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8.研究室

「ここ、で合ってるよな?」


 翌日の早朝、僕は地図を片手に研究室の前まで来ていた。

 研究室のある場所は、学院の寂れた旧校舎の方だった。ここでは最新設備も無いだろうし、大した研究はできないのではないだろうか?

 もしかして、僕は先輩にからかわれてしまったのだろうか?

 一抹の不安が頭をよぎった次の瞬間ーー


「ーーあの、何か御用でしょうか?」


 ーー背後から声を掛けられた。


「うわぁ!?」


 一切背後に気配を感じなかったため、僕は驚きの余り飛び上がってしまった。

 声を掛けてきたのは艶やかな白髪を持つ獣人の美少女だった。

 少女はグラディノス帝国魔導魔術学院の中等部の制服に身を包んでいたが、そんなことよりも僕の眼を引いたのは、特徴的な紅と蒼のオッドアイだった。

 物珍し気に彼女の姿を眺めていると、少し迷惑そうにその目を細めて僕を見てきた。


「あの、用がないのでしたらそこを退いていただけますか先輩?」


「え!? あ、ごめん! 一応、この研究室に用があってきたんだけど、ここって、誰の研究室なのかな?」


「はあ? 誰の部屋かも知らずに用があると? どういうことです?」


 呆れかえっている彼女の言葉に僕はぐうの音もでなかった。


「あの、クレア先輩にここに来るように言われてきたんだ」


 そう言うと、目の前の少女はあからさまなため息を吐いた。


「はぁ……、まったく勝手なことを……」


「その、すいません……」


 迷惑そうにしている彼女の姿を見て、咄嗟に謝ってしまう。気まずさから右手で頭をかく。

 少女はそんな僕の反応を見てブンブンと両手を前で振った。


「あぁいえ、先輩を責めているわけではありませんよ。まあここに用事があるというのは本当のようですし、どうぞ中へ」


 彼女はそう言って、ガチャリとドアを開けた。

 部屋の中から光が漏れ、それが目に入ったことで僕は思わず目を細める。


「う、わぁ……」


 次の瞬間、僕の口から漏れ出たのは困惑? 感嘆? とにもかくにも、ハッキリとは理解できない感情を孕んだ意味のない言葉だった。

 部屋の中には無数と呼べるくらいの蔵書と羊皮紙が大山のようにそびえ立っていた。

 明らかに外から見た部屋の容積と釣り合っていない程の広さの部屋だった。

 その奇怪な部屋の中心に座っていたのは――


「ん? ユリウスか。どうしてここに?」


「セカイ・イグレシアス先生……」


 学院最年少の魔術教授であるセカイ・イグレシアス、その人だった。

 灰色の髪を携えた彼はボロボロの書物を片手に椅子に座っていた。

 その視線は強く、強く、真っ直ぐに、僕のことを射抜く。


「あ、あの、僕は、その……」


 言葉に詰まった僕を見かねたのか、部屋に招き入れてくれた獣人の少女が助け船を出してくれた。


「あの女狐が連れてきた少年ですよ、ご主人」


 ご主人?

 不思議な呼び方に困惑するが、セカイ先生は特に動じていないことからいつもの事なのだろう。と言うか、女狐とはもしかしてクレア先輩の事だろうか?

 そんな少女に彼は苦笑いをしながら近づいてきた。


「女狐って、それは流石に言い過ぎだろう? あまり汚い言葉を使わないようにしろよ、アルマ」


「言い過ぎじゃありませんもん」


 少女はぷくッと頬を膨らませて文句を言っていた。


「クレアにここに来るように言われたのか?」


「は、はい! 昨日の夜、朝になったらここに来るようにと先輩に……」


 そう言うと、セカイ先生は軽くため息を吐いていた。


「ふぅ、そうか……。まあ、大方理由は想像つくが、取り敢えずクレアが来てから改めて理由は聞くとしよう。君を呼んだのならもう少しで来るはずだから、そこに座って待っててくれ」


「は、はい」


 言われるがままに部屋の端にあったソファに腰かけた。

 ふんわりとしたソファは異様に座り心地が良く、素人目でも高級であることが理解できた。

 目の前にあった木目調のテーブルも埃一つなく、頭上に浮かぶ照明の光を反射していた。


「先輩、どうぞ」


 コトリ、と目の前に湯気が立つ紅茶を出された。


「ありがとう……。えっと、ところで君は……?」


「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。私の名前はアルマ・イグレシアスです。よろしくお願いします」


 白髪の獣人の少女は言いながら頭を下げた。

 正直、異常なほどに顔が整っている少女だった。それこそ、クレア先輩にも負けない程に美しい顔立ちだった。


「僕の名前はユリウス・ラインフォルトです。どうぞよろしく。……ところで、先生と性が一緒と言うことは、その、先生の奥さんですか?」


 明らかに彼女と先生の年齢は親子と言うほど離れていない。先生の年齢は確か、僕と2,3才程度しか離れていないと聞いたことがある。そして先生は獣人ではないため、兄妹というのもありえないだろう。


「ぶっ!?」


「ば、ばれてしまいましたか?」


 先生は飲んでいた紅茶を吹き出した後ゴホゴホとせき込み、アルマは頬に右手を当てて、くねくねと恥ずかしがるような仕草を見せていた。


「いや何もばれてないから!? 誤解されるような事言うなよ!?」


 先生は取り乱しながらそう叫ぶが、彼女はよよよ、と泣くような素振りをしながら言い返す。


「そんな……。あの時の熱烈な告白は嘘だったんですねご主人……っ。私、悲しくて涙が出てしまいます」


「ありもしなかったことを捏造するのはやめろ!」


「え? だってご主人は私を救ってくれた時に『俺がお前の一番傍で護ってやる』って言ってくれたじゃないですか! あの時の言葉は嘘だったんですか!?」


「その言葉の前にお前が生きる道を見つけるまでって前置きがあっただろうが!」


「クッ、フフフ……」


 彼らの気の置けないやり取りを聞いて思わず笑い声が漏れてしまった。

 セカイ先生は照れたように頬をポリポリと掻いて、バツが悪そうに言う。


「みっともないところを見せてしまって悪いな」


「本当ですね。良い年した大人が恥ずかしいですよ? ご主人」


 ニヒヒと笑う彼女に対して、先生はビキリと青筋を浮かべた。


「義理とは言え我が娘ながら腹立たしいことこの上ねえ……ッ」


 先生のその言葉に、思わず反射的に聞いてしまう。


「義理の娘、ですか?」


「ん? ああ。一応な」


「あれ? でも先生の年齢って?」


「20だな」


「アルマさんの年齢は?」


「13ですよ」


「7歳差ですか……、親子って程年は離れていませんね。どちらかと言うと兄妹?」


 まあ義理だからあまり気にするような事ではないかもしれないが。

 僕のその言葉に強く反応を示したのはアルマだった。


「そうなんですよ! 私はご主人の娘だなんて認めませんからね!」


「あ~~、はいはい、どうぞご自由に」


 面倒くさそうにそう言って、彼は再び本を開いて読み始めた。

 そんな先生の態度が気に入らないのか、アルマは頬をリスの様に膨らませていた。

 そんなこんなで談笑をしていると、ノックもなしに突然扉がガチャリと開いた。


「お早うございます」


 入ってきたのは昨晩僕のことを助け、そしてこの場所に来るように言ったクレア先輩だった。


「クレア先輩」


「ユリウス君! 来てくれたんだね!」


「それは、……はい。まだ、諦めたくありませんから」


 《英雄》になることを。

 僕の言葉に、彼女はふんわりとした笑みを浮かべて答える。


「そうか」


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