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あぁ、無味、無為、無情  作者: 東東
2/7

 ──どうしてお父さんは、味がしないの?


 家で何の味もしないことは、物心ついた時から当たり前のことだった。

 でも味が感情だと気がついて暫く経てば、当然のように抱くのは家での無味、或いは父親の無味なのだ。一度たりとも何の味もしないことが、不思議で仕方がない。

 だって、他の人は味がしたから。味がしない人なんて、他にいないから。

 薄いか濃いか、味がする時もあればないこともある。でも、一度たりともしない人なんて他にはいないのに、父親からは一切の味がしない、それが子供心にとても不自然な気がして・・・、でも、もう聞けなかった。聞ける、わけがなかった。


 他の誰からされるより、父親から『おかしな子』というレッテルを貼られることは、辛いことだったから。


 だからそういうレッテルを貼られないように、このことは口に出さなかった。その為、どうして味がしないのか、本人に心当たりを問う機会もなく、日々は流れる。

 そうして流れている間に、俺は気がつけば幼いという事実を通り越した甘党になっていて、父親に一応、控え目にではあるが甘い物を欲する機会が増えていく。


 甘い物、甘い味、それは『好意』と同じ。


 口に広がれば、それは誰かの好意だった。俺に向けられる数少ない機会もあったし、それ以上の圧倒的な機会として、他の誰かが思われていることの方が多かったけれど、この味がした時に辺りを見渡せば、必ず誰かを思う人の姿がそこにはあった。

 幼い俺は単純にその姿に幸せを見たし、幸せなものを見れば当然のように自分も幸せな気がしてきて・・・、だから甘い味を好む傾向が幼さや個人の嗜好を飛び越え、強まっていったのだろう。

 長じて、その傾向の所為で『スイーツ凡人』という、結構な不名誉な渾名がつくなんて夢にも思わずに。

 しかしそういった、甘さに傾倒していく日々を重ねていく延長上で、新たな変化が訪れるのも早かった。まるで、俺が味に関して疑問や相談を口に出来なくなった頃を見計らったかのようなタイミングで、ソレは訪れる。

 勿論、本当はもっと早く変化は訪れていたのだ。ただ、幼い俺にその変化が告げられるタイミングが計られ、その計ったタイミングが偶々、あの時になっただけで。

 ある日、本当に何の前触れもなく、唐突に・・・、父が自宅に、一人の女の人を連れて来たのだ。

 一度として会ったことのない人。綺麗に化粧をして、綺麗に髪を纏め、それまでの俺の生活ではあまり近づくことのなかった白いブラウスに落ち着いた緑のフレアスカート、それにブラウンのハイヒールを履いた、女の人らしい女の人。

 女の人といえば、動きやすい格好をした保母さんや他の子供の母親達以外関わったことのない俺は、玄関で遭遇したその人に最初から結構な勢いで色々気圧されていたのだと思う。

 挨拶しなさい、と父親に言われても、その言葉が上手く咀嚼出来ずにただ立ち尽くすくらい、その人は俺とはかけ離れた存在に思えて、にっこり微笑んでその女の人が『初めまして』と挨拶してきても、それから再び父が挨拶を促しても、やっぱり何も言えないくらい動揺甚だしく。

 ただ俺が動揺することは織り込み済みだったのか、父もその人も、それ以上俺に挨拶を強要することなく、リビングに移動して・・・、そこで父は、良くも悪くもあっさりしたいつもの口調で、唐突過ぎる事実を突きつけられたのだ。


「今日からこの人がお母さんだから」と。


 ・・・今思えば、なんて捻りのない台詞なんだとか、こんなにドラマか小説通りの台詞を口にする人間がいるのかとか、思うことは多々あるのだが、その時の俺がそんなことを思えるはずもなく。

 その時まで、俺には『お母さん』という単語自体に馴染みがなく、そして今思えば不思議だが、周り中、『お母さん』がいる状況下で、自分に母親がいないことを不満に思ったことすらなかった。

