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14.魔銃

 先生は穏やかな表情でゼオンに話しかける。 


「改めて自分の無力さを思い知ったよ。分かってはいたけど、君に教えることは何も無さそうだ」


「まあ、それは仕方ないでしょう。生まれた時から何をするにも苦労した記憶がありませんからね。先生の才能が俺に劣っているというだけで、気落ちすることはないですよ」


 彼の驕り全開の発言に、僕の隣にいるクレア先輩は小さく舌打ちし、悪態を吐いた。


「あの人がどれだけの手加減をしていたかも理解せず、ただ叩きつけるだけの無様な剣を披露しておきながらよくあんな事が言える……」


 ゼオンは勝利に満足したのか、ニコニコとした表情でクレア先輩へと話しかけた。


「ダスティス先輩。Sランクの俺の闘いは参考になったんじゃないですか?」


「ああ。とても参考になったよ。…………違う意味でね」


 ぼそりと毒を吐くクレア先輩。そんな彼女の額には青筋が浮かんでいた。


「え? 最後の方なんて言いました?」


「いや、何でもないよ」


「そうですか。……それなら良いんですけど……」


 言いながらも釈然としない表情を浮かべるゼオン。

 そんな彼はハーレムのメンバーの元に戻り祝福を受けていた。

 取りあえず模擬戦が一段落したため、セカイ先生は大きな声で今日の戦闘技術学の内容を告げる。


「それでは好きなペアを組んで模擬戦を行え! 俺は皆の模擬戦を観戦して必要があれば助言をする。それを聞くも聞かないも君達の自由だ!」


「「「はい!」」」


 ゼオンに負けたとはいえ、先程の動きは実力を認めさせるのに十分だったのだろう。AクラスもDクラスも、一部を除いて素直に返事をしていた。

 生徒たちは各々でペアを組み、修練場内で試合を始めた。修練場内にはいくつもの試合場があるため多少の順番待ちで済むはずだ。

 僕も相手を見つけないとな……。

 腰のホルスターにはまっている魔銃を確かめるように触った。

 新たに生まれ変わったこいつの威力も確かめるいい機会だ。

 恐らく、相手を探すのはさほど苦労しないだろう。


「おい劣等生!」


 やっぱりな。

 軽く嘆息し、後ろから飛んできた声に僕は振り返る。すると、同じDクラスの連中がニヤニヤとした表情でこちらを見ていた。

 先頭の赤髪をオールバックにしている男が代表するように僕に話しかけてくる。

 赤髪の同級生の名前はディッセル・ホルスト。素行不良で悪名高い、僕とは別な意味で劣等生の男だ。


「今日も俺がお前と闘ってやるよ? どうだ? 嬉しいだろ?」


 いつものようににやけ面で提案してくる彼に、僕は冷めた視線を向ける。

 それが癇に障ったのか、ディッセルは僕の胸倉を掴んで睨みつけてきた。


「何だその目は? 気に入らねぇな」


 僕は身体強化を行使し、強引に彼の腕を振り払う。

 乱れた制服を整えながら、僕は彼に対して言い放つ。


「君が気に入るか、気に入らないかなんて、僕にとってはどうでも良いんだよ。それより試合をするんだろう? 早く始めよう」


 僕の挑発を聞いた瞬間、彼の額に大きな青筋が浮かんだ。

 

「今日はやけに威勢が良いじゃねぇか……っ。良いぜ。いつもみたいにぼろ雑巾にしてやるから覚悟しておけ!」


 ディッセルの言う通り、戦闘技術学で模擬戦を行う際にいつも彼の相手をさせられていた。いや、相手などではない。一方的にサンドバックにされていた、といった方が正しいだろう。

