32.幕間:|大量発生《スタンピード》①
side:セカイ
時はほんの少し遡る。
グラディノス帝国魔導魔術学院の一室にて、一人の老人が書類にサインをしていた時だった。
男の名前はサザランド・ダスティス。クレア・ダスティスの実の祖父であり、この学院の学院長でもある。
元々平民ではあったが剣一本でのし上がり、剣聖と称えられた後に当時の公爵令嬢に見初められて婿入りを果たした。
魔術師としても一流の実力を持ち、その実力を買われて皇帝からグラディノス帝国魔導魔術学院長に任命された。
「…………」
男は黙々と書類に目を通していくが、突然扉が3回ノックされた。
「入れ」
「失礼いたします」
言葉とともに入室したのはセカイ・イグレシアス。
この学院の最年少魔術教授を務める天才である。
「今日はどうした?」
「折り入ってご相談があり、参りました」
「ふむ。まあ、腰掛けるがよい」
男はそう言って書類を読むのをやめ、セカイを見た。
セカイは軽く頭を下げ、部屋のソファに腰掛けた。
「それで、相談とは?」
老人ではあるが、今も尚その全身からは異様な覇気がみなぎっていた。その眼光は鋭く、並大抵の人間ではその瞳で見られただけで委縮してしまうだろう。
だがセカイは慣れているのか、飄々とした様子で彼の前で話す。
「まず、こちらを見ていただけますか?」
そう言ってセカイは大陸の地図を取り出した。
「地図?」
「ええ。あまりお時間を取らせるわけにもいきませんので端的に申し上げさせていただきます。このグラディノス帝国から北西に約130キロ離れた地点で、魔物の大量発生が発生する可能性がございます」
「な、何だと!? 規模は!?」
男は焦り、声量が大きくなる。
かつて剣聖と呼ばれた男がそこまで取り乱すほどに、大災害といっても差し支えないものであった。
「あくまでも推測になりますが、数はおよそ百万体。大陸史上最大規模の大量発生です」
「ひゃ、百万!?」
これまでの大量発生は最大規模のものでも二十五万。その規模の時でも、徒党を組んだ魔物たちの進行は近隣の小国を飲み込み、ステラギア聖国という帝国の北東に位置する大国に歴史に刻まれるほどの大打撃を与えた。
それもほんの三年前のことになる。
当時は、流れの冒険者とヒスイという名のミストラ教の大聖女がいたからこそ最小限の被害で済んだ。
「お主が、三年前に対峙した時以上のものだというのか」
その流れの冒険者こそ、サザランドの目の前にいるセカイその人だった。
大聖女と共に戦場を駆け、約二十万もの魔物とそれを率いる神の化身を屠ったセカイは文字通り一騎当千、万夫不当の英雄である。
「ご存じでしたか……」
セカイはほんのわずかに目を見開いて驚く。
「情報は当時の大聖女が制限していたからそう多くはないがな。だがそれでも、どうにか帝国に引き込めないかと国の暗部が調べ回り、灰髪の男が暴れまわっていたという情報だけは得られた。それだけの偉業を打ち立てられるほどの男などそうはいまい」
「かまをかけたんですね」
彼はそう言って苦笑した。
「半ば確信していたから、そういうわけでもないぞ?」
「私の事を高く評価していただけるのはありがたいですが買い被りですよ? あの時私がそれだけの魔物を狩ることができたのは彼女が、ヒスイがいたからですから」
「確かにあの大聖女は儂も一目見て戦慄する程に傑物だったが……。お主を見た時の衝撃は比にならんよ。正直その自己評価の低さは一周回って嫌味だな。直した方が良い」
「忠言痛み入ります」
そう言って頭を下げるセカイ。
セカイの自己評価が低いのは、何も理由が無いわけではない。彼は今までの旅路で何度も大切な物を失ってきた。それは育ての親であったり、共に暮らした人達やかつての恋人である。
もしもその時、今の『力』があればきっと未来は変わっていただろう。だがそもそもその前提が成立し得ない破綻したものであることを彼は理解していた。受け入れがたい事ではあるが、悲劇と喜劇、その全てが自身の血肉になっているのだと彼は骨の髄まで思い知らされている。
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