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33.幕間:|大量発生《スタンピード》②

「それで、お主は一体どこでその情報を手に入れてきたんだ? お主自身の事を儂は信用しているが、国を動かすとなると相応の理由が必要になる」


 サザランドのそう言うと、セカイは再び頭を下げ謝罪した。


「今から私は、荒唐無稽な事を言います。そのご無礼を、先に陳謝いたします」


「くだらない嘘を吐くような男ではないだろう?」


「単刀直入に申し上げますと、私は、未来が見えます」


「未来が?」


 サザランドは怪訝そうな顔をあらわにする。

 そのような反応をされる事は織り込み済みだったため、淡々と続ける。


「勿論全てが見えるわけではありません。私が見えるのは人類史における特異点であり、言い換えれば介入する事で歴史を捻じ曲げる転換点です」


「特異点?」


 魔術学院長である彼が初めて聞く単語であった。

 セカイは淡々と、この世界の真実を告げる。

 

「ええ。学院長は、この世界全ての歴史が過去も未来も、更には私達の今のこの思考も全て決まっている、という話をしたら信じていただけますか?」


 ガタン、と大きな音を立てて学院長は立ち上がった。

 勢いよく立ち上がったため体が机にぶつかり、上に積み重なっていた書類がドササ、と滑り落ちた。

 だがそんな些事を気にしていられる様な状況では到底なかった。

 学院長は、セカイが嘘を吐いているのではないかと、彼と出会って以来初めて思った。だがセカイの瞳は真剣そのものであり、とても嘘を吐いているような雰囲気ではなかった。

 学院長は数秒固まり、そしてやがて大きなため息を吐きながらドスンと後ろの椅子に背中を預けた。

 目元を手で押さえながら、声を絞り出す。


「にわかには信じがたい。信じがたいが、お主がこの状況で嘘を吐く理由が残念ながら見当たらない……」


「信じていただけたようで、何よりです」


「だが、儂自身は信じられても、国の上層部が納得するとは思えん」


 そう。サザランドはセカイのことを信じているが国の上層部はそうはいかない。得体のしれない男が(いたずら)に不安を煽っているだけだと思われてもおかしくない。

 サザランド自身が確固たる証拠をもって証言すれば話は別であるが、残念ながらそのような都合の良いものはない。


「ええ。それは百も承知です。もし仮に国の騎士団と魔術師団を動かすだけの証拠を集めるとなると、大量発生(スタンピード)が起こってから動く必要があるでしょうね」


 大量発生(スタンピード)は突如起こるものであり、だからこそ各国はその被害を最小限に抑えるために軍備拡張へ多大な予算を投入していた。各国の魔術学院が巨大なのはその影響だ。


「普通の大量発生(スタンピード)であればそれでも間に合うかもしれん。だがお主が言う通りの規模ならば、後手に回るのは最悪だ」


「私もそう思います」


 セカイは首肯する。


「ではお主は、一体何故この話を儂に持ってきた? 何か国の上層部を動かすほどの情報を捏造する策でもあるのか?」


 灰髪の男は不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと首を横にふるった。


「まさか。その反対ですよ」


「反対?」


 怪訝そうにサザランドは聞き返す。

 次の瞬間、セカイは耳を疑うような事を口にする。


「客観的な証拠は皆無です。だからこそ、国は動かせない。この状況で私ができることはただ一つ」


「……っ!? まさか、お主は……っ!?」


「私が時間を稼ぎます」


「な、何を言っている!? お主の戦闘能力がこの国の誰と比較しようと優れていることは理解している! 仮に儂が全盛期であっても勝負になどならないだろう! だが一人というのはいくら何でも無茶が過ぎる!」


 大規模戦争というのは数がものを言う。

 たとえ一騎当千の英雄であっても、一瞬のうちに対処できる数には限度がある。

 百万体が同時に進行すれば、それを食い止める事は困難だろう。


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