28.思い出
食事の後、僕はフィオナに調薬室を見せてもらっていた。
おじさんとフィオナが二人で使っているらしい。
二人並んで床にぺたりと座る。
「ここも、凄く久しぶりだな……」
しみじみと呟く。
「ふふ。子どもの頃は私の部屋じゃなくてこの調薬室でよく遊んだよね?」
「ああ。……ふっ、ふふふ」
ついつい思い出し笑いをしてしまった。
「どしたのユー君?」
「いや、少し思い出し笑いをしただけ」
「え~~、何々? 何を思い出したの?」
フィオナは興味津々といった感じでこちらへ乗り出してきた。
「小さい頃にさ、フィオナがマンドラゴラをどうしても見たいっておじさんに詰め寄ってたことがあるだろ」
マンドラゴラは調薬に使われる機会の多い小型の魔物だ。普段は土の中に潜んでいるが、一度土から外に引っ張り出すと驚異的な声量で叫んで敵を気絶させてくる。
僕の言葉に、フィオナが苦い顔をした。
僕にとっては愉快極まりない出来事だったが、彼女にとってはそうではないだろうな。
「そ、そんな事あったかな~。覚えてないな~」
僕はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて当時のことを語り始める。
「あの時のフィオナは『何でマンドラゴラ見せてくれないの!?』っておじさんに大泣きしながら拳を叩きつけててさ。おじさんもあまりにフィオナが泣くもんだから仕方なく耳栓を僕達に渡して、マンドラゴラを目の前で引き抜いてくれたんだよね」
「ユー君!」
フィオナは憤慨しているが、僕はお構いなしに続ける。
「それで引き抜かれたマンドラゴラの顔が怖かったからフィオナはまた大泣きしてさ。おじさんに『何であんな怖い顔してるって教えてくれなかったの!?』って泣きながら言ってるのを見て理不尽ってこういう事だなあって子どもながらに思ったよね」
「も、もう! どうしてそんなどうでもいいこと覚えてるのさ!」
ポカポカと軽い拳を打ち付けてくる彼女に僕は笑いながら答える。
「ハハハ! ごめんってば。でも、それだけ印象的だったんだよ」
反省の色が見えない僕に対して、フィオナはむぅ、と頬を膨らませていた。
「あ、マンドラゴラと言えば、最近新しい薬の研究してるんだよ!」
「新しい薬?」
きっとこれ以上触れられたくないのだろう。フィオナは慌てたように話題を切り替えた。
「うん! どう? 見てみる? と言っても、正直あまり勧められる様な段階じゃないけどね」
「せっかくだし見せてもらうかな」
「そう? でも、食後に見て気分の良いものじゃないかもしれないよ?」
「構わないよ」
「なら、分かった。ここで待っててねユー君」
彼女はそういうと、棚の中から赤い粉末が入った瓶を取り出し、机の上に置いた。
「あ、一応マスクとゴーグルも付けておいてね」
促されるままにその二つを装着し、彼女はそれプラス長いタオルで髪を包んだ。
「後は……っと」
フィオナは棚の下にある籠に手を突っ込み、何かを引っ張りあげた。
それはキー、キーと鳴いているネズミだった。
「モルモットか?」
体毛が一つもなく、肌色とうっすらとした青い血管がむき出しになっているそれはどう見ても愛玩動物などではなかった。
「うん。そう」
「それで、そのモルモットに粉末を摂取させるのか?」
そう問いかけると、フィオナはかすかに喉を鳴らして肯定した。
「そう。何度も言うけどあまり気分の良いものじゃないからね」
「ああ」
「じゃ、やるね」
フィオナはそう言って、匙で瓶の中から赤い粉末を僅かに掬い、モルモットの口元に持っていく。
モルモットは何の疑いもなくその粉末に飛びつき、そしてーー
「ーーっ!?」
ーー体全体が赤く染まり、そして次の瞬間にはばちゃりと体が弾けた。
僕は唖然としてしまい、しばらく言葉を失ってしまった。
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