第二話
「悪いんですが、何度言われても私は出ませんよ。」
昼間に飲んだ毒もうずいぶんと私の身体になじみ始めた夜。
私はお父様の頼みごとに対してずっとNOと返していた。
「そういわず頼む、シャーリー。王室主催のパーティーなんだ。」
困った顔でずっと懇願してくる父、アグネス・ブラッディ。
かつてブラッディ家の人間は残虐な気性から王室に「ブラッディ」という名を与えられた公爵家だった。
しかしそんなもの時間がたてばなんのその。
お父様は気が弱く頼りない感じが強い男性。
先祖の面影などまるで感じないような人で、
私のように物事をはっきりと言える子にはひどく弱い感じがする人だ。
(こんな子供相手になんて情けない、と思ってしまうけど以前の私はお父様とそう変わらなかったわね。)
あまり目立たず、口数もすくないから口喧嘩は苦手。
ただ相手に高圧的な態度を取られても冷静でいられた点は父と違う事だ。
というより以前の私はどちらかといえば無表情で冷たい雰囲気を放っているとよく噂されていた。
今のようにさばさばとした性格になったのは毒を盛られて死んだことに対して初めて自分の感情の限界を超える怒りを覚えてからの事だ。
するとあら不思議。
感情の表現の仕方が今までてんでわからなかった私が感情表現が得意になっていた。
もしかするとそれは今まで話し相手がいなかったせいで私の友達がいつも本だったというのものあったのかもしれない。
死に戻りをしてからというもの、私はよくメイと会話をするようになった。
そしてもちろん以前は話すことのできなかったリトもいる。
リトとメイが見せてくれる数々の感情表現、それがもしかすると今は子供の私にとって
いい見本にでもなってくれているのかもしれないとも思う。
まぁそんな私と頼りないお父様の事はさておいて、今はこのお父様の頼み事をどうあきらめてもらうかだ。
もちろん行きたくないのはただの我儘じゃない。
私は死に戻りのおかげで知っているのだ。
その皇室主催のパーティーで私が王太子殿下との婚約を発表されてしまうことを。
「私のことは適当に病で臥せっているとでも言ってください。絶対行きません。もしどうしても来いというのなら私は毒をもって昏睡状態にでもなることにします。」
冷ややかな瞳をお父様に向け、冷たい声で言い放つ。
子供とは思えないこの眼光と声の冷たさは子供らしさがないというのも相まって恐ろしく見えるのだろう。
お父様の表情がひどく青ざめていく。
お父様は私であれば本当にすると思ったのか以降は肩をひそめて何も言わなくなった。
「それではお父様、私はこれで。」
お父様にしっかりと貴族のあいさつをすると私はお父様の書斎を出た。
そして、大きなため息をついた。
『大丈夫か?リー。』
大きなため息を吐いたことでずっと私が気にならないよう姿を消してくれていたリトが姿を現し、
訪ねてきた。
そんなリトを見て私は笑みを浮かべながら軽くリトに触れた。
「大丈夫よ、リト。もしかしたら王太子と婚約させられるかもしれないパーティーだからどうしても行きたくなかったってだけなの。お父様もわかってくれたし、もう何も心配することはないわ。」
正直な話、以前の私はともかく、今の私は公爵家の令嬢とはいえ【毒姫】なんて言われている女だ。
婚約者候補から外れてくれることを願うしかない。
『確か王太子との婚約発表をされるかもって前に言ってたよな。嫌なのか?俺たちでいう時期妖精王みたいなもんだろ?そんな人と婚約なんてすごい事だろう?』
私の考えがわからない。
そう言いたげに不思議そうな物言いで私に問いかけてくるリト。
そんなリトを見て私はまたため息を吐いてしまった。
「リト、貴方以前の私をずっと近くで見ていたのよね?ならわかるでしょう。婚約者とはいえ私は一度も顔を合わせたことはなかったし、多分私が毒を盛られたのだってそんな顔も知らない婚約者のせいなのよ?嫌がるの、わかるでしょう?」
会ったこともない人だから王太子の人柄がどうのとかはどうでもいいし、否定をする気はない。
ただ、不思議に思うのは何故婚約者の私ですら長い間会えなかったのか。
そして何故適齢期にもなっていた以前の私に結婚式の日取りの話が出なかったのか。
いろいろ気になることはある。
でもそれは今の私ではしることのできない話だ。
むしろ知らなくていい。
知らないでいたらきっと私は今度こそ平和に生きれるだろう。
以前はお父様に言われたことは素直に従っていたけど今は違う。
きっと結婚話だって自分で見つけてこれるだろう。
そう思いながら毒花を育てている温室へと向かった。
これで私の日常はしばらくは面倒なことにはならないだろうと信じて疑わずに――――――