39.演習説明
「それではこれより高等部2学年の実践演習を行う!」
馬車から降りた僕達は大森林の前に集合し、引率の教員の話を聞いていた。
僕らの学年はAからDまでの4クラスに分けられ、一クラス約30人のため総員120名程度の集団である。
「実践演習はこの森林地帯の魔物を狩ることが主目的である! 既に冒険者ギルドで魔物を倒し慣れている者は初心者のサポートを頼む!」
「任せてくださいよ、先生」
教員に真っ先に返事をしたのはゼオンだった。
彼は自身に満ち溢れた顔をしていた。
「確かに、勇者であり、かつ冒険者としてSランクの君がいれば安心ですね」
教員はそう言うと、ゼオンは殊更に胸を張った。
「当然ですよ! 俺は5歳の頃から魔物を狩ってるんですから!」
彼の発言とほぼ同時に周囲から驚きの声が連鎖した。
「「5歳!?」」
その周囲のどよめきを聞きながら彼は苦笑して言った。
「あれ? 俺またなんかやっちゃいました?」
隣にいるフィオナをチラッと見ると、苦笑していた。
「また言ってるよ……。わざとらしいなぁ……」
彼女のそのセリフから察するに、彼は狙って自身の過去を自慢しているのだろう。
ざわめく僕達を教員が叱責する。
「静かにしろ! 説明を続けるぞ! 今回の演習では5人一組で班分けを行い、この森の中央広場にたどり着いてもらう! 期限は三日後の日が沈むまでだ!」
今回の演習では複数人による野営も演習内容に含まれていた。森での食料の確保や夜間での安全確保など、総合的な能力の向上を図るのが目的だろう。
「なお今回は特別に、中等部の特待生を一人参加させることとした! アルマ・イグレシアス! 前へ」
「へ?」
僕の間抜けな声と共にアルマさんはスタスタと横を通り過ぎた。
通り過ぎる際、笑ってこちらに小さく手を振っていた。
彼女の白い髪と尻尾が動きと共にフリフリと揺れて遠ざかっていく。
きちんと手入れされているであろう彼女の体毛はそれ自体が不思議な魅力を持っているようで、生徒達の目線は釘付けだった。
「綺麗……」
「誰あのかわいい娘!?」
「中等部に美人な獣人がいるって聞いてたけど、あそこまでとは……」
「今俺に手を振ってたよな!?」
「いや俺だろ?」
「調子に乗んなバーカ」
「お前こそ!」
周囲の、特に男子は大いに沸き立っていた。
無理もない。彼女ほどの美人はそうお目にかかれないだろうから。
「ねえユー君の知り合い?」
フィオナは僕の耳にこっそり耳打ちした。
「一応ね」
僕がそう答えると、フィオナはムッと頬を膨らませた。
「いつの間にあんな美人と……」
「君が思うような関係じゃないよ。僕が今お世話になっている教授の娘さんなんだ」
そう言うと、彼女は思案顔になる。
「ああ。そう言えばイグレシアスって、あのセカイ先生と同じ……。って言うか子持ち? あの年で?」
「まあ、それは色々あるみたいだよ。ところで、フィオナから見てセカイ先生ってどう?」
なんとなく他の生徒から見たセカイ先生の評価が気になった。
「ん~~、良い先生だよね。クラスの子達もよくセカイ先生に質問にいってるらしいし、丁寧に教えてくれるって評判だよ。私はあまり関わったことないから何とも言えないけど……」
「そっか」
彼が褒められると、何故か自分のことのように嬉しい自分がいた。
アルマさんは僕達の前に立ち、スカートの裾を軽く持ち上げて一礼した。
「お初にお目にかかります。中等部2学年のアルマ・イグレシアスと申します。若輩者ではございますが、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします」
絶世の美女と言っても差し支えない彼女の挨拶に、生徒達は再びざわめいた。
そんな生徒達を代表するように、ゼオンは一歩前に出る。
「よろしくアルマ。俺の名前はゼオン・アーカーシャ。知らないかもしれないがーー」
「ーー勿論存じ上げていますよ。この帝国の『勇者』、ですよね?」
アルマさんの言葉に気分を良くした彼は得意げに胸を張った。
「知っていたんだな。それなら話が早い。俺達の班と一緒に行動しないか?」
