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40.過酷な演習


 森での演習が始まってから二日後の夜、僕達の班はようやく森の中央部付近まで来ていた。しかし、中心部に近づくにつれて魔物の数が多くなり、まともに近付くのも困難となっていた。


「ヒィッ!」


 マルコの悲鳴と共にガァン! と甲高い金属音が森に響く。

 マルコは襲ってくるコボルトの攻撃をかろうじて剣で防ぐが、勢いを殺しきれずに尻もちをついた。


「ゴアアア!」


 コボルトは雄たけびを上げて、マルコに対して無骨な骨の棍棒を振りかざす。


「ふっ」


 僕は自身の眼前にいたコボルト二体の頭蓋を魔弾で撃ち砕いて即死させ、マルコを襲うコボルトも同様に狙い撃つ。

 今回僕が持ってきている魔弾は実用に長けたものばかりだ。魔物との戦闘のように乱戦が予想される場合、バラバラの魔弾をマガジンに仕込むのは悪手に他ならない。だからこそ基本的には1マガジン全て同じ魔弾で構成している。

 今回使用しているのは風魔術を応用した振動弾だった。着弾と同時に高周波を発し、対象の分子構造を破壊する攻撃力に特化した魔弾。


「な、何が……?」


 呆然とするマルコに、周囲を警戒しながら僕は手を差し伸べた。


「大丈夫か?」


「お、お前が……?」


「ああ」


 そう言うと、彼はクシャ、と顔を歪ませて悔しがった。


「何でだよ! 落ちこぼれのお前が! どんなズルをしたらこんな!?」


 彼のその言葉に、僕は在りし日の自身の言葉を思い返す。


『ゴブリンの方が、僕よりも才能があるっていうのかよぉ!!』


 複数の魔術式を展開したゴブリンシャーマンに対して、僕は臓腑が焼け落ちるような怒りと共にそう言い放った。

 人は自信の理解が及ばない領域にいる者に対して、何か都合の良い理由を当てはめて決めつけようとする。

 僕があのゴブリンシャーマンの実力を才能の一言で片づけたように、マルコも僕の実力をズルという一言で片付けようとしている。いや、片付けたいのだろう。

 その裏でどのような過程を辿ったのかなど見ようともせずに。


「…………」


「何だよその目は!? 落ちこぼれのゴミカスがズルで粋がってんじゃねぇぞ!?」


 黙り込む僕に、彼は気が立ったように噛みついてきた。

 こういう時に、何を言おうと逆効果だろう。


「何やってんだてめぇら!?」


 怒号と共に、コボルトの頭部がいくつも吹き飛んできた。

 誰がやったのかなど言うまでもない。

 ディッセルが大剣に付いた魔物の血を振り払って現れた。


「そんなとこでチンタラやってんなら、俺が全部狩りつくしちまうぞォ!?」


 そう言って彼は驚異の身体能力で、木々の間を跳ねるように飛び魔物の体を豪快な一撃で斬り飛ばしていく。

 身体強化の能力だけで言えば、以前みた勇者のソレと比較しても劣らない。彼がDクラスに在籍している理由は素行が極端に悪く座学が壊滅的だからだ。単純な実力で考えればAクラスでもおかしくない。


「それは困るな! 僕の取り分がなくなる!」


 僕は彼に引っ張られるように吠え、襲い来る魔物の攻撃を搔い潜りながら魔弾を撃ち放っていく。

 ビリビリ、と魔弾の衝撃で腕が痺れるがその刺激はもはや僕にとって興奮剤にしかならなかった。

 ゴブリンがボロボロの短剣をこちらへと振るう。

 僕は軌道を完全に見切り、右足を前へと踏み込み紙一重で回避する。

 短剣が己の頬スレスレを通り、通り過ぎる一瞬に魔弾を頭に撃って殺す。


「ゴアア!」


 醜く雄たけびを上げたワーウルフ達が長剣を振り回して周囲から攻撃を行ってくる。


「遅い」


 僕は周囲から襲い来る攻撃を掻い潜り、避けるついでにワーウルフの腹に魔銃の銃口を押し当てて超至近距離で魔弾をぶち当てる。

 拳銃は決して遠距離武器などではない。中近距離で最も輝くこの武器の性能を活かすために近接戦闘の技量は必要不可欠である。


「ハッハァ!! やるじゃねーかユリウス!」


 楽しそうな声でディッセルは魔物を倒していく。その速度は僕と同等かそれ以上。


「てめえらは魔物のいない方へ逃げろ! こいつらは中央にある広場の方から溢れてきやがる! 来た道を引き返せばここよりは安全だ!」


 ディッセルはマルコ達へと撤退の指示を出す。


「え? でも……」


「ここにいても足手纏いなんだよ!! ここは俺とユリウスがいれば十分だ!!」


「わ、分かった! 行くぞお前ら!」


 マルコと他の班員二人はそそくさと戦線から離脱した。

 僕とディッセルは背中合わせになり、周囲から迫りくる魔物を狩り続けた。

 狩っても狩っても際限なく溢れ出てくる。


「おい、いくら何でもこの数はおかしくないか!?」


 魔物を屠りながら、僕はディッセルに語りかけた。


「ああ!? 今更かよ!? 演習って言ってもこの森の魔物なんてたかが知れてるはずだ! だってのに、この数はちょっと演習って呼ぶには苛烈すぎるなぁ!!」


 ディッセルと共に魔物を狩り続けること十数分、ようやく魔物の気配が消失していく。

 だがまだ安心はできない。

 僕は周囲を警戒しながら背中合わせになっているディッセルに語り掛けようと口を開いた。


「一体何がーー」


 意見を求めようとしたその矢先、ソレは突如として訪れた。


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