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35.休日

 遠征演習直前の休日、僕は何の目的もなく街を散策していた。

 少し、術式の改良に行き詰っていたため気分転換もかねて外の空気を吸いに出たのだ。


「ん? あれは……」


 帝都の北門に見知った顔が見られた。

 セカイ先生とアルマさんだ……。

 彼女はセカイ先生の胸に顔をうずめ、ポスポスと拳を叩きつけていた。

 セカイ先生は苦笑を浮かべながら、彼女の白髪を優しく撫でていた。

 しかも彼らだけではなく、その傍には以前フィオナとデートした時の大道芸人たちがいた。短い黒髪の男と妙な話し方をする金髪の幼女だ。何やらセカイ先生とアルマさんと親しげに会話していた。

 目元を泣き腫らしたアルマさんを黒髪の男がからかい、幼女にぶっ飛ばされていた。

 話しかけるべきか逡巡したが、何やら話しかけにくい雰囲気を感じたため僕はその場を立ち去ろうと(きびす)を返す。


「あた!」


 その瞬間、僕は後ろにいた人にぶつかってしまった。


「あ、すいません!」


 咄嗟に頭を下げて謝罪する。


「いや、後ろにいた私が悪いんだ。ユリウス君が謝る必要はないよ」


「って、え? クレア先輩?」


「ああ。クレア先輩さ」


 長い黒髪を風に靡かせながら、彼女は自信満々にそう答えた。

 甘い香りが風と共に流れてくる。


「どうしてこんなところに?」


「いやなに、先生とアルマ君の様子が何やらおかしかったのでね、こっそりと尾行していたんだが藪蛇かと思って帰ろうとしたところにユリウス君の姿を見かけてしまってね」


「そ、そうですか……」


 堂々と尾行していることを自白されてしまい、僕はどんな顔をしていいのかよくわからなかった。


「そういう君は?」


「ちょっと気分転換がてらぶらぶらしていただけですよ」


「ほう? ならば君は今暇という事かな?」


「え、ええ、まあ……」


 僕がおずおずと答えると彼女はぱっと花が咲いたように笑顔を浮かべた。


「それなら、私とデートしてくれないか?」


「デート、ですか?」


「ああ! 今日の鍛錬は終わってしまったからね。君と一緒に街を散策できるなら、私個人としては嬉しい」


「僕にとっても、身に余る光栄だとは思いますが……」


 僅かに言い淀む僕に、彼女は少し不安そうな顔を見せた。


「め、迷惑だったら素直にそう言ってくれてもーー」


「ーーいえ、迷惑とかではなく、僕で良いのですか?」


 今この瞬間にも、僕たちは奇異の視線にさらされていた。

 すれ違っていく街の人々が、先輩の顔を見た後に僕の顔を見て不思議そうな顔をしていた。

 どうしてあの程度の男が、こんなレベルの美女と? とでも思われているのだろう。僕が彼らの立場でも少し思ってしまうかもしれない。


「君だから良いんだ!」


 彼女はそう言って僕の手を握り街へと繰り出した。

 彼女に引っ張られるままに街を周り、夕暮れ時に喫茶店に入って休憩することとなった。


「今日は楽しかった」


 彼女はそう言って、提供されたコーヒーに口を付けた。彼女の前にはミルフィーユのケーキが置かれていた。

 黒曜のように輝く髪が窓から漏れる夕明かりを反射して、ある種神々しさすら感じられた。


「僕もです」


 本当に良い気分転換になった。


「そう言って貰えると、何だか面映ゆいな」


 頬をほんのり染めて視線をそらす先輩が、何だかいつもよりかわいらしく映る。


「しかし、君がセカイ先生に弟子入りしてもう一月経つのか。早いものだね」


「改めて、本当にありがとうございます」


 僕はそう言って頭を下げた。

 彼女がセカイ先生のことを紹介してくれたからこそ、僕は今もなお英雄を目指すことができている。


「大したことはしていないさ」


「大したこと、ですよ」


「そうかい?」


「そうです」


「そうか」


 僕達は穏やかに笑いあった。


「そう言えば、先輩はどういう経緯で先生に弟子入りしたんですか?」


 僕がそう言うと、彼女はコーヒーを飲みながら若干苦々しい顔をした。

 味によるものではないだろうが、何だか妙なタイミングで聞いてしまったようだ。


「……聞きたいかい?」


「先輩が構わないのであれば、ですけど」


 あまり言いたくないことなのかもしれないし、無理に聞き出そうとまでは思わない。


「まあ、その、恥ずかしいことではあるけど、ユリウス君には話しておこうかな」


 彼女はそう言って話し出す。


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