表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/48

第十九話 夜会(3)



 西の塔に行くと、いつもわたしが待っている場所でジーグルトが、壁にもたれていた。


 窓から差し込んだ月光が、彼の秀麗な顔を浮かび上がらせている。


 足音で気づいたのか、ジーグルトはわたしを見下ろし微笑んだ。


「よく来てくれた。すまない、疲れているだろうに」


「いいのよ。どうかした?」


「伝えたいことがあってな。……未だに猫族の村に、兎族が訪れないらしい。これだけ来ないとなると、最悪の想定もしないといけない……と、猫族のミヒャエルが言っていた」


「最悪の想定って、何?」


 わたしは眉をひそめた。


「兎族が滅んでいる可能性だ」


「うそでしょう!?」


 大きな声を出してしまい、わたしは慌てて片手を口に当てる。


「でも、兎族も猫族や狼族ぐらいの数はいるはずでしょう? それが滅ぶって……」


「狐族が兎族を攻撃したら、兎族は負ける。どのぐらいの狐族が、兎族に保護されていたかは知らないが……。兎族は、兎のように足は速いが、力は強くない。魔法も、猫族ほどは使えない」


「でも、恩を仇で返すようなこと、するかしら?」


「わからない。辺境伯を殺した狐が、兎族の集落を出る前に滅ぼしていったのかもしれない」


「たったひとりで?」


「一族を滅ぼすなら、ひとりでは無理だ。複数、いたのだろう」


「でも、一体どうして……」


「考えられる理由は、証拠潰しだ。兎族の集落には、猫族に頼めばたどり着ける。犯人の狐――いや狐たちは、仲間を警戒したんだろう」


 そうか。狐を見破れるのは、狐だけだから……。


「でも、狐の生き残りはそんなにたくさんいないはずよね? それでも、兎族を滅ぼせるわけ?」


「これも推測でしかないが――狐は、兎族の誰かに化けたんじゃないだろうか」


「え? でも、獣人には化けられないって」


 わたしが戸惑うと、ジーグルトは狼の姿に変身した。


「獣人なら、こういう風に証明できるという話だ。兎族が狐族を警戒していなかったら、化けられてだまし討ちされてもおかしくない」


「そっか。兎族の人型に化けて、内部から攻撃していったなら――少人数でも、可能なのね」


「そういうことだ。だが、ミヒャエルも俺も兎族が絶滅したとは考えていないし、狐族のなかでも兎族を裏切ったのは一握りだろう。猫族に接触しないのは、警戒してどこかに隠れ住んでいるのだろうと考えている。そこで、俺とミヒャエルは兎族を捜索することにした」


 ジーグルトは人型に戻って、わたしを見つめた。


「わたしも、一緒に行っていい?」


 問いかけると、彼は渋い顔になった。


「あまり賛成できないな」


「でも、危険な狐族は、兎族のところにはいないのでしょう? 危険じゃないわ。ミヒャエルたちもいるし、あなたもいるのなら、心強いし。領主として、領民は大切にしたいの。兎族も、領民でしょう? 保護が必要なら、わたしが手を打つ必要があるわ」


「兎族は、人間のなかに行くことを好まないだろう。保護するなら、猫族の村だ。……だが、そうだな。君が行っても、いいかもしれない。領主として、兎族を気にかけている姿勢を見せることによって、兎族は君という領主を信頼するだろう」


「じゃあ、連れていってくれるのね」


「ああ。だが、出発は明日だ。行けるか?」


「準備するわ」


「わかった。朝一番に、迎えにくる」


 ジーグルトがそこで窓に手をかけたので、わたしは「待って!」と呼び止めた。


「どうした?」


「あ、あの――この前、あなたの代理で狼族の女の子が来たんだけど――あの子って、あなたの――」


「妹だが」


 答えに、脱力しそうになる。


 なんだ、妹なのね――。


 ブラコン気味の妹と考えれば、たしかに彼女の態度にも納得がいった。


 そういえば、少しジーグルトと似ていたわ。


 髪も毛並みも黒かったし。ジーグルト以外で、黒い狼を見たのは、あれが初めてだったし。


 血縁と考えれば、なるほどと思えた。


「ハイデ――妹が、何か無礼でも?」


「いえ、とんでもないわ。伝言を預かってくれてありがとう、と伝えておいて」


「ああ。それでは、また明日」


「ええ、また明日!」


 ジーグルトは今度こそ、窓からひらりと飛び降りてしまった。




 わたしが西の塔を出ると、うしろから猫姿のコルネールがついてきた。


「マクシミリアンが捜しにきてたよ。僕が結界で、見えないようにしてあげてたけどさ。声も聞こえにくくしていたから、気づかず引き返してたよ」


「ありがとう、コルネール」


 わたしはコルネールを抱き上げて、廊下を歩く。


 天鵞絨のような毛並みの頭を撫でると、コルネールが喉を鳴らす。


 マクシミリアンが、向こうから走ってきた。


「エヴェリーン様、どこにいたんですか!?」


「な、中庭で散歩していたの」


「中庭にも、捜しにいったのですが」


 マクシミリアンは、不審そうにわたしを見る。


「入れ違いになってしまったのよ」


 西の塔でジーグルトと会っていることを言いたくなくて、わたしは苦しい言い訳をした。


「……ご無事なら、別にいいのですが。もう、湯が冷めてしまっていますよ。もったいないですが、入れ直してもらいましょう」


「ごめんなさいね、お願いするわ」


 ぬるま湯でも平気と言いたいところだが、さすがに寒さの厳しいヴァイスヴァルト辺境伯領で、ぬるま湯で湯浴みをしたら風邪をひくこと間違いなし。


 そんな危険はおかせなかった。


 明日、捜索に同行するのだし。


 そうだわ、マクシミリアンにも言っておかないと。


「あのね、マクシミリアン。明日、獣人族のところに出かけるわ。朝一番に、ジーグルトが迎えにきてくれるから」


「なぜ、獣人族のところに?」


 理由を問われ、わたしは迷う。


 マクシミリアンが狐でない、という可能性がない以上――言うのは危険だろうか?


 でも、どうせユリアヌスに同行してもらわないといけない。ユリアヌスは明日、嫌でも事情を知るのだから、ユリアヌスからマクシミリアンにも伝わってしまうだろう。


「実は――兎族の行方が、わからなくなっているらしいの」


「兎族?」


「ええ。だから、わたしも領主として捜索に参加するの。今、急ぎの書類はないから、行っても大丈夫よね?」


「大丈夫ですが――」


 マクシミリアンは何かを言いかけて、口をつぐんだ。


 ユリアヌスみたいにハッキリ言わないけれど、マクシミリアンもわたしが獣人に入れ込んでいることに対して、面白くないと思っているのだろう。


「かしこまりました。ユリアヌスにも、声をかけておきましょう。騎士を何名か選抜し、準備をしておくように伝えます」


「ええ。お願いね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