 諦めていたとか、我慢していたとかですらない。本当に、母親がいないことを一切意識していなかったのだ。それくらい、父親と二人の生活が当たり前すぎて。

 それなのに突然の母親出現。しかも会ったばかりな上に、全然馴染みのない、女の人らしい格好をした女の人。

 理解は全く追い着かず、疑問符は脳内を乱れ飛び、瞬きの回数だけを増やしながらただ父親と、その隣に並んでいる女の人を見上げていた。たぶん、馬鹿みたいに口を開けて。

 何も言えないでいる俺を、父親がどう思って見下ろしていたのかは分からない。あまりにパニックになりすぎていたのか、頭が真っ白になっていたのだが、そのパニックになって何も分からないでいる最中、それでもふいに口の中に広がった味と、その味を感じた瞬間、俺の目が何を映していたのかだけは覚えている。

 俺を大人二人が見下ろしていた時には、何も感じなかったのに。


 くっきりと広がった、どこか硬い甘み。


 あまり感じたことのない甘みを覚えたその時、父親は隣に並ぶ女の人、今の母である人を真っ直ぐ見つめて、ただその人に俺のことを話していた。

 それまでも、今に至るまでも見たことのない、何かを強く訴えるような眼差しを浮かべて。


 ・・・今でも、よく考える。あの時の甘みは、食べ物で喩えるなら一体何が一番近いのだろう、と。


 俺を見ている父親からは、甘みを感じたことがない。それどころか、他の誰かに対している時も、甘みは勿論、他の味も感じたことがない。そんな父にあの時、母に向いて話しかけていた時にだけ感じた甘みを何で喩えればいいのかが、いまだに分からない。

 あの時の記憶の中で、一番鮮明なのはその味と父の眼差し、表情だけで、話している内容も殆ど朧気なほどなのに、それだけ覚えている味を表現する方法がどうしても見つからなくて。

 べつに見つけたからといってどうなるというわけでもないとは思うのだけれど・・・、それでも探してみたいのは・・・、たぶん・・・、俺は俺なりに、父親を父親として慕っているからなのだろう。

 気恥ずかしくて絶対に誰にも言えないけれど、だからなのだと思う。探してしまうのは。探して、見つけたとしても何一つ解決することはないのに。


 俺のことを見て、甘い味がすることのない父親の、甘い、味。


 俺のお母さんになるということは、つまり父親の奥さんになる、ということで、勿論、父が好きだから奥さんにするわけで。

 あの甘い味が、その証拠。でも息子である俺には、あの味がしない。


 あの味が、しない。


 はっきりと自覚したのは、たぶん、少し経ってから。あの瞬間は混乱していたし、母親を交えた新しい生活に馴染むのにも時間がかかったから。でもずっとどこかで引っ掛かっていたそれが、落ち着いた頃、すとんと胸に落ちてきたのを覚えている。

 音でもしそうなほど、はっきりと。

 俺のお母さんは、俺を産んで死んだ。俺を産んだ直後じゃないらしいけど、産んだすぐ後に体調不良で亡くなったということは、つまりそういうことなのだろう。

 俺の所為だとか言われたわけではないし、べつに俺だって深刻にそんなことを思っているわけではないし、父親に何か冷たい態度を取られたわけもないし、何か父親が俺に対して含みがあるとも思えないし、思ってもいない。


 ・・・ただ、あの味がしない。甘い、味が。喩えるものが見つからない、甘い味が。


 嫌われているわけじゃない。疎まれているわけでもない。ただ、甘い味がしないというだけ。誰かが誰かを好きだと思う時に感じているあの甘みが、俺に対してはないだけ。

 子供は親を選べない。・・・でも、きっと親だって子供を選べないのだから、仕方ないんだと思う。奥さんは自分で選べるのだから、きっと当然なのだ。

 その最初に選んだ奥さんである俺の実母が死んだ後、それでも俺を疎まずに育ててくれているのだから、それだけでも感謝するべきなのだろう。疎んでいるような味すらせず、淡々と、ちゃんと育ててくれているのだから。

