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29.実験


「今のは……?」


 正直何が起こったのか一切理解できなかった。

 彼女は手際よくモルモットの死体を片付け、僕たちは付けていたマスクとゴーグルを外し、椅子に並んで座った。


「結論から言えば、この薬品は対象物の血行を異常促進させる効果があるんだ」


「それはまた……、異常という言葉で済ませていいのか判断に困る程の効果だな」


 僕がそう言うと、フィオナはばつが悪そうに頬を搔いた。


「ですよね~~」


「それで? これは何のための薬なんだ?」


 僕がそう聞くと、フィオナは少し言い難そうにする。


「あ~~っと、それはね……」


「そんなに言い難いのか?」


 言外に『わざわざ見せたのに?』というニュアンスも込めて尋ねる。


「えっと、……その、……ユー君の、役に立つかと思って……」


「君は僕を殺す気か!?」


「違うの!」


「どこが!?」


 驚愕のあまり声量が大きくなってしまった。

 こんな劇物、口に含んだ瞬間くたばってしまう。


「あ、僕が飲むんじゃなくて敵に飲ませる系の毒薬か」


 僕は納得がいったと言わんばかりに手をパンと叩いた。

 そんな僕から目をそらしながらフィオナは言う。


「いや、ユー君が飲む用に……」


「やっぱり殺す気じゃないか!?」


 殺されても文句は言えない立場だけども!


「まあ、その、そう言いたくなる気持ちは痛いほどに分かるんだけど。というか、なんなら私もこんな毒薬口にしたくはないんだけど」


「そりゃそうでしょうよ」


 というか毒薬って言っちゃってるし。


「誤解を解くために簡単に説明していくけど、ユー君はマンドラゴラの薬効は覚えてる?」


 マンドラゴラの薬効?

 あまり薬学には明るくないが、基礎知識ぐらいは学院で習ているためなんとなく覚えている。


「確か、一緒に混ぜた薬品の効果を向上させるんだっけか? その機序までは覚えてないけど……」


 不勉強すぎる自分が恥ずかしい。


「まあ機序は専門的に学ぶつもりがないなら覚える必要はないし、今はその効果さえ理解できていれば大丈夫だよ。それでね、今回マンドラゴラの粉末と混ぜたのがゴブリンの脳神経から取り出した血行促進剤だよ」


「血行促進剤……?」


「うん。通常は溶解剤に溶かし込んで心臓の動きが止まった人の静脈に投与したり、戦闘時の興奮剤として使用するものなんだけど、それをマンドラゴラと混ぜたらこんな劇物になっちゃって……」


「どうしてまたそんなことを……」


「あの、ね、ユー君の魔力特性なんだけど」


「……『停滞』がどうかした?」


「うん、そう『停滞』。その『停滞』っていうのは、魔力伝達速度が平均速度の1/100にまで落ちてることから命名されたよね」


 僕は苦々しい顔で同意する。


「ああ。グラディノス帝国史上初めて確認された魔力特性として登録されているよ」


 史上初といえば聞こえはいいが、だからこそ、僕はこの魔力の活かし方がわからず持て余している。


「ユー君は、魔力伝達速度を物理的に上げる方法を知っている?」


「魔力伝達速度を上げる? ……っ!? そ、そんなことが可能なのか!?」


 僕は衝撃で頭を殴られたかのような気分になり、その衝撃にはじかれたようにフィオナに詰め寄った。

 彼女の肩をがっしりとつかんで目を見つめる。


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