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5.魔術実技

 学院の敷地内にある修練場に僕とクラスメイト達は整列していた。

 この学院は1学年4クラスに分かれており、成績が優秀な者から順にA〜Dクラスに振り分けられている。

 僕のクラスは言わずもがな、最底辺のDクラスだ。

 魔術師の正装であるローブを来た血色の悪い肌をした男性講師は僕たちを見て今日の実技内容を告げる。


「今日は魔術を標的に正確に当てる訓練を行う。使用する魔術は初級の中からならば属性も種類も問わない」


 これは魔術式をどれだけ正確に虚空に刻めるかを確認するための実技だ。雑に術式を書くと十全な性能の魔術が発動することはなく、何かしらの綻びが出る。

 狙った的に魔術を飛ばすのは一見すると簡単だが、先程の授業でも取り扱った指向性に関する術式を正確に書く必要がある。少しでも雑に描けば魔術の射出方向はズレる。仮に2,3度のズレであっても、対象への距離が開けば開くほどに取り返しのつかないズレとなるだろう。


「「術式展開(アクセスコード)」」



 同級生たちが詠唱を開始し各々魔術を放っていく。

 術式は魔力で描くものだが、術域の一部は詠唱によっても描く事ができる。術式の属性や形状等の魔術根幹となる術式は既に短い詠唱が確立されている。尤も、詠唱を用いずとも魔術の発動はすることが可能だが、本来であれば詠唱による術式とそれ以外を並列で組み上げるところを直列で組み上げるのだからどうやっても速度は遅くなってしまう。

 魔術を放つ同級生達を尻目に、僕はまだ一度も魔術を構築すらしていなかった。



「どうしたユリウス。早くやらないか」


 中々魔術を講師しようとしない僕にしびれを切らした講師が催促してきた。


「は、はいっ!」


 緊張で声が裏返る。

 そんな僕と講師の会話を聞いていた近くの同級生達がクスクスと、嘲笑していた。

 僕はゴクリとツバを飲み込み、右手を前にかざし魔術を唱えていく。


術式展開(アクセスコード) 属性選定(アトリビュート)(フレイム) 形状選定(フォーム)(アロー)


 僕が詠唱すると同時に、手の前に術式が浮かび上がる。

 個人差はもちろんあるが、通常であれば、術式の展開と術式に魔力が満ちるのにさほど時間差はない。

 つまり、術式の展開と発動はほぼ同時であるはずなのだ。

 しかしーー


「ぐ、ぐぐぐっ!」


 ーー僕の場合、展開された術式に魔力が満ちる速度が、あまりにも遅すぎた。

 術式を展開してから数十秒経過してからようやく術式内に魔力が満ち、僕は最後の1小節を唱えた。


術式発動(フリーズアウト)!!」


 発動した炎の矢は正確に的の中心を射抜いた。


「ふう……」


 やっとのことで魔術を発動した僕に浴びせられたのは惜しみない称賛ーー


「「アハハハハ!!」」


 ーー等では当然ない。


「しょ、初級魔術の発動にどんだけ時間かけてんだよ!」

「あれじゃゴブリンも倒せないだろ!」

「戦う前に魔物にお願いしなきゃな! ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜、ってな!」

「さすが『停滞』とかいうゴミ特性持ってるだけあるわ〜」


 僕は彼らの言葉に、唇をぐっと噛み締めた。じわりと、鉄の味が口の中に広がる。

 そう、僕は一万人に一人と言われる魔力特性の持ち主だった。

 属性への適正とは無関係に、魔力自体に性質を持った特異体質だ。

 一万人に一人と言うと聞こえは良いが、実際には僕のようなゴミ特性もあるようだ。

 僕の魔力特性である『停滞』は自身の魔術発動を阻害するだけの、何の役にも立たないゴミカスだった。

 この特性のせいで、僕は魔術学院始まって以来の落ちこぼれと言われている。


「あ~〜、ユリウス。もう少し魔術の発動を早くできないか?」


 講師が気まずそうに頭を掻きながらそんなことを言ってくる。


「触媒を使って良いのであれば、多少は」


 触媒と言うのは魔術の発動を補助する道具のようなものだ。一般的には杖だが、中には触媒としての機能を持った剣や盾も存在する。

 僕の場合はーー


「何だあれ?」  


 ーーこの魔銃が触媒だった。

 鈍色に光を反射する魔銃を右手に持ち、的に向けて構える。

 装填された銃弾には既に魔力を流し終えた魔術式を刻んでおり、発動直前で魔力を『停滞』させて保存している。後はその『停滞』を一瞬だけ解除すれば魔術が自動的に発動されるという仕組みだ。

 一から術式を描いたのでは同級生の足元にも及ばない発動速度しか出せない僕が、速度だけでも同じ土俵に立とうと試行錯誤した結果が、これだ。

 だが当然の事ではあるが、話はそう簡単ではない。

 この魔銃には致命的なまでの欠点が存在していた。

 僕は的に向けて火の魔術弾を打ち放つ。

 パァン! と軽い音を立てて弾が射出され、的の中心を正確に捉えた。

 しかしーー


「ブワハハハ! 威力弱すぎだろ!?」

「的に傷一つ付いてねえとか逆に凄すぎるだろ!?」


 ーー威力が低過ぎるあまり、的にはほんの僅かな焦げ跡が付いただけだった。

 彼らが嘲るように、この魔銃には威力の低さという致命的な欠陥が付いていた。

 理由は単純明快。魔弾に刻み込める術式に限りがあるからだ。

 魔術の威力は術式の規模による影響を多分に受ける。その点において、魔弾に刻める術式はほんの僅かである。よくて2、3小節程度の術式ではこのように満足いく威力には到底なり得なかった。

 先程のは精々、銃弾を小さく発火させる程度の効果しか発揮できていなかったのだろう。それでは、ただの鉛玉と大して違いはない。魔力による恩恵を受けていないただの鉛玉では、魔力強化された的を傷つけることすら叶わないのか……っ。


「ハァ…………、ユリウス、もういいぞ。君は好きにしていなさい」


 呆れたと言わんばかりにため息を吐き、僕から目を逸らす講師。

 男性講師のその発言はつまり、僕の努力など無駄だと告げているのと同義だった。

 薄々分かっていた。今回もまた失敗なのだろうと。この魔銃も一応、改良に改良を重ねたことで発動速度だけは一端の魔術師と同等になれた。

 だがしかし、ただそれだけだった。それだけでは、駄目だったのだ。


「…………っ」


 俯き、下唇を噛み締める。

 じわりと血の味が広がるが、そうでもしていないと今にも涙が零れ落ちてしまいそうだった。

 同級生達が尚も僕の事を嘲っているのを意識の端で認識してはいたが、もう、それどころではなかった。

 情けなくて、悔しくて、気が狂いそうだった。


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