 そう思えば、何も辛いことはなかった。もし、これで四六時中、母がいるところで甘い味がしていたら流石に少し落ち込んだかもしれないけど、父はあの時以来、特に母を見てもあの甘みを発することはなかった。母の方は、時々やたらと甘い味をさせているのに・・・、父はたった一度だけの甘み。一度しか感じないことは不思議だったけど、一度だけだった、という現実がまた、俺を支えてくれているようにも思える。

 たぶん、元々感情の起伏が少ない、淡泊な人なのだろう、という認識になれたから。

 そうしてどうにか自分を納得させて、新しい日常を暮らし始めて少しして・・・、急激に、また暮らしは変わり始める。


 弟が、出来たのだ。


 父と母から告げられてようやく気がついた母のお腹は、多少、膨らんでいた。それから急激に大きくなり始めた腹を抱えて、母はそれでも俺や父の世話を色々焼きながら日々を過ごし、やがて出産を迎え、弟を抱いて家に戻ってきた。

 母に抱きかかえられた赤ん坊は俺にとっては未知の生命体で、人間未満、自分と同じ生き物だとも思えなかったのだが、それでもどんな見た目をしていても俺の『弟』という存在である、という事実は不思議なほど俺の中に最初から強く刻みつけられていて。

 触ってみるかと聞かれておずおずと伸ばした手で触った頬や、掴んでみたまだ骨が出来上がっていないのではないかと思うほど頼りない、小さな指の感触を今でも覚えているくらい、その体験は俺にとって事件に等しかったのかもしれない。たぶん、嬉しい方の事件に。

 弟の誕生を心待ちにしていた覚えはなく、そもそも弟が出来るという感覚すら遠かったし、母の膨らむ腹はただ不思議で、あまりに膨らむからいつか爆発でもするんじゃないかという期待にも似た危惧しか抱いていなかったというのに、実際に生まれて引き合わされた瞬間にそういう心境になるのだから、人間は不思議なものだと思う。

 自分でもよく分からない心の動き。自分の感情の味は自分では確かめられないのだと、その時初めて思い至ったこともよく覚えている。そんなことどうでもいいと思うくらい、目の前の『弟』という存在に意識が持っていかれていたことも。


 ・・・でも、その赤ん坊から味を感じることはなく、ついでに言えば、その赤ん坊が成長している今に至っても何の味もしないのだった。


「きっと、親父に似たんだよな・・・」と思わず洩らしてしまってから、我に返ったように辺りを慌てて窺ったのは、当の弟が在宅中なのかどうかを確かめてなかったから。

 最初に玄関の中、いつも履いている靴がないことを確認してから耳を澄まし、自宅から何も物音がしないことを確認すると、脳裏で今日の弟の予定を思い浮かべる。

 勿論、もう中学生になった弟のスケジュールを全て把握しているわけじゃない。ただそれでも、遅くなる日や何か特別な用事がある日は頭に入っているし、毎朝、家を出る前に今日は遅くなるのか等、さり気なく予定を聞くようにはしているので、大体帰宅時間は頭に入っていて。

 これを言うと、人によっては良いお兄ちゃんだね、と言われるし、場合によっては過保護な兄貴だな、と言われる。後者であってもべつに非難の意味はないのだろうが、俺にしてみたらどちらも間違いで、しかしじゃあどうしてそんなに弟を気にするのかと聞かれたら微妙に話しにくい部分もある所為で、下手に否定も出来ないでいる。

 ただ弟が可愛いからとか、大事だからとか、それが言えなくても単純に家族なんだから当然だ、くらいのことが言えたらよかったのだけれど、そうではないから過大評価に近いそれを否定も出来ずに、貰いすぎている良い評価をどこにも返上出来ないでいた。


