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2.過去の自分

 小さかった頃、僕は無敵の英雄だった。

 何にだってなれると思っていたし、どこへだって辿り着けると、そう信じて疑わなかった。

 事実、僕は6歳の頃に街で開かれた剣術大会で優勝した。

 決勝戦で相手を倒した後、僕は木剣を蒼く突き抜けた空へ掲げ、高らかに宣言した。


「僕は、グラディノス帝国の英雄になる!」


 剣術大会は祭りの余興の一つであったこともあり、それなりに観客が多かった。周囲の観衆は祭りの熱のせいか、僕の宣言に沸き立ち、祭りを盛り上げた。その時の僕には、確かな高揚感と不思議な全能感が全身に纏わりついていた。

 ちなみに優勝したとはいっても、勿論幼年の部のしかも魔力使用無しのルールだ。

 ……でも、それでも、僕は自分の力を疑うことはなかった。この世界は、(これ)一本でどこまでも切り開いていける。

 ……英雄にだって、いつかなれるんだって。


 だからあの日、学院に入学する前に行った魔力検査の日のことが悪い夢なんじゃないかって、何度も思った。

 遥か遠い未来の、輝く自分の背中を見据えるように前を向いている僕。

 その足取りは淀みなく、一切の不安を感じさせることはない。

 やめろ、止まれ、と僕は必死に記憶の中の僕に対して呼びかける。

 だがそんな亡霊の言葉に耳を貸すことはなく前へ、前へと進み、ついにそこにたどり着いてしまった。

 魔力を計測する装置を前にして、在りし日の僕は今か今かとその瞬間を待ちわびる。

 そして、こうして今でも夢に見るその瞬間が、決して忘れる事の無い絶望が、訪れた。

 過去の僕の前には、学院の講師が名簿を持って立っていた。


「それでは、受験番号082、ユリウス・ラインフォルト。この装置に魔力を流してください」


 待ちきれなかった僕は、目の前の講師の言葉にかぶせるように手を伸ばし、装置の水晶部分に手を乗せた。

 魔力の流し方は、両親からあらかじめ教わっていたため、難なく己の心臓から魔力を引き出していく。

 じんわり、とやや緩慢な印象を受ける魔力は僕の体を巡り、やがて手へと到達してそのまま水晶へと魔力が流し込まれた。

 水晶は魔力が流れるとともに光り、結果を写し出す紙に水晶から走る光が文字を紡いでいく。

 講師はその紙を手に取り、やや怪訝そうな顔をしてこちらを見てきた。

 きっと、僕の能力が高くて思わず機械の故障を疑っているのかもしれない、と、当時の僕は本気でそんなことを考えていた。

 過去の僕は期待に満ちた瞳と表情でその結果を待ちわびる。


 そして――


◇◇◇◇


「うわああああ!?」


 悲鳴を上げて飛び起きた。


「ハア……ッ! ハア……ッ!」


 夢と(うつつ)の境がハッキリとしないまま、肩で粗い息を繰り返す。


「くそ……ッ! またあの夢だ……」


 じんわりと汗が滲んだ掌を見つめ、僕は力なくそう呟いた。


「ああ、もう……」


 汗ばんだ手で、頭を無造作にぐしゃりと掴んだ。

 今日はもう目が完全に冴えてしまって寝れそうにない。それに、例え寝れたとしてももう一度あの夢を見てしまうのが怖い。

 僕はそんな思いから、元々仮眠のために使っていた簡易ベッドから体を出した。

 窓の外を見て今の時間を確認する。

 自然に起きる前に起きてしまったのだから当然ではあるが、外はまだ夜だった。ただ、月や星の明かりは案外明るいもので、窓からその光が差し込んでいた。

 窓から漏れる光は散らかりに散らかった僕の作業机を照らした。

 文字通り、僕が心血を注いできた多くの図面と術式、そしてその通りに作った魔銃が仄かに光りを反射していた。


「他に、何かできるかな……?」


 僕はひとりでにそう呟き、手持ちの参考書を開き、白紙の図面に術式を書き始めた。

 何かに熱中していれば、荒んだ心から少しは目を逸らせる気がした。

 いつものように僕は、夜が明けるまで羽ペンを走らせ続けた。


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