 まともに魔術を発動できず逃げ回ることしかできない僕のことを、彼らは嘲笑いながら攻撃してくるのだ。

 だけど、いつまでもそのままではいられない。いや、いちゃいけないんだ。

 彼に勝つことで僕は、僕自身の可能性を証明してみせる。

 順番が回ってきたので、僕と彼は互いに武器を構えて向き合う。

 彼は自前の剣をクルクルと回し、僕は魔銃をホルスターから引き抜いて装備する。

 僕の魔銃を見て、彼は愉快そうに顔を歪めた。


「お前それって、この前の魔術実技で使ってた触媒か……? ぷっ! アッハッハッハ!」


 彼はこの前の僕の惨状を見ていたから面白くて仕方がないのだろう。初級魔術の遥か下の威力しか出せなかったあの無残ともいえる事実を。


「さ~~て、今日の俺は寛大だからな。まずお前の攻撃を真正面から受けてやるよ」


 完全に僕のことを舐めている彼は、両手を広げて僕の攻撃を待っていた。


「後悔しても知らないよ」


 僕はディッセルに対して警告する。

 だがその言葉を額面通り受け取るはずもない。


「ハハハ! あのしょっぼい威力の魔術受けて後悔するわけねえだろ! 何なら直接お前の攻撃を受けてやるよ! ほら? これで撃ってみろよ!」


 そう言って彼は、スタスタと僕の目の前までくる。


「…………」


 僕は黙って魔銃を彼の腹部に押し当てる。

 確かにこいつの言う通り、数日前までの魔弾の威力では特殊素材で作られている学院の制服に傷一つ付けることはできないだろう。

 だが今の僕の魔弾は違う。

 今魔銃には風属性の魔術式が刻まれている。


「どうした? お前が撃った瞬間にスタートだぜ? ビビッて撃てな――」


 ――ドウッ!

 鈍い音共に、初級魔術以上の威力を持った風属性の魔弾が解放された。


「――ガッ!? 嗚呼アァ!?」


 悲鳴と共に彼は吹き飛ばされ、障壁に勢い良く叩きつけられた。

 僕は即座に身体強化を掛け、吹き飛ばした彼に追随する。


「なっ、何、で……っ?」


 障壁に叩きつけられた彼はドシャりと音を立てて地面に崩れ落ち、魔弾を受けた腹部を抑えながら悶え苦しむ。

 腹部の制服は吹き飛び、決して浅くない傷が刻まれている。


「終わりだよ」


 僕は顔を上げた彼の額に、銃口を付きつけた。

 腹部に喰らった威力から、頭部に直接受ければどうなるか分からないわけがない。


「くっ……、糞が……。てめぇ……! いつの間に、こんな……っ!」


「僕が聞きたいのはその言葉じゃないな。で? どうするの? 降参するの? それとも続ける?」


 言いながらしゃがみ込み、より強く銃口を彼の額に押し付ける。


「ひっ!? 降参! 降参だ!」


「そう? 分かったよ」


 僕は彼の言葉を聞き、素直に銃を放して背中を向けた。

 その瞬間――


「馬鹿が! 油断しやがって!」

 

 ――彼は僕の背中に対して火属性の魔術を放とうと術式を展開する。


「くっ……!」

 

 振り向き様に魔銃を彼に対して構えようとする。しかし、既にディッセルの魔術は発動目前だった。


「もう遅ガハぁ嗚呼あああぁァ!?」


 魔術を発動しようとしたディッセルは地面から発生した風魔術により空高く打ち上げられた。

 ドグシャァ! と鈍い音を立てて地面に落下する男に、僕は冷ややかな視線を向けた。


「ハッ……! ハァッ……!」


 余りの衝撃にまともに言葉も紡げず、彼は瞳に涙を浮かべながら僕のことを見る。

 その瞳は雄弁に、僕が一体何をしたのかと語っていた。


「別に大したことはしていないよ。使ったのはこれさ」


 僕は制服のポケットからあるものを取り出して彼に見えるように指でつまんだ。

 取り出したのは円形の小さな円盤で、その表面には風属性の魔術式が刻まれている。


「術式を刻んだ札と一緒さ。これに魔力を流せば魔術が発動する。それをただ