26.父の怒り
カチッ、カチッ、と時計の針音が静かな室内に虚しく響く。
僕は脂汗を流しながら俯き、拳をぎゅっと握っていた。
一体どうしてこんな状況になってしまったのか?
「…………」
「…………」
僕は今、スキンヘッドのおじさん(フィオナのお父さん)と二人きりになっていた。
フィオナに引っ張られて連れてこられたはいいものの、彼女は帰ると同時に母親の手伝いをしてくるからユー君は座ってて! と言い残しあっという間にエプロンを着ながらキッチンへと駆けて行ってしまった。
そうして借りてきた猫の様にちょこんと椅子に座っていた僕の前に、ドカリと大きな音を立てて彼(フィオナのお父さん)は座ってきたのだ。
「お、お久しぶり……です」
絞り出すように声帯を震わせて出てきたのはそんな単純な挨拶だった。
本当は一番初めに言うべきだったのだが、記憶していたよりも遥かに密度の濃い威圧感で中々言い出せないでいた。
「君は……」
「は、はい! 何でしょうか!」
「あの子と、仲直りしたんだよな?」
あの子、とは考えるまでもなくフィオナの事だろう。
「はい。一応、ですけど」
「別に、あの子に笑顔が戻ったのは嬉しいことだ。だが、だがな、俺は君のことを素直に歓迎する気になれない。何故だか分かるか?」
厳かに、怒りを抑えるような声音でこちらに話しかけてきた。
「それは……」
彼の怒りは正当なものだ。
フィオナを傷つけたのは、紛れもなく僕の身勝手な行動に他ならない。親である彼は、傷ついた彼女の姿を誰よりも近くで見てきたはずだ。
その原因である僕が、のうのうと何もなかったかのような振る舞いで自身の娘と交友関係を結んでいるのだ。喜ばしいことのはずがない。
また娘は傷ついてしまうのではないかと、疑心暗鬼になるのは至極当然のことだ。
「大変、申し訳ございませんでした」
僕は椅子から立ち上がり、深く、深く彼に対して頭を下げた。
「何故謝る? 何が悪かったのか、君は本当に分かっているのか?」
「勿論です。個人的かつちっぽけな理由で、私は彼女のことを避けるようになりました」
おじさんは深く、大きくため息を吐きながら、当時のことを語り始めた。
「当時のあの子は、見るに堪えなかったよ。始めは『気のせいだと思う』と言っていた。だが徐々に、自分が何か悪いこといたのかもしれないと自身のことを責めるようになってき、次第に笑顔と口数が減っていった。傍目には分からないレベルかも知れないけど、だが、確実にだ」
「……はい」
噛みしめるように、僕はその言葉を受け止めた。
「そんな君が、今更どういう風の吹き回しか娘と仲直りしたという。あの子は喜んでいたが、俺にはまた君がフィオナを傷付けるんじゃないかと気が気ではないよ」
「そんなことは――」
そんなことはしないと、口で言うのは簡単だ。
だが、それは信じてもらうだけの信用が僕には存在していなかった。
当然だ。僕は一度フィオナのことを深く傷つけてしまったのだから。
「……おじさんがお怒りになるのは至極当然のことだと存じます」
そう、当然だ。僕が同じ立場でも決して良い気分とはならないだろう。
「それで?」
「もしよろしければ羊皮紙を1枚お譲りいただいてもよろしいですか?」
突然羊皮紙を要求した僕に、彼は面食らったようだ。
「何に使うつもりだ?」
「私なりの誠意を示させていただきます」
怪訝そうな顔をしながら羊皮紙を手渡してくれた彼の目を真っ直ぐに見据えて答えた。
儀式魔術を行使する際には、木材から精製した紙よりも羊皮紙の方が魔力伝導性の面で優れている。
僕の魔力伝達速度は人並外れて低いため、一から術式を形成することを考えると通常の紙を使用することは憚られた。
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