第十八話 夜会準備
翌日、わたしは午前の執務中に話を切り出した。
ユリアヌスもいたので、ちょうどいいと思ったからだ。
「王都に、ジーグルトを連れていく? だめに決まってるでしょう」
予想通り、ユリアヌスは許可を出さなかった。
マクシミリアンも、眉をひそめている。
「わたしには、王都に敵がいるの。心強い味方を連れていきたいの」
「あなたのことは、俺が守りますよ。当然、同行しますので」
「ごめんなさいね、ユリアヌス。あなたを信頼したい。でも――あなたが狐でないという証明ができない」
わたしの一言に激高したように、ユリアヌスは怒鳴った。
「また、その話ですか!? 狐、狐って――。あなたは、ジーグルトに騙されているんだ。犯人は、狼だ!」
「ユリアヌス、落ち着いて」
マクシミリアンがなだめても、ユリアヌスは引かなかった。
「お前も疑われているんだぞ!? そうでしょう? エヴェリーン様!」
確認されて、わたしは小さくうなずく。
マクシミリアンは、絶望したような表情になった。
わたしの仕事は、マクシミリアンなしには進まない。彼に頼りっぱなしだ。
それでも、彼が狐ではないとは言い切れないのだ。
「俺やマクシミリアンが狐なら、周囲の誰かが気づいているはず! ひとが入れ替わる、ってそういうことなんですよ!?」
「……わかっているわ。本当に、わたしはあなたやマクシミリアンを頼りにしている。信じたい。でも、無理なの。狐という可能性がある以上は。理解してほしい。だからこそ、ジーグルトの同行を許可してほしいの。狐は獣人には化けられない。ジーグルトは獣人で、わたしの目の前で変身した。彼だけは、狐でないことが証明されているの」
わたしが言いつのると、ユリアヌスは肩を怒らせて扉のほうに向かった。
「ユリアヌス!」
わたしが呼び止めると、彼は
「好きにするといいですよ。どうせ、あなたのほうが立場が上なんだし。あなたの命令とあれば逆らえないですから」
と言い残して、出ていってしまった。
扉が、けたたましく閉められる。
わたしは席に座ったまま、マクシミリアンを見上げた。
「ごめんなさい、マクシミリアン」
「いえ……。それより、王都には絶対に行かないといけないのですか? 報告なら、手紙でもいいのでは?」
「言ったでしょう。わたしには、呪いがかけられているの。呪いを解くためには、王都に行かないといけないのよ。今度の、陛下の誕生日式典に出席するわ」
「招待状も、来ていないのに?」
それを突かれて、わたしはうなだれる。
「行くわ。何かの理由がないと、王都に戻れない。わたしは、王に派遣された辺境伯なのだから。だからこそ、招待されていなくても、式典に出席するという名目で王都に帰るの」
「…………」
どう声をかけていいのか、わからないのだろう。マクシミリアンは、しばらく沈黙していた。
「さあ、書類の続きをやっつけましょう。次にサインするのはどれ?」
わたしが明るい声を出すと、マクシミリアンは書類を一枚机に置いた。
それに目を通し、サインをしているわたしに、マクシミリアンが遠慮がちに声をかける。
「エヴェリーン様。実は、領地内の貴族が、エヴェリーン様が挨拶に来られないことに不満を抱いているようです」
「領地の、貴族が? そっか、そうよね……」
忙しくて、すっかり忘れていた。
「獣人を訪問するのに、我らを訪問しないのか――といった声も」
わたしが獣人の村を訪れた話は、どうしてか広まったらしい。
「でも、貴族の家を一軒一軒訪問して挨拶しにいかなくちゃいけないの? 普通は、反対でしょう? 新しい領主の元に挨拶にくるのがマナーでは?」
別に、わたしは傲慢なことを言っているつもりはなかった。
立場的には、わたしはこの領地で一番上だ。
わたしが挨拶して回るのは、変な話だ。
獣人たちを訪問したのは、突き止めたいことがあったからだし。
「ええ、エヴェリーン様の仰るとおりです。ですが、このままでは不満は収まらないでしょう」
「わかったわ。近々、夜会を開きましょう。そこに、ヴァイスヴァルトの貴族を招くの。マクシミリアン、名簿を用意して。手紙を書くわ」
「かしこまりました。夜会を行うには、少なくない経費がかかりますが、よろしいですか」
「背に腹は変えられないわ。貴族を満足させないと、統治に支障が出る。伯父様に借りたお金、まだ余っているはずよね? それで充当して」
「はっ。エヴェリーン様のドレスは新調しますか?」
「いいえ。持ってきたドレスで出席するわ。大体、今から仕立てていたら間に合わないわよ」
「承知しました。では早速、名簿を作ってきます」
「お願いね」
マクシミリアンを見送り、わたしはどっと疲れて椅子の背もたれに体重を預けた。
付き合い、面倒くさい。
だけど、これが貴族というものなのだった。