 可愛いか可愛くないかと聞かれたら、俺にとって弟は可愛い。

 大事か大事じゃないかと聞かれたら、俺にとって弟は大事。


 ただ、俺にとって弟は、罪悪感の塊でもあって。


 思い出した弟の予定は、今日の帰りが多少、遅い事実を告げていた。

 そのことにくっきりとした心配とはっきりとした安堵を感じるのは、罪悪感と、最近発生した新たな問題に対してどうしたらいいのかが分からない不安が入り交じって成せる技というヤツだろう。

 今までは、罪悪感だけで済んでいたのに。勿論、罪悪感も辛いは辛いのだけれど。


 だって、弟がいまだに一度も何の味もしないのは──、俺の所為かもしれないから。


 靴を脱ぎ、玄関から上がり込みながら思う。今まで幾度となく思っていたことを、今日もまた、思う

 確かに、父親もあの時一度だけしか味がしたことがない。そして弟は見た目は母親似だけど、中身は間違いなく、父親似だ。だから味があまりしないこと自体はに納得・・・、まではしていないが、まぁ、親父に似ているからな、ぐらいで済ませられるのだけど、今もって一度もしないというレベルである現在にそれで納得出来るのかと聞かれれば、出来るわけもなく。

 だって親父は俺が物心ついた頃から大人だった。大人はある程度感情を制御出来るものだろう・・・、たぶん、親父ほどじゃなくても、まぁ、ほどほどには出来る・・・、はず。

 でも、弟は子供なのだ。俺より四つも下で、しかも生まれた頃から一緒にいて、それなのに一度も味がしないってどうなのか? 絶対おかしい、というか子供なのに強い感情がないって、それは病気レベルなんじゃないのか?

 そして病気レベルの異常事態だとするなら、その理由には心当たりがあって、その心当たりがはっきりと俺の罪悪感を生み出している。


 母さんが俺のことばかり気にかけている、その現実が理由だとしか思えない。


 きっと継母であることを気にして、実子である弟より俺を気にかけているのだろうけど、あまりにもそれがあからさまだから正直俺は気が気じゃなくて。

 母さんの気遣いは有り難いけど、もう俺のことはいいから弟をもっと構って下さい、と言いたくなる。それすら言えないで、今に至っているわけだけど。

 そして言えない言葉の代わりに、俺が弟を構い続けて早十数年。とりあえず問題なく・・・、というか、俺的には味がしないという問題があるものの、表面上は少し大人しいとか、口数が少ないとか指摘はされる程度で問題なく中学生になり、俺もあとは味問題くらいで小学生低学年の頃のようにあらゆることを心配しなくなった。それで多少は安心はしているのだが、しかし味問題が残っている以上、全てを安心しきることも出来ないでいるうちに・・・、新たな問題が勃発してしまった今日この頃。

 リビングまで歩いてきて、誰もいないそこで深く、重く吐き出す溜息。勿論、いくら溜息を吐こうとも何かが解決するわけもなく、ただ虚しい自分の息が積み重なるだけで。

 テレビに面したソファーに半ば身体を投げ出すようにして座りながら、鞄を近くの床に放り出してまた溜息。何も解決しなくとも吐き出さずにはいられないのが溜息というもので、吐き出したからといって気分転換にすらならないのも溜息だ。

 ちらっと視線をやった先にはテレビのリモコンがテーブルの片隅に置かれているが、それを手に取る気にすらならない。今、リモコンを手に取って電源を入れようものなら、零しまくった溜息の上にこの場所ではないどこかで起きている事件が積み重なって、ニュースを読み上げるアナウンサーの声にいっそう心が折れてしまいそうになるからだ。

 せめて何の罪もないバライティーが放送される時間帯ならいざ知らず、ニュースばかりのこの時間帯ではどうにもならない。

 救いをテレビに求めることは早々に諦め、視線をリモコンから離して自分の膝に向け、また溜息。吐き出したその溜息の重さに引き摺られるように丸まっていく背が、たぶん今、哀愁のようなものを漂わせているのではないかという気がするが、慰めてくれる人もいなければ見てくれる人すらいないので、そんなものを漂わせても何の意味もなく。

