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17.フィオナ①

「………んっ」


 目を覚ますと、煉瓦調の天井が一番に視界に入ってきた。


「ここは?」


 夢と現の間をフラフラする意識のまま視線を左に動かすと、窓から茜色の光が差し込み部屋を仄暗く照らしていた。

 僕が寝かされていたベッドも鮮やかな色に染め上げられていた。

 どうやらここは学院の医務室のようだ。 

 あぁ、そうか……。

 場所を把握すると同時に、現実を理解した。


「僕は、負けたのか…………」


 先輩との模擬戦で、僕は全ての力を出しつくした。ありとあらゆる魔弾と魔板を駆使して彼女に勝とうとした。だがしかし、ただの一つとして彼女には、天才には通用していなかった。

 窓から差し込む茜色の光が虚しさを増長させ、じわりと、目頭が熱くなった。

 悔しかった。多少強くなったところで、何の意味もなかったことが分かり、ただひたすらに悔しかった。

 でも、まだ終わりじゃない。僕はまだ死んでいない。才能がない僕にできることなど諦めないこと、その一点しか存在しない。

 乱雑に目を拭い起き上がると、右手には予想外の人物が椅子に座って船を漕いでいた。

 こっくり、こっくりと身体を前後に揺らしている少女は――


「フィオナ?」


 ――幼馴染のフィオナだった。

 蒼い綺麗な髪が窓から入る風に揺らされていた。

 小動物を思わせるような薄い唇に長いまつげが印象的だった。

 ここ数年、僕が学院に入学してからはあまり顔を合わせていなかったが、近くで見るとよりフィオナの顔が整っていることが良く分かる。

 なぜ彼女がここにいるのだろうか?

 その疑問を抱くのと同時に、気持ちよさそうに寝ていた少女は目を覚ました。

 ハッとしたように目を覚ました彼女は僕の顔を見るなり、


「ユー君!」


 ガバっと首に抱き着いてきた。


「え!? ちょっ!?」


 予想外の事態に思わず慌てふためいてしまった。

 

「あっ! ご、ごめんね……、つい」


 彼女はテヘヘと笑いながら、僕から離れた。


「いや、別に構わないけど、どうしてここに?」


 僕がそう言うと、彼女は不服そうに頬を膨らませた。


「どうして? 気を失った幼馴染を心配するのっておかしい?」


「あ……、いや、そうか。うん、おかしくない……と思う。多分」


 しどろもどろになりながらも、僕は内心驚きを隠し切れずにいた。彼女がまだ僕のことを幼馴染だと思い心配してくれているなど予想だにしていなかった。

 実際、こうして話すのも何年ぶりだろうか、という程に疎遠だったのだから。

 僕の歯切れの悪い返答に彼女は鈴を転がしたようにクスクスと笑った。


「何それ? 変なの?」


「いや、だって、こうして話すのだっていつぶりだろうってくらいだから」


「大体5年ぶりくらいかな。ユー君ったら私の事避けてるんだもん」


「避けては…………、いや、避けてたな」


 誤魔化そうとも考えたが、上手い言い訳が思い付きそうになかったため素直に肯定する。


「だよね? それで? 何で私の事避けてたの?」


 不安そうに瞳を揺らしながら、彼女は問うてきた。

 僕はそんな彼女から視線をそらし、窓から沈みゆく太陽を見つめて目を細めた。


「釣り合いが取れないと思ったから、かな」


 僕の発言に、彼女は不思議そうに首を傾げた。


「釣り合い?」


 正直言葉にするのは恥ずかしかったが、この状況でいきなり立ち去るのは不自然極まりないため、頬をポリポリと掻きながら答える。


「ああ。フィオナは入学当初から優秀だって評判だった。でも幼馴染みの僕はそうじゃなかった。それどころか、学院始まって以来の劣等生とまで言われていたくらいだったから。だから僕が傍にいると君の評判まで落ちて――んっ!」


 後少しと言うところで、フィオナは僕の両頬を両手で挟んできた。パチンと小気味よい音が医務室に響いた。

 ひんやりと冷たい感触が、気恥ずかしくて火照った頬を沈めてくれていた。

 そのままぐいっと自身の方へと僕の顔を向けた。


「なっ」


 何をするんだと言おうとしたが、彼女の蒼い瞳は雄弁にその激情を語っていた。


「私は今怒っています」


「いや、まあ、はい」


 そうでしょうとも。怒りに瞳が燃え盛っていた。


「理由は分かりますか?」


「分かるような分からないような」


「どっち!」


「分かります!」


 フンス、と鼻息荒く彼女はまくしたてる。


「では答えをどうぞ!」


「フィオナの事を考えているようで、君がどう思うかを考えていなかったこと……?」


「よろしい! ……でも、本当に良かった」


「何が?」


「てっきり私が何かしたからユー君は私を避けるようになったんだって、そう思ってたから……」


 そう言って目元を拭う彼女を見て、僕は胸を締め付けられたような気持ちになった。僕のちっぽけなプライドのせいで、それまで一緒に過ごしてきた大切な幼馴染を傷つけてしまったのだ。


「その、何て言えば良いのか……。とにかく、ごめん……。本当にごめんな……」


「ううん。それはもう良いの。こうしてまた話せたし。……勇気を出して目が覚めるのを待っていた甲斐があったね」


 充血した瞳を細めて笑う彼女。


お久しぶりです。

溜めた分を毎日投下します

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