第二十六話 呪具をさがして(2)
廊下に戻り、しばらく歩いたところでわたしは手を止めた。
「ごめんなさい、ジーグルト。姉妹げんかに巻き込んで」
「いや、俺は別にいいんだが……。難儀だな」
「そうね。ジーグルトは、妹さんと仲がいいんでしょう? びっくりしたんじゃない?」
「まあ、俺のところの兄姉仲はいいほうだと思う。だが、仲の悪い兄弟姉妹などたくさんいるものだ」
「わたしたちも、昔は仲がよかったのよ。どこで、ボタンをかけ違えたのかしら。やり直せるものなら、やり直したいわ」
「エヴェリーン……」
ジーグルトはどう言っていいかわからないようで、わたしの肩に優しく手を置いた。
「お嬢様!」
前からやってきたメイドの声でハッとする。ジーグルトは、すぐに手を放した。
「もうすぐ、夕食の支度ができますので食堂にいらしてください」
「わかったわ。――行きましょうか」
メイドに返事をしてから、わたしはジーグルトに向き直った。
夕食の席にはカーテがいるからゆううつだが、伯父様もいるからさすがにけんかは売ってこないだろう。
わたしの予想どおり、夕食の席ではカーテがわたしをなじることもなく、伯父がわたしに質問をする形の会話が続いた。
「すっかり、あちらには慣れたか」
「ええ。領主としてはまだまだですので、勉強しながらの執務ですが、充実していますわ」
強がりではなく本音でそう言うと、カーテがじろりとわたしをにらんできた。
とことん、わたしが幸せな状況が気に食わないらしい。
翌朝の朝食後、わたしは自室でゆったりと本を読んで過ごしていた。
「呪具を探してくるよ」
と言って、コルネールが飛び出していく。
わたしが眠気をこらえて字を追っていると、ノックの音が響いた。
「はい?」
「俺だ。ユリアヌス騎士団長もいる。入っても?」
ジーグルトの声だった。
ユリアヌスと連れ立って来たとは、珍しい。
「どうぞ」
促すと、ふたりが入ってきた。
「どうかしたの? ふたりそろって。どうぞ、座って」
わたしが椅子をすすめると、ふたりは遠慮がちに座った。
わたしも椅子を持ってきて、ふたりの前に座る。
「相談に来た。ユリアヌス騎士団長とは、少し話したのだが」
ちらりとジーグルトがユリアヌスを見やると、彼は「騎士団長をいちいちつけなくていい」と注意していた。
「わかった。それでは、この場ではユリアヌスと呼ばせてもらおう。とにかく、生誕式典は三日後だと言っていたな? それまで、王都を巡って狐を探そうと思っている。手分けしたいところだが、狐を見抜けるギーゼラがひとりしかいないので、俺とユリアヌスで一緒に捜索しようということになった。だが、気になることがある。君の身辺だ」
「わたしの身辺?」
「君は、この地で呪われたのだろう? 妹御の態度も気になる。ひとりにしておいては危険だと思ったのだが、王都での捜索に付き合わせるのも同じぐらい危険かもしれない。治安の悪いところにも行くだろうし」
ジーグルトは、この家でのわたしを心配してくれているらしかった。
「そうね……。でも、大丈夫よ。たしかに、ここに敵がいることはたしかだけれども、一応は実家だし。カーテも、口でなじってくるだけよ。コルネールも、いるし。あ、呪具の捜索で、今はいないけどね」
王都の捜索に加わってもいいけれど、わたしがいると目立ってしまうだろう。
狐がわたしを見て、隠れてしまっては元も子もない。
わたしが一緒だと、色々不便だろうし。
足は引っ張りたくなかった。
「心配しないで、捜索に行って。わたしは、この家で留守番するわ」
「承知した。公爵には、王都見物に行くと言っておこう」
「ええ。ジーグルト。王都には、狼はいないわ。だから、獣姿はなるべく取らないほうがいいわよ」
「忠告ありがとう。では、行こうかユリアヌス」
「ああ」
ふたりは立ち上がり、わたしに一礼して出ていってしまった。
ユリアヌスも協力してくれるとは、思わなかった。
彼も、旅を通してジーグルトの人柄を知って、犯人が狼族ではないかもしれないと思い始めたのだろうか。
また読書に戻ったけれど、長旅で疲れていたわたしはいつしか、眠りに落ちていた。
「エヴェリーン、エヴェリーン! 大変だよ」
揺さぶられて、目を覚ます。
薄青い目の少年が、わたしの顔をのぞきこんでいた。
「コルネール……」
人間姿は久しぶりだったから、一瞬誰だかわからなかった。
「眠ってたわ。……大変、ってどうかしたの?」
椅子に座って寝たものだから、体が痛い。
肩をもみながら問いかけると、コルネールは回りを見渡してから、わたしに向き直った。
「呪具が見つかったよ」
「あら、それは朗報じゃない」
「でも、呪具があった場所が問題だ」
「……どこだったの?」
コルネールはためらったあと、答えを口にした。
「公爵の私室だよ」
わたしは驚きすぎて、絶句するしかなかった。