 そうして意味のないものばかり重ねて思うのは、ここ最近勃発した・・・、いや、もしかすると俺が気がついたのがここ最近なだけで、もっと前から発生していたのかもしれない問題についてのことで、しかしいくら何かを思っても問題が発生してしまったという問題はどう考えても決定的で、それが決定してしまうなら他の何をどう考えても意味はなく。


「・・・今日の夕飯、どーしよっかなぁ」


 もう、他の問題を呟くしかない気がした。

 先ほどは何も指示されなかったけれど、ここ最近のパターンで言うなら夕飯の時間に食事が用意されることはないだろうし、そうなると自分達で適当に取ってくれ、という指示が電話できて、俺が軽く了解の返事をして何かを作る、ということになる。

 でもべつに料理が得意なわけでもない俺が、俺自身が食べるだけならいざ知らず、他の家族の分まで用意しようとするなら事前に冷蔵庫の中身をチェックして、何を作るかをある程度考えておかないとすぐに対応なんて出来るわけがない。

 その出来るわけがないことを、なんでもないことのようにさらりとやり遂げなくてはいけないのだから、これも問題の一つで。・・・というか、発生いてしまっている問題に付属して発生してしまった問題で。

 脳裏で自分が作れる料理候補を挙げてそこから直近で作った料理を削り、残った料理候補を作るのに必要な食材を思い浮かべつつ重い身体を持ち上げるようにして立ち上がり、これまた重い身体を引き摺るようにしてキッチンへと向かう。

 そして辿り着いたキッチンで冷蔵庫に直行し、何故か実際より重く感じるドアを開いて中身を確認して、先ほどから脳裏に浮かべてある候補の料理のどれかが作れるか検討して・・・。

 本当は、それ以外に検討しなくてはいけない問題があると分かっている。検討して、何か、取り返しのつかないことになる前に打てる手がないのか、もしくは取り返しのつかない事態へとこのまま進んでしまった場合、どういう対応を取るべきなのか等、山積みとなっている問題が本当に沢山ある。

 いや、問題が沢山あるというか、問題は一つなのだけれど、それに伴って複数の考えるべき点が出てきているというか・・・、あぁ、さっきも似たようなことを考えた気がするし、つまり色々ループしているわけで・・・、脳が、パンクしそうだった。というか、半ばパンクしていた。俺にはどうにも出来そうにない問題の所為で。ずっと取り組んでいる、弟から一切の味がしません問題もまだ解決していないのに、本当に、どうしてこんなに問題ばかりが山積するのか? どれも解決していないからか? だってどれも俺にはどうにも出来ない問題ばかりなのがいけないのでは?


「・・・つーか、カレーのルー、そういやあった気がする」


 当初候補に挙げていたいくつかの料理は、とても今、冷蔵庫に入っている食材ではどうにもなりそうになかった。しかし野菜室に入っているにんじんが視界に入った途端に、ふと、連想ゲームのように浮かんだカレー。微かな記憶を頼りにキッチンの下の棚を探せば、記憶の通りカレーのルーの残りが発見される。

 このルーさえあれば、後はどうとでもなる、という希望に満ちた可能性を見つけて、その途端、何かの苦行から解放でもされたかのように目の前が晴れ渡る。

 晴れ渡って、結果、見ないようにしていた問題をうっかり直視してしまう。


 ──弟の問題が解決していないのに、どうやら、母が浮気に走っているようです問題を。


 うっかり直視してしまった問題に、本日最大の溜息を一つ。続けて、もう一つ。

 零しても零しても尽きる気がしないそれらを幾つもバラ撒きながら、とりあえず今、出来ることをするべく・・・、まだ母に頼まれてもいない夕食作りに取り掛かり始めた。


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