第二十話 兎族をさがして(2)
ユリアヌスと騎士五人に囲まれ、わたしとジーグルトとディートリヒは馬を走らせる。ディートリヒは、廊下で待っていたらしい。
馬を走らせていると、途中で狼の群れが合流した。
黒い狼もいる。
「あれは――ハイデかしら」
「そうだ。ハイデ!」
ジーグルトが手をあげると、狼姿のハイデはぷいっとそっぽを向いてしまった。
「あら。けんかでもしてるの?」
「いや。あいつが、一方的に怒っているんだ。兎族の捜索に人間を連れてくるなんて、と……あいつは反対していたから」
「そう……。ハイデは、人間が嫌いなの?」
「好きではないようだ。狼族も、一枚板ではなくてな。今は特に、辺境伯一家殺害の犯人にされているわけだし」
「たしかに、疑われていたら面白くないわよね」
わたしはハイデの黒い背中を見つめていたが、彼女はずっと先に行ってしまった。
ほどなくして、猫族の村に着く。
わたしの肩に載っていたコルネールが飛び降りて、人型になる。
コルネールの人型を見るのは、久しぶりだ。
コルネールは、家に入ってミヒャエルを呼んできてくれた。
「やあ、皆さん。今日はよろしく」
ミヒャエルは愛想よく挨拶したが、やはりユリアヌスは不満そうに「よろしく」と言うだけだった。
彼を小突いてやりたいところを我慢して、わたしはミヒャエルに挨拶する。
「よろしく、ミヒャエル。コルネールには、お世話になってるわ」
「弟が、よくやっているようで何より」
ミヒャエルは微笑み、猫族のひとが厩舎から連れてきた馬にまたがった。
闇雲に捜しても、兎族は見つからない。
そのため、猫族の魔法を使うことになっていた。
ミヒャエルは黒い手巾を懐から取り出し、それを広げた。
黒い手巾には、白い髪が載せられている。
「それは……兎族の髪?」
わたしは、思わず問いかける。
「そのとおり。前にも言ったように、何かあったときのために髪をもらっていた。基本的には使わないでくれと言われていたが、今は緊急事態だから仕方ないだろう。この髪を使って魔法で兎族の居場所を突き止められる。……この髪の持ち主が生きていれば、だが」
ミヒャエルの言葉にゾッとしている間に、彼は呪文を唱えた。
黒い手巾が、黒い蝶に変わる。
蝶は、ひらひらと舞い、ゆっくりと村を横切っていく。
「それでは、皆様。あの蝶を追いましょう。蝶が飛んでいくということは、髪の持ち主は生きている。幸運なことです」
黒い蝶は大森林を抜け、山岳地帯に入っていった。
よく訓練されている馬とはいえ、山道を登るのは一苦労だろう。
身軽な狼たちは、先に山に入って走っていく。
「ここから先は、俺も狼の姿で行こう。エヴェリーン、俺の上に乗れ。馬より安定するし、君の乗り方だと山道では危なっかしい。落ちたら大変だろう」
ジーグルトは馬から降りて、狼の姿に変身した。
ミヒャエルも同じように、猫の姿になる。
「わかったわ。でも、いいの? 乗っても」
「もちろん。乗り心地は保証しないがな」
ジーグルトが笑い声を立てるのを聞いて、わたしは馬から降りて、ジーグルトにまたがる。
首の後ろの毛を痛くないように、つかむ。
「ユリアヌス、あなたはどうする?」
「俺は、徒歩でいきますよ。遅れるかもしれませんが。ふたり、ここに残って馬を管理しろ」
降り立ったユリアヌスが命令すると、騎士のふたりがうなずいていた。
その他の騎士は馬から降りる。
「仲間たちよ。騎士たちを先導しろ」
ジーグルトの命令に、狼たちはうなずく。
「いつかみたいに、遠吠えで返事をしないのね」
わたしの言葉に、ジーグルトは振り向いて目を細めた。
「兎族は警戒心が強いからな。遠吠えで怯えられてはいけないと思って、今回の出発前に遠吠えは厳禁だと通達してある」
なるほどね、とつぶやいたところで、一行は再び歩みを再開した。
わたしが振り向くと、馬と残された騎士ふたりがどこか不安そうに見返してきた。




