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第二十九話 式典



 そうして、式典の日がやってきた。


 わたしは一礼して、広間の扉の前に控えていた衛兵に招待状を見せる。衛兵は、わたしたちをじろじろ眺めてきた。


「その三人は、あなたの連れですか?」


「ええ、そうよ。ヴァイスヴァルト辺境伯領の騎士団長と、その部下である騎士。それに、侍女見習いよ」


 わたしが見やると、三人は一礼していた。


 ギーゼラの髪は、コルネールの手によって金髪に染められていた。


 コルネールは、今日はお留守番だ。


 魔法使いは、当人が招待されていないと基本的にこういった場には入れない。


 魔法使いなら、武器を持たなくても攻撃できるからだろう。


「軽い身体検査をします。武器はお持ちでないですよね」


「ええ、もちろん」


「では、女性はこちらで」


 衛兵に促されて、メイドがわたしのドレス越しに何か隠していないか、確認していく。


 ジーグルトとユリアヌスは、衛兵自身が確認していた。


「武器を所持していないことが確認できました。どうぞ、お入りください」


「ええ、ありがとう。行きましょう」


 三人を促し、わたしは会場に入る。


 なかには、たくさんの貴族がいて談笑していた。


「行って」


 わたしが合図すると、ギーゼラを囲むようにしてジーグルトとユリアヌスはわたしから離れていった。


 視線がすぐに集まるのを、感じる。


 わたしは素知らぬ顔をして、下男が運んできた飲み物を取り、一口飲む。


 少し強い炭酸の白い葡萄酒だった。


 そんなわたしに、ひと組の男女が近づいてきた。


「エヴェリーン」


「オトフリート様……と、カーテ」


 わたしは勝ち誇った顔の妹を無視し、オトフリート様だけを見て一礼した。


「どうして、来たんだ」


「招待されたからですわ。どこかの誰かが、隠していましたけど。わたしが出席して、何か不都合でも?」


「いや。だが、来ないと思っていた。来にくいだろうと。君は王都中で、うわさされている。知っているのか? 庶民の間でも有名なんだ。貴族間では、もっとだぞ」


 オトフリート様は、一応心配してくれているらしい。


「ですが、陛下の生誕を祝う日に欠席するのは失礼かと思いましたので。わたしは今は、これでもヴァイスヴァルト辺境伯。地方領主としての責務を果たさねば」


 わたしがにっこり笑うと、オトフリート様は驚いたようだった。


「エヴェリーン、表情が戻ったのか!」


「ええ。治りました」


「一体、何だったんだ?」


 わたしは迷ったあげく、「心因性のものだったみたいです。環境が変わったから、治ったのでしょう」と無難に答えておいた。


 カーテは、不審そうにわたしを見ている。


 それはそうだろう。わたしの表情が治ったのは、ここに来てからだ。環境を変えて治ったなら、帰ってきたときには治っていないとおかしい。


 でも、ここで伯父が呪いをかけたなどという事実を言うつもりはなかった。


 また、うわさ話の種になってしまう。


 それに、悔しいことだけれど、伯父の評判を下げると養女であるわたしの評判にも、少なからず影響があるだろう。


 怒っていないわけではない。


 だけど、改めて対面してわかる。オトフリート様の凡庸さ。退屈さ。


 以前のわたしなら我慢できただろうけど、今はもう無理だ。


 本当に素敵だと思えるひとと、出逢ってしまったから……。


 それに――


「そういえば、オトフリート様。わたしが到着する手紙をヴァイスヴァルト辺境伯領に先んじて送ってくださったのですね。ありがとうございます」


 にこやかに礼を述べると、彼は「いや」と言いかけて笑顔を引きつらせていた。


 やっぱり、日付をずらした匿名の手紙を送ったのはオトフリート様で間違いなかったようだ。


「悪運が強くて無事でしたけど、もしわたしが野盗に襲われて殺されていたらどうするつもりでしたの?」


 笑顔を崩さず物騒なことを尋ねると、カーテが眉をひそめた。


「何を言ってるの、お姉様?」


「黙ってて。――どうするつもりだったか、聞いているのですが?」


 答えに窮しているオトフリート様を問い詰めるも、彼はかわいた笑いを浮かべてカーテの腕を引っ張った。


「エヴェリーンは、何を言っているのやら。久々の王都で舞い上がってるんじゃないか? さあ、行こうカーテ」


 ふたりの姿を見送り、わたしは舌打ちを殺す。


「……ほんっとに、頭が残念な男ね」


 深く考えず、カーテのためにとわたしに嫌がらせをしたのだろう。


 もういいわ。彼と結婚できなくなって、よかった。


 王位継承に絡まなくても、あの調子じゃ何かやらかして地位を失うこともあるかもしれないし。


 わたしは深呼吸を繰り返して、怒りを押さえた。


 そうこうしているうちに、乾杯の音頭が始まる。


「皆様、ご静粛に。国王陛下の誕生日を祝って、乾杯といきましょう!」


 声を張り上げているのは、王太子だ。隣に、第二王子もいる。


 わたしも周りと同じように杯をかかげて、「乾杯!」と声を重ねた。


 乾杯が終わり、また雑談が始まったとき、ジーグルトが早足でやってきた。


「エヴェリーン、大変だ。廊下に出よう。ユリアヌスとギーゼラは、既に出ている」


 ジーグルトは、恐ろしく真剣な顔をしていた。


 何だろう。ただごとではないことは、たしかだけど。


 わたしはジーグルトに手を引かれて、会場から一旦出た。


 廊下の片隅には、ギーゼラとユリアヌスが立っていた。


 わたしは彼らに近づいて、眉をひそめた。


 ギーゼラが、顔面蒼白になっている。


「どうしたの? 何があったの?」


「み、見つけたよ――エヴェリーン様。仲間の狐を」


「会場にいたのね? 誰だったの?」


 わたしが肩をつかむと、ギーゼラは震えるかそけき声で「王太子殿下」と答えた。


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