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46.幕間:舞台の裏で

side セカイ


「お主のおかげで大量発生(スタンピード)の影響は最小限に抑えることができた。感謝してもしきれない」


 サザランドはそう言ってセカイに対して頭を下げた。

 セカイの体には至る所に傷があり、包帯を何重にも巻いていた。

 万全の状態であれば彼が持つ魔力特性の性質上、一瞬で傷が無かったことになるのだが、消耗した今はそうはいかなかった。


「頭を上げてください学院長。そもそも、エリクサーを作ってもらったばかりか、私の実力が足りないばかりに本学院の生徒を危険にさらしてしまいました。申し開きのしようもございません」


 セカイもサザランドに対して頭を下げて謝罪をした。


「それは、本学院の2学年の演習地で起こった超小規模の大量発生(スタンピード)のことか?」


「御明察の通りでございます」


「ふむ……。まずはお主が対処していた大量発生(スタンピード)顛末(てんまつ)を教えてくれないか? 帝国の騎士団、魔術師団が大量発生(スタンピード)の発生地に赴いた際には残存していた魔物の数は推定3万体とのことだったが……。まさか一人で97万体を狩ったのか?」


 サザランドの言葉に、セカイは静かに首を横に振るった。


「いえ。偶然私の恩人がこの国に立ち寄っていたらしく、助力を願い出たところ快く引き受けてくださいましたので、私含めて3人で約96万体はどうにかすることができました」


 セカイは事も無げに言うが、たったの3人で対処できるような魔物の数ではなかった。


「そもそもその時点でおかしいのだが、お主相手に突っ込んでいても話が進まないのは身に染みて痛感しているからな。何か不測の事態が起きたということだな?」


「はい。帝国軍が到着した時点で残存していた魔物の数は確かに3万体程度でした。つまり、1万弱の魔物は私の不手際で転移を許してしまいました。重ねて謝罪させていただきます」


「転移だと? だが空間魔術の使い手は現状ーー」


「ーーはい。アルマだけのはずでした。ですが魔物の中に空間魔術を扱う個体が紛れており、私が仕留めそこなったばかりにあのような事態に発展してしまいました」


「……一体、その場には何がいた?」


「私にも、はっきりとした正体は分かりません。分かっているのは私と同等の戦闘能力を持つ何者か、ということだけです」


(俺と同等というより、アレはまるでーー。いや、憶測の域を出ない話だ。サザランドさんに話すべきではないだろう)


「お主と同等!? にわかには信じられん……。何者か、ということは魔物ではないのだな? 顔は?」


 サザランドの言葉に、セカイはフルフルと首を振った。


「いえ。仮面で隠していましたのでそこまでは。破壊を試みましたがこちらの動きが読まれていたようで、逆に隙をさらしてしまいました」


 セカイはそう言って、えぐり取られた右脇腹をさすった。


「お主の魔力特性は詳しく知らないが、回復魔術もポーションも効果が薄いというのは難儀なものだな……」


 彼が持つ魔力特性のうちの一つである『破戒』は、概念すら壊し尽くす強力無比なものであるが、相応のデメリットも抱えていた。


「数年前まではここまでではなかったんですがね。とは言え、後数日すれば魔力が回復しますので、そうなればこの程度の傷どうとでもなります」


 そしてかつての恋人から譲り受けた魔力特性『超再生』は、本来の持ち主でない故に自然回復する速度が著しく遅かった。



「その言葉を聞いて、少し安心した。お主を失うのは、惜しいからな」


 セカイはふわりと笑って答えた。


「私の戦闘能力を買っていただけるのは、純粋に嬉しいですね」


 セカイの言葉に、サザランドは首を横に振った。


「そうではない」


「と言うと?」


「お主が強いとか、強くないとか、そんな些事ではなくお主という人間が生きていてくれたこと自体が喜ばしいのだと、そう言っておるのだ」


 言いながら、熱のこもった瞳でセカイを見つめるサザランド。


「」


 セカイは一瞬面食らった後、ポロリ、ポロリとその瞳から涙をこぼした。


「あ、あれ? どうして、俺……。そんな……つもり、じゃ……」


 サザランドは何も言わずに立ち上がり、慈愛に満ちた顔つきでセカイの頭をポンポンと優しく撫でた。

 セカイという男は『人との繋がり』を誰よりも優先する男だった。実際、彼は世界の救済とヒスイの命を天秤にかけ、例え自身が世界にとっての悪なのだとしても、彼女の命を救うことを選んだことがある。

 そしてそんな男だからこそ、他人に自身の存在を認めてもらえることが、大事な存在だと言ってもらえることが心の底から嬉しかったのだ。

 無理に被っていた『大人の皮』が涙と共にボロボロと崩れ落ちていくのが自分でも分かった。


「お主はまだ20才なんだ。何でもかんでも抱え込まないでいい。お主は儂にとってもう一人の息子のようなものだ。儂に解決できることかは分からないが、何かあれば相談してくれると嬉しい」


「……はい。…………ありがとう……ござい、ますっ」


 それから数分後、ようやく涙が止まったセカイはちり紙で鼻をかんだ後、再び『大人の皮』を被った。


「ところで、お主と共に大量発生(スタンピード)に対処した二人は今どこに?」


 その質問に、目元を赤くしたセカイは苦笑いして答える。


「自由気ままに旅をしている二人なので、私を帝国に送り届けた後にすぐ発ちました」


「そうか……。一度面と向かって礼を告げたかったのだがな……」


「私以上に俗世間の評価や報酬に興味がない方々なので、むしろ迷惑だと仰るかもしれません」


 サザランドは困ったように笑った。


「お主といい、世の中には奇特な人物が多いようだ」


「私なんて、まだまだですよ」


「それはそうと、お主が孫と一緒に面倒を見てるユリウスだったか。体調はどうなっておる?」


「学院長が作ってくださったエリクサーがすこぶる効いているようで、元気に鍛錬してますよ」


「それは何よりだ。聞いた話によると、彼が演習地に出現したランドドラゴンを討伐してくれたようだからな」


 その言葉に、セカイは大きく笑みを浮かべて頷く。


「本当に、自慢の弟子です」


 セカイはランドドラゴンを倒したことは勿論認めているが、それ以上に幼馴染のために己の命をかけた点を誇らしく思っていた。


「今後はきっと、周囲の彼を見る目も変わっていくことだろう」


「ええ。もうすぐ私もお役御免かと思います。クレアも、ユリウスに負けないくらいに成長していますしね」


 最低限の道は示した。後は、彼ら自身が道を切り開いていくのだ。

 雛鳥が親鳥から巣立つときは近い。


「狂っていくこの世界の中で、孫達のような才気溢れる若者が台頭していく姿は希望そのものを見ているようで楽しくなるな。これだから教育者は辞められん」


「ええ。本当にそう思います」


 そう言って彼らは窓の外を飛ぶ数羽の鳥を見る。

 未来へと飛翔する若者の姿をその鳥達の姿に重ねながら。


完結です。

ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。


一応、改稿中ですがセカイ主人公の話「滅亡する世界で俺は君に恋をする」も連載中ですのでもしよろしければお読みください

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