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第三十四話 裁判の果てに


 クリストフが護送されてきてから三日後、裁判となった。


 わたしは法律の本を再読し、過去の事例も参照した。




 城の広間で、わたしは階段の上にある椅子に座る。


 騎士たちが、クリストフとカタリナを縄でつないで連れてきた。


 階段の下には机が用意されており、マクシミリアンが座っていた。


 白紙の束を前に、ペンを持っている。彼には裁判の記録係を頼んでいた。


「ヴァイスヴァルト辺境伯、エヴェリーン・フォン・ヴァイアーシュトラスの名の下に、これより領主裁判を執り行う! ふたりの罪状を述べよ」


 わたしが堅苦しい発言をすると、クリストフたちの後ろにたたずんでいたユリアヌスが、口を開いた。


「クリストフ・グラースは、前ヴァイスヴァルト辺境伯一家の殺害、兎族の殺害、仲間である狐族の殺害を行いました。正確な数は本人も把握していないようですが、とんでもない数の者を殺しています。更に、ヴァイスヴァルト辺境伯領に来た王太子と入れ替わり、先日まで王太子として振る舞っておりました。この罪も、軽いものではないでしょう。また、王太子とヒルダを誘拐し、監禁して、親をなくした子どもにその世話をさせていました」


 ユリアヌスは一呼吸置いてから、続ける。


「カタリナ・グラースは、クリストフに全面的に協力していました。更に、この城で働いていた侍女ヒルダと入れ替わり、何食わぬ顔で過ごしていました。クリストフを引き入れたのは彼女です。彼女は実際に殺人は犯していないようですが、彼女の罪もまた重いものでしょう」


 ユリアヌスは全て言い終わると、一礼した。


 わたしは、すうっと息を吸う。


「狐族を滅ぼされ、人間や前ヴァルト辺境伯を恨んでいたとはいえ、命を奪うことは許されません。情状酌量の余地なし。クリストフ・グラース――死罪」


 判決を告げたあと、カタリナが顔を覆って泣いていた。


 クリストフはわかっていたのか、無表情だった。


「カタリナ・グラース、あなたは夫に協力して罪を犯しました。誰も殺していないとはいえ、間接的に殺したも同じです。しかし、捜査にも協力的だったことも鑑み、夫を失うことも充分な罰となると考え――あなたには、三年の禁固刑を言い渡します」


 わたしの発言が意外だったのか、カタリナは顔を上げてぽかんとしていた。


「処刑は、明後日の執行。更に、処刑は非公開とします。獣人族へのいらない偏見を増長させないためです」


「……ありがとうございます」


 カタリナは礼を言っていたが、わたしはぎこちなくうなずくしかなかった。


 


 ヴァイスヴァルト城から少し離れたところに、処刑場がある。


 処刑人を呼んで、そちらでクリストフは処刑されることになった。


 わたしは領主だから処刑に立ち会わなくてはならなかったけれど……このことについては、あまり覚えていない。


 処刑は、覆面の処刑人が執り行った。


「辛かったら、目をそらしていてください」


 とユリアヌスが言ってくれたから、わたしは直視しなかった。


 罪人とはいえ、わたしの判断で命を奪う。


 領主の責任とは、こんなにも重いものなのかと――苦く思った。


 


 処刑が終わり、城に帰ったわたしは自室に直行しようとしたが……


「エヴェリーン様。ジーグルトが来ています。どうしましょうか」


「会うわ。応接間に通していて。わたしは、身支度してから行くわ」


 わたしは一旦、自室に戻って服を着替えた。


 血の臭いが染みついているような気がしたからだ。


「はっ」


 わたしが応接間に入ると、既にジーグルトは座っていた。


 テーブルには、お茶とお茶菓子が並べられている。


 わたしは扉を閉めるなり、頬が冷たいことに気づく。


「エヴェリーン」


 ジーグルトが心配そうに立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。


 そっと抱きしめられ、しゃくりあげる。


「処刑に立ち会うと聞いていたから、心配だったんだ」


「……ありがとう。覚悟はしていたけど、やっぱり辛かったわ。でも、これが領主の責務だから」


 わたしには、刑を言い渡した責任がある。


 責任はきちんと、背負わなければならなかった。


「よく、がんばった」


 優しいことを言われたものだから、ますます涙が止まらなくなって、わたしはジーグルトにしがみつくようにして、大泣きした。




 少し落ち着いたところで、わたしは「座りましょう」とジーグルトを促す。


 彼はうなずき、席に着いた。わたしも彼の正面に座る。


「ごめんなさい、ジーグルト」


 謝りながら、わたしはすっかり冷めた紅茶をすする。


「いいんだ。もし泣いていたら、と思って来たから。本望だよ」


「…………」


 ジーグルトは、どうしてこんなに優しいのかしら。


「それに、君は狼族の言い分を聞いて真犯人を捜す努力をしてくれた。一族を代表して、お礼を言いたい。ありがとう、エヴェリーン。最悪の場合、状況証拠だけで狼族を有罪とし、代表として俺が殺されていたかもしれない。本当に、ありがとう」


「――どういたしまして」


 ジーグルトのおかげで、少し心が軽くなった。



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