そう言って右手を差し出すゼオン。
「え? ですが……」
アルマさんは困ったように眉根を寄せて隣に立つ教員に目配せをした。
生徒の独断で話を進めているようで、気が進まなかったのだろう。
「ゼオン君の傍以上に安全な場所なんて他にないでしょうから、アルマさんはこの演習期間中、彼と共に行動してください」
「先生がそう仰るのでしたら、承知いたしました。よろしくお願いいたします。ゼオン様」
言いながら握手をする二人。
「はは。むずがゆいから様付けはよしてくれ。確かに俺は公爵家の跡取りだけどこの学院では身分に意味は無いからな」
「……ですが、」
「俺が良いって言ってるんだから良いんだよ」
「……分かりました。では、ゼオン先輩とお呼びしても?」
そう言ったアルマさんの言葉に彼は満足げに頷いた。
「良いねぇ。ここにきて美人後輩キャラか。しかもケモミミ。上がるぜ」
「は?」
今彼は何と言ったのだろうか? 声が小さくてよく分からなかった。
アルマさんの顔にも疑問符が浮かんでいた。
「いやこっちの話だ。気にしないでくれ」
彼はそう言って一歩下がって元の位置に戻った。
アルマさんも彼の隣に立つ。
定位置についたことを確認した教員が、改めて演習の開始を宣言した。
「それでは今から班分けを発表する!」
教員はそう言って、班分けをしていく。
基本的には同じクラスの生徒同士が選ばれているようだ。
まあ、同クラスの生徒同士の方が実力も近く連携しやすいという理由からだろう。
「フィオナ・アーデルバイト!」
「あ、呼ばれたみたい。それじゃね、ユー君」
「ああ。またな」
互いに小さく手を振って別れの挨拶をした。
「君はゼオン君の班に参加しなさい」
「分かりました」
フィオナの実力はAクラスでもトップクラスだ。だから、彼女がゼオンの班に入ることはなんら不思議ではなかった。
順に名前を呼ばれて班分けがなされていく。
そして最終的に僕がどんな班に配属されたかというとーー
「まさか、てめぇと一緒だとはな」
馬車で一緒に乗っていたディッセルとその取り巻き3人だった。
「僕も驚いてるよ」
「だが丁度いいな」
彼はそう言って、獰猛そうな笑みを浮かべた。
「丁度いい?」
僕の疑問と同時に、彼は背中に背負っていた大剣を勢い良く抜剣した。
「「ディッセル!?」」
取り巻きが驚いた声を上げるが、僕はその軌道を見切っていたため動揺することはなかった。
彼が突きつけた大剣の切っ先は、僕の鼻先にギリギリ触れない場所でピタリと静止していた。
「……一体、何のつもり?」
「やっぱ変わったな、てめぇ……」
「質問に答えろよ」
「前までのてめぇはびくびくと怯えて周囲のご機嫌取りばかりしていた。でも今は違う。てめぇのその瞳は、どこまでも真っすぐな熱を帯びている。教えろ。何がお前を変えた?」
「質問に質問で返すなよ。全く……」
僕は軽く嘆息した後、答えた。
「僕が、僕自身を認められるきっかけを与えてくれた人がいた。ただ、それだけのことだ」
言いながら、剣を指で挟み込んでどけた。
「はっ」
彼は軽く笑い、大剣を背に収めた。
「今回の演習で俺と勝負だ。てめぇと俺、どっちが多く魔物を倒せるかな」
ディッセルに対して、金髪を七三分けにしているマルコが焦ったような声を上げた。
「お、おいディッセル! お前どうしたんだよ!? こんなノロマに何を言ってんだ!?」
そんなマルコに対して、彼は苛立たし気に答える。
「ああ? てめぇらは最近のこいつを見て何も思わねぇのか?」
「た、たまたま調子いいだけだろ!? ディッセルこそ今までのこいつの無様さを知っているだろ!?」
「じゃあ何か? 俺はたまたま調子の良いこいつに負けたってことか? 馬鹿にすんじゃねぇぞ!!」
「「ひっ」」
マルコ達は彼の一括に委縮した。
「いつまでもこんなくだらない言い争いしてる場合じゃねえだろうが、とにかく俺達がやるべきなのは演習だ。行くぞ」
そう言って彼は演習場所である森へと入っていった。
既に他の学院生たちも森へと入っていっているようで、少し遠くで戦闘の物音が響いていた。




