 ギーゼラはヒルダに侍女としての教育を受けている。大変そうだが、充実していると言っていた。


 保護された狐族の少年は、城で下男としてまじめに働いている。




 ある日の昼下がり、書類にサインをしていて、ふと思った。


 最近、ジーグルトに会っていないと。


 呼んでも、いいかしら。


 わたしはその夜、寝たふりをしたあと、こっそりと西の塔へ向かった。


 塔の階段を上り、いつもジーグルトが入ってくる窓に手をかける。


 ここに来るのは、いつぶりだろうか。


 わたしは犬笛を吹き、壁にもたれた。


 来ないかもしれない。もうコルネールがいないから、見回りの騎士に見つかってしまうかもしれない。


 それでもいい。


 どうしようもなく、会いたかった。


 どのぐらい待っただろうか。


 大きな狼が窓から飛び込んできて、人型に変身した。


「やあ、エヴェリーン。いい夜だな」


「こんばんは。ありがとう、来てくれて。もう夜も遅いのに」


「いや。何か用でも?」


「……用は、なかったの。話したくて、呼んだだけ。しばらく、会ってなかったでしょ?」


「そういえば、そうだな。どうだ、エヴェリーン。最近は、変わったことはなかったのか」


「平和に過ごしてたわ」


「それなら、よかった」


 ジーグルトが笑うと、鼓動が早くなった。


「俺も、君と話したいと思っていたんだ」


 ジーグルトは咳払いをしてから、わたしを見下ろした。


「その……俺は、君のことが好き――なんだ」


「……!!」


 驚き、わたしは口に手を当てる。


 自然に、涙が出ていた。


「立場的に難しいかもしれないが――結婚、してくれないだろうか」


「……ええ。喜んで」


「本当か?」


「本当よ。わたしも、あなたのことが好きなの。懐かしいわね、凍えた夜に温め合った日が」


「ああ。まさか、こんなことになるなんてな。でも、よかった。両思いだったんだな」


 ジーグルトは感極まったように、わたしを抱きしめた。


「だが、エヴェリーン。俺たちは結婚できるのだろうか? 俺は貴族ではない」


「大丈夫。あなたは、狼の王でしょ。わたしは、期せずして国王に貸しがあるの。認めさせてみせるわよ」


 わたしが言い切ると、ジーグルトは「頼もしい」と言って笑った。



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