第十七話 逢瀬(2)
そのとき、窓から風が吹き込んでわたしやジーグルトの髪を乱した。
思わずジーグルトの髪に手を伸ばすと、彼もわたしの髪に触れたところだった。
それがおかしくて、笑いたくなる。
でもできないから、涙をこぼす。
「エヴェリーン? どうして、泣いているんだ?」
ジーグルトはわたしの髪を撫で、ほおを濡らす涙を指で拭ってくれた。
「笑えないのが、悲しくて」
「……きっと、呪いは解ける。大丈夫だ、エヴェリーン」
「大丈夫じゃないわ。きっと、わたしに呪いをかけたのはカーテなのよ!」
わたしは叫び、ハッとして片手で口を覆った。
大声をあげてしまった。誰か来るかもしれないと心配したけれど、コルネールが魔法をかけてくれているから大丈夫だろうと思い直す。
「カーテ? 誰だ?」
問われたので、わたしは「妹よ」と答える。
ジーグルトは、「ああ」と心得たようにうなずいて、気まずそうな表情を浮かべた。
彼も、町中であの劇を見たのだろうか。
「わ、わたし……カーテのこと、ずっと大事にしてた」
「うん」
「お父さんは貴族だったけど、わたしはそんなこと知らなくて。庶民の間で育った。マナーなんて、なんにも知らなかった。伯父様……公爵は、厳しくわたしをしつけたわ。でも、カーテには甘かった。わたしは、それはだめだと思った。カーテもマナーやルールを知らないと、貴族の間でやっていけないと思ったの」
わたしは、涙を流しながらとうとうと語り続けていた。
「貴族の会話は、ひどいものよ。常に裏があって、裏を読まないとなめられる。踏みつけられるぐらいなら、踏みつけるような立場になりなさい。出し抜かれるより、出し抜くほうになりなさい、ってわたしはカーテに教えた。そしたら……カーテは、そのとおりにしたのよ」
カーテは、何も間違っていない。
出し抜いた相手が、わたしだっただけ。
カーテはきっと、オトフリート様がわたしにはもったいないと思ったのだろう。
そこでわたしはハッとして、ポケットから取り出したハンカチで涙を拭った。
無表情で泣いているなんて、きっと不気味だろう。
「ごめんなさい」
ジーグルトから離れようとしたとき、反対に腕のなかに閉じ込められた。
「放して、ジーグルト」
「君が泣いているから、放さない」
そう言われたら、涙を止めることなんてできなくて。
わたしは彼の胸のなかで、思い切り泣いた。
しばらくして涙が止まって、わたしは彼の腕から抜け出る。
「ごめんなさい。わたし、呼び出した挙げ句に、こんな……」
「いいよ。それに、そんなに謝るな。エヴェリーン。今日だけで、何回も謝りすぎだ」
「……そ、そうかしら」
「ああ。では、そろそろ俺は行くよ。君もあまり長いこと、ここにいたら捜されてしまうだろう。でも、この塔はいいな。会うのにぴったりだ」
「ええ。そうでしょう? コルネールが見つけてくれたのよ」
「彼は優秀だな。じゃあな、エヴェリーン。また、いつでも呼んでくれていい。俺が行けないときは他の狼に行かせるから、伝言を託してくれ」
「わかったわ。――おやすみなさい」
「おやすみ」
ジーグルトは来たときと同じように、飛び上がって窓から抜け出る。
心配になって見下ろす。
彼はひらりと着地して、狼に変身し、草地を駆けていた。




