第三十話 狐を追いつめるには(2)
わたしたちは少し早めに、会場をあとにした。
伯父様やカーテは残っていたが、わたしが先に行ってしまうことを誰も特に気にしていなかった。
いづらいから、と思われているのだろう。
実際は、違うのだけれども。
単にわたしは、今日あったことを受けて早くみんなで話し合いたかっただけ。
王城では、廊下でも話し込んでいると目立ってしまう。
特にクリストフが化けた王太子に怪しまれないようにと、早く退散することにしたのだ。
わたしは屋敷に帰ってすぐ、メイドにお茶の用意を頼み、みんなにわたしの部屋に来るようにと促した。
メイドがテーブルにお茶を並べ終わって退室してすぐ、わたしは口を開いた。
「……で。どうすればいいと思う? ジーグルトは、狼族がヒルダを捜していると言ったけれど……。捜索は狼族に任せておけば、安心よね」
「捜索なら猫族も強力したほうが、いいと思うけど。本物のヒルダならともかく、偽者の……カタリナだっけ。彼女なら、体の一部が残されていたら追えるよ」
ぽんっ、とコルネールが猫から少年の姿に変身する。
椅子が足りないので彼はベッドに座り、会話に参加した。
「あの魔法ね。カタリナは用心深くて、体の一部――髪の毛なんかは残していなかったのよ」
わたしもそう思ってカタリナの使っていたブラシを捜したのだが、ブラシは持ち出されていた。
「元のヒルダのものなんて、当然残っていないしね」
「そっかあ。なら、狼族の鼻に頼るしかないな。見つかるかなあ?」
コルネールも、懐疑的なようだった。
「捜索の話は置いておきましょう。わたしが尋ねたいのは、もし王太子が死んでいたらということよ。ギーゼラの証言以外で、証明できないわ」
わたしの話に、ユリアヌスが難しい顔をして腕を組んでいた。
「その場合は、外堀を埋めるしかないですね」
「外堀って?」
「国王陛下や、第二王子や第三王子に話を持ちかけるんですよ。婚約者でもいいですね」
「婚約者のクラリスは、既に違和感を持っていたわ。働きかけるなら、彼女かしらね。あの子も、どこの誰かわからないひとと結婚なんてしたくないでしょう。第二王子はよくわからないけど、協力してくれるなら彼かしら。王太子が偽者なら、次の国王は彼よ。彼が一番、得をする。第三王子のオトフリート様は――わたしとは気まずい仲だから、協力をあおぎにくいわね」
わたしが説明すると、皆は神妙な面持ちで聞き入っていた。
「そもそも、わたしが王太子を疑う動きを見せたら、クリストフも動いてしまうかもしれないわ。逃げる前に、捕らえたいわね」
「今は、特に警戒していないようだったな。ギーゼラの存在を、まだ知らないのだろう。とすると、元ヒルダのカタリナはまだ連絡していない?」
「そうだと思うわ。知っていたら、夜会に顔なんて出さないわよ。理由なんて、いくらでもつけられる」
ジーグルトの推理に、わたしはうなずく。
「それでエヴェリーン様? 俺たちはどう動けばいいんです?」
ユリアヌスに問われて、わたしは考え込む。
「ギーゼラ。自分で変身を解かないと、変身は解けないのよね?」
「うん、そうだよ」
「なら、これしかないわ。王太子を誘拐するのよ」
わたしの意見に、一同は呆気にとられたのか、しばらく誰も何も言わなかった。




