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第二十四話 王都へ



 いよいよ、王都に向けて出発する日がやってきた。


 わたしが馬車に乗り込むと、あとからユリアヌスとジーグルトが乗り込んできた。


 窓から、騎乗した騎士たちが見える。


 あまり大所帯でも移動が大変なので、騎士はユリアヌスが選抜した十人だけ。


 ユリアヌスはわたしの護衛ということで、こうして馬ではなく馬車に乗ることになった。


 おそらく、ジーグルトを警戒しているのだろうけど。


「ギーゼラ、早く!」


 なかなか乗り込んでこないギーゼラを心配して声をかけると、ギーゼラが走って馬車に飛び乗った。


「ごめんなさい。メイドさんたちに、王都で色々買ってきてほしいって頼まれたの」


 ギーゼラのスカートのポケットは、重そうにふくらんでいた。


 メイドたちから託された、小銭だろう。


「買うもの、ねえ。ちゃんと覚えたの?」


「うん。あたし、記憶力はいいし」


 ギーゼラは、ジーグルトの隣に座った。


「あ、ジーグルト様。久しぶり」


「久しぶり。様付けしなくてもいいぞ」


「狼の王なのに? いいの?」


「ああ、構わない」


「じゃあ、ジーグルトって呼ぶねー」


 人なつっこいギーゼラは、すぐにジーグルトに懐いていた。


 城の使用人たちにも気に入られているし、ギーゼラの社交能力には舌を巻く。


 ユリアヌスは獣人自体が苦手なのか、ギーゼラともあまりしゃべっていなかった。


 今も、難しい顔で腕を組んでいる。


 こういう厄介なところはあるけど、なんだかんだ頼りになるのよね、ユリアヌスは。


 ギーゼラのおかげで狐という疑いが晴れたせいもあるのだろうけど、わたしのユリアヌスへの信頼度は増していた。


 これで、もう少し獣人たちへの態度を軟化させてくれたらうれしいんだけど。


 真犯人を捕まえるまでは、難しいかしらね。


 あれこれ考えていると、マクシミリアンが馬車をのぞきこんできた。


「ユリアヌス、エヴェリーン様やギーゼラを頼んだよ」


「言われなくとも」


 ユリアヌスは素っ気ない返事をしていた。


「……狼族の王も、エヴェリーン様をよろしくお願いします」


 マクシミリアンは若干強ばった笑顔で、ジーグルトにも挨拶していた。


 マクシミリアンも、まだ狼族を疑っているから、完璧な笑顔でとはいかないのだろう。


 それをよくわかっているのか、ジーグルトは爽やかに笑い返していた。


「ああ。エヴェリーンは、必ず守るよ。心配しなくていい」


「お願いします。――エヴェリーン様」


「マクシミリアン。留守を頼んだわ」


 わたしが留守の間、マクシミリアンが領主代理になる。


 といっても、わたしの署名が必要な重要書類などは一時的に処理保留となる。


 マクシミリアンの裁量でできる範囲は限られているが、そう長く留守にしないし、大丈夫だろう。


「はい。エヴェリーン様が戻るまで、精一杯がんばります」


「よろしくね」


「はっ。では、皆様お気をつけて」


 マクシミリアンが馬車の扉を閉めると同時に、馬車が走り出す。


 それまで肩に乗っていたコルネールが、わたしの膝に降りて丸まった。


 わたしはコルネールの毛並みを撫で、息をつく。


「居心地が悪いですね。この馬車のなかは半分以上、獣人だ」


 ユリアヌスの嫌みに、ギーゼラがかみついた。


「獣人で、何が悪いの?」


「別に、悪いとは言ってないよ」


「ふーん。ユリアヌスって、異常に獣人を嫌ってるよね」


「狐か狼か知らないが、主君が殺されたんだ。そりゃ嫌うだろう」


 ユリアヌスは取りつく島もなかった。


 ジーグルトは苦笑し、ギーゼラは頬をふくらませている。


 コルネールは、我関せずといった風にわたしの膝の上で眠っていた。


「それには、同情するけどさ。でも、前辺境伯って評判良くなかったんでしょ? あたしは、よく知らないけど」


 ギーゼラは、ジーグルトを見上げた。


「まあな。だが、それでもユリアヌスの主君だったひとだ。ギーゼラ、かつての臣下の前で主君のことを悪く言ってはいけない」


「そんなもんなの?」


 ギーゼラは、今度はわたしに視線を向けてきた。


「そうね。騎士と主君は、とても神聖な関係なのよ。それが、過去のものでもね」


 実際、ユリアヌスは前辺境伯の悪口を言ったことがない。


 他の使用人や、マクシミリアンでもたまにぼやくことがあるのに。


 ユリアヌスの騎士道は揺るぎない。


「話題を変えましょう」


 とは言ったもののこの四人で話す話題など思いつかず、わたしが考え込んでいる内にギーゼラは眠ってしまったのだった。




 馬車は順調に街道を走り、休憩を挟みつつ数日かけて王都にたどり着いた。


 ヴァイアーシュトラス邸の前でわたしたちが馬車から降りるとすぐ、メイドや下男が出てきて荷物を運んでくれた。馬車も、馬丁の先導によって移動させられていく。


 久方ぶりの実家に深呼吸してから、一歩入る。


「お久しぶり、お姉様」


 弾けるような笑顔で、わたしを迎えてくれたのは、カーテだった。



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