表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/48

第二十一話 兎の言い分(2)

 沈黙を破ったのは、ジーグルトだった。


「狐族の少女を、こちらで引き取ろう。監禁するぐらいだ。そちらでは、持て余しているのだろう?」


「いいですけど……。彼女は幼いので復讐派には加担していなかったと言っていますが、事実かどうかわかりませんよ」


 ヘンゼルは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。


 狐族に騙された傷は、深いようだ。


「こちらには猫族もいるし、狼族もいる。そう簡単に、おくれは取らないさ。直接、話を聞きたい。連れてきてくれないか」


「……わかりました」


 ジーグルトの提案にうなずき、ヘンゼルは立って奥に向かっていった。


 この建物のなかに、狐族の少女もいるみたいだ。


 しばらくして、ヘンゼルは少女の手を引いて戻ってきた。


 オレンジ色の髪と、灰色の目。まだ、十歳ぐらいだろうか


 彼女は戸惑った様子で、先に座ったヘンゼルにうながされて、彼の隣に座った。


「彼女は、ギーゼラです」


 ヘンゼルに紹介されると、ギーゼラはわたしたちを見渡した。


「ギーゼラ。知っていたら、教えてほしい。復讐派は、どうして反対派を殺したのだ?」


 ジーグルトの直球の質問に、ギーゼラはうつむいた。


「化けた狐を見破れるのは、狐だけだから。兎族も殺して、自分たちがいたという証拠をなくしたかったみたい。これは、あたしが大人たちの話を盗み聞きして、知った情報」


 何度か尋問されているのか、ギーゼラの回答はなめらかだった。


「あなたの知ってる復讐派は、何人?」


 わたしは手を挙げて、できる限り優しい声で問いかけた。


「ふたりだよ」


「たった、ふたり?」


「うん。ふたりの名前は、カタリナとクリストフ。ふたりは、夫婦。狐族が滅びたときに、子供を殺されたことをずっと恨んでいたの」


「まあ……」


 わたしは思わず、眉をひそめた。それは、恨みたくもなるだろう。


 といっても、彼らの復讐を肯定できるはずもないが。仲間を殺し、助けてくれた兎族も襲ったなんて――。


「ギーゼラは、そのふたりの仲間ではないわよね?」


 わたしが確認すると、彼女は力強くうなずいた。


「あたしのお父さんとお母さんは、あのふたりに殺されたもん。あたしが仲間なはずないでしょ」


「……そうね。ギーゼラ。あなたは、ヴァイスヴァルト辺境伯の名において、わたしが城で保護するわ。その代わり、カタリナとクリストフを捜すのに協力してちょうだい。異論はない?」


「うん。ここにいても、閉じ込められて疑われるだけだし」


 ギーゼラはヘンゼルを横目で見つつ、答えた。


「決まりね。ヘンゼル、彼女はうちで保護するから連れていくわ」


「僕は結構ですが――本当に、大丈夫ですか? ギーゼラが嘘をついていないという証拠はないのですよ」


「このぐらいの年齢の子が親を殺された相手に協力するなんて、無理よ。ましてや、ギーゼラは……十歳ぐらい?」


 わたしが問うと、ギーゼラは「九歳」と答えた。


「九歳なら、狐族の襲撃も知らない年よ。この子には人間を恨む理由が薄いし、兎族の村で生まれ育ったなら愛着があったでしょう。それに、カタリナとクリフトフ側も、子供を仲間に引き入れる理由がないと思うわ」


 わたしがギーゼラを信頼する理由を説明すると、ヘンゼルは渋々といった様子でうなずいた。


「あなたが納得しているのなら、ギーゼラを引き渡します。ですが、責任は取れませんよ」


「わかっているわ」


 こうして、わたしたちはギーゼラを連れて山を下りることにした。


 


 今は不自由していないが、いずれ猫族を訪れることもあるだろうとヘンゼルは言っていた。


 しばらくは用心して、集落を分散させておくらしい。


 わたしは行きと同じようにジーグルトの上に乗って、下山した。


 降りてきたわたしたちを見て、待機していた騎士たちが安堵の表情を見せる。


「お待たせ。さあ、帰りましょう。ユリアヌス、ギーゼラはあなたの馬に乗せてちょうだい」


「……わかりました」


 ユリアヌスは一瞬の間を開けてから、答えた。


 何か思うところがあったのかもしれないが、顔には出さずにギーゼラを先に馬に乗せ、彼女の後ろに飛び乗っていた。


 わたしも馬に乗り、騎乗したジーグルトと並んで馬を走らせた。




 猫族の村でミヒャエルと別れ、城へと向かう道中で、狼族の大半と別れた。


 ジーグルトとディートリヒは城まで送っていくと言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。


 城の前で、出てきた馬丁に馬を託してから、馬を降りたジーグルトに、スカートをつまんで一礼する。


「ジーグルト、今日はありがとう。大きな収穫だったわね。狐族を見つけられたし、兎族も被害があったとはいえ、大部分は避難できて無事だったようだし」


「君の言うとおりだ。獣人のことを気にかけてくれてありがとう、エヴェリーン。次に会うのは、王都行きのときになるだろうが……もし何かあれば、いつでも呼んでほしい」


「ええ。ありがとう」


 わたしが手を差し出すと、ジーグルトはしっかりと手を握ってくれた。


 その手の温かみを愛しく思う。


「それでは、俺たちはこれで。騎士団長も、今日は協力してくれてありがとう」


 ジーグルトが馬のあぶみに足をかけながら礼を述べると、ユリアヌスはぎこちなく「いいえ」と言っていた。


 ジーグルトとディートリヒが去ったあと、わたしは城に入ろうとしたが――


 マクシミリアンが走って出てきた。


「エヴェリーン様、大変です!」


「どうかしたの?」


「ヒルダが、いなくなりました!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