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37.実験レポート

 1週間後、演習日の早朝、僕は家の前にある噴水広場で呆けていた。

 演習地は帝都の南方にある、ラドス辺境伯が治める地の森林地帯だ。

 その周辺の魔物にはそれほど凶暴な個体はなく、学生の実地研修にはもってこいなのだそうだ。

 

「しかし、フィオナ遅いな……」


 彼女が一緒に南門まで行こうと言い出したのにな。


「遅れるのもよくないし、迎えに行くか」


 独り言をこぼしながら、僕は薬屋へと足を向けた。

 そもそも彼女の家は近所すぎて待ち合わせする意味もあまりないのだ。

 薬屋の裏手にある家屋用の呼び出し鈴を鳴らすと、パタパタと足音が近づいてきた。


「は~い。どちら様……、ってユリウス君じゃない。あ、もしかし娘のお迎え?」


 出てきたのはフィオナのお母さんだった。


「おはようございます。フィオナさんと南門まで一緒に行く約束をしていたんですが、まだ来ていなかったので様子を見に来ました」


「あらら……。あの子ったら朝早くに調剤室に籠ったと思ったらまだ出てなかったのね……。悪いんだけど、ちょっと様子見てきてくれない?」


 彼女は頬に手を当てて溜息を吐いた。


「分かりました。お邪魔します」


 一礼して、家に入らせていただく。

 僕は迷わずに調剤室に行き、その扉をノックした。


「フィオナ? もう演習に行く時間だよ?」


 扉の奥からは返事がない。

 それどころか、物音一つとして聞こえなかった。

 僕は以前、この部屋で見せてもらった彼女の劇薬の効果を思い出し、もしや何かあったのではないかという焦燥感に襲われた。


「フィオナ! 開けるぞ!」


 僕はそう言って返事も待たずに扉を開けた。

 部屋の中を一気に見渡すと、机の上に彼女が突っ伏していた。

 近くには荷物が散乱していた。きっと演習にもっていくものを広げて確認していたのだろう。


「フィオナ!」


 一目散に彼女の傍に駆け寄り、息をしているかを確認する。

 すー、すー、と静かな寝息を立てて、彼女は眠っているようだった。

 朝早く起きて作業していたはいいものの、眠ってしまったのだろう。

 僕もよくやるからあまり人のことは言えないがーー


「ーー人騒がせだなぁ」


 と、呟いてしまった。


「このままってわけにもいかないし、とりあえず起こすか……、って、ん?」


 僕は突っ伏す彼女のすぐ前に置いてある、一つの赤い丸薬と紙が目に入った。

 赤い丸薬は四角いガラス箱の中に収められており、どうやら魔術的な錠が掛けられているようで簡単には開きそうにない。

 用紙を手に取って一通り目を通すと、この丸薬の詳細なレポートが記されていた。


「試験薬第135号の実験結果。モルモットに本薬を投与した際、平均363秒後に出血過多による死亡を確認。試験薬第1号と比較しておおよそ100倍近く生存時間を伸ばすことに成功してはいるが、まだまだ人間への投与は極めて危険であると考えられる。さらに、投与後のモルモットが死亡するよりも前の段階で回復魔術を行使した場合、約1週間後まで生存が確認された。人体への影響を鑑みるとまだ臨床段階には至ってはいないが、仮に人体に投与した際にも即座に回復魔術を使用できる状況にあれば即死は免れることができるだろう。ただし、本薬により損傷した組織の完全修復には第10位階の回復魔術、すなわち最高位の回復魔術もしくはエリクサーの使用が不可欠となる。現状、第10位階の回復魔術を単身で扱えるのはミストラ教の元大聖女、ヒスイ様のみとされており、彼女の行方は現在不明である。エリクサーに関してもその素材の入手は困難を極め、かつ製作技術は国が秘匿しているため一般人には手が出せないものとなっている。本薬自体の毒性をさらに下げるために、まだまだ改良の余地はあると思われる」


「ん……、ユー君……?」


 レポートを読んでいると、彼女が目を覚ましたようで寝ぼけ眼でこちらを見ていた。


「おはよう、フィオナ」


 僕がそう声を掛けると、彼女は徐々に意識がはっきりしてきたのか、


「わ、わあ! もしかして私寝ちゃってた!?」


 慌てふためきだした。


「ご、ごめんね! すぐに準備するから!」


 そう言って彼女は机の上に置いてあるものを片っ端からかき集めて鞄の中へと突っ込んでいった。


「確認は大丈夫なのか?」


「だ、大丈夫! 一度中を確認していたのは覚えてるから、机の上に全部あるはずだし……」


彼女はそう言って忙しなく準備を整えていった。


「お、お待たせ!」


 彼女はそう言って、荷物でいっぱいになった鞄を背負いこもうとした。


「持つよ」


 僕はそう言って、彼女の手から半ば強引に荷物を受け取った。

 いくら僕が体格的に非力な部類であっても、フィオナよりは幾分かマシだと思う。


「あ、ありがとねユー君」


 彼女は笑みを浮かべてお礼を言った。


「それよりもほら、急ごう」


「うん! そうだね!」


 僕達は早朝の煉瓦街を駆け、帝都の南門へと急いだ。


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