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零子の毎日は日常と非日常の繰り返し  作者: さぎのもりまさゆき
零子と小さな世界
4/4

ジャック・オー・ランタン

 突然あらわれたあの占い師は自分の名前をジャック・オー・ランタンと名乗った。

 恐らくというか完全にその名前は本名ではないと零子はおもった。

 今日はあのローブ姿ではなく、黒く薄い布地のコートを着ていた。そのスタイルはコートの上からでもわかるほどグラマーなものだった。

 メイクはあの濃いものではなく、どちらかといえばナチュラルなものだった。

 どうやらあの濃いメイクは商売用なのだろう。

 なかなか美人だなと零子は場違いな感想を覚えた。


「魔女って……」

 と零子は訊いた。

「そうよ、あなたと同じようにね。あなたにあげたペンダントを着けてくれていてよかったわ。ちゃんと見つけることができたわ。実はね、そこだけが不確定要素だったのよ」

 占い師ジャックは零子の形の良い胸の上に乗るあのペンダントを見た。

 小さな水晶をつけたペンダントは胸の上でゆらゆらと揺れていた。

「ここはいったいどうなってるんですか?」

 零子はジャックに訪ねた。

 ジャックが突如あらわれたことに動じない零子であった。

 もしかするとそれが魔女の血筋といものかもしれない。

「ここはね、いくつもの偶然がかさなった世界なの。私たちの流派では三千世界とよんでるの。まず一つは架空の街を精巧につくりあげた人物の情熱。そして一人になりたいという人物の願望。その二つの思いが奇跡的に重なってできあがったの」

 とジャックは言った。

 ふふふっと妖艶な笑みを漏らした。

「思いは世界を形作る重要な要素よ」

 ジャックはそう付け足す。


「あ、あのここから出ることはできるのですか?」

 突然の人物の出現に狼狽しながらも高橋は訊いた。


「結論から言うとね、できるわよ。あなたがここから出たいと思うならね。私が少しだけお手伝いしてあげるわ。私の目的は零子さんをここから救うことが目的だからね。そのついででよければだけど」

 ジャックは言った。

 その言葉を聞いて高橋は安堵の顔色になった。

 わかりやすくホッと息を吐いた。


「私を?」

 零子は訊いた。

 先日あったばかりの私にどうして。

 零子は疑問に思った。


「それはね、まあ同じ魔女の家系のよしみといったところかしら。あなたを見ていたら退屈しそうにないからね」

 とジャックは言った。


 わかったようなわからない答えに零子はただうなずくだけだった。


「僕をここからだしてくれませんか。たしかに妻に嫌気がさしいて一人になりたいと思いましたが、やはり一人は辛いです」

 と高橋は言った。

「本当にいいの?あなたの大事なものを理解できない人がいる世界だけど、それでもいいの」

 ジャックは高橋の目を見て、そう言った。

「ええ、構いません。ここで一人でいるのに正直飽きました。妻とのことはどうなるかわかりませんが元の世界に戻りたいです。それに見ていたアニメの続きが気になりますしね」

 その言葉の最後は零子も納得できるものだった。

 この世界は他者がいなくて、争いなどもおきない平和な世界かもしれない。

 自分の価値観を否定するものもいない静かな世界だ。

 だが、そのかわりなんの刺激もない世界でもある。

 人間はそのような世界ではそう長くはもたないのだろう。

 高橋の言葉を聞き、零子はそう思った。


「わかったわ、じゃあ戻してあげるわね」

 そう言い、ジャックは高橋の手を掴んだ。

 もう片方の手で零子の手を握る。

「じゃあ私がいいっていうまで目をつむっていてね」

 ジャックはそう言い、立ち上がる。

 二人はジャックの言う通り目をつむる。

 ゆっくりとジャックは歩きだす。

 二人はジャックに手をひかれ歩きだす。

「さあ、三千世界の扉よ開きなさい」

 目をつむってはいたが、目蓋の上からでもわかる光を感じとることができた。





「さあ、いいわよ。目を開けなさい」

 ジャックの声がした。

 目を開けるとそこはもとのカフェであった。

「無事に戻れたわね。良かったわ。じゃあ、またね。あなたのことはいつもみまもっているわ。同じ魔女のよしみでね……」

 ジャックはそう言うとカフェから立ち去った。

「あ、そうそう。あの男の人もちゃんとお家に帰しといたから心配しないでね」

 立ち去り際、魅力的なウインクをし、ジャックは言った。


 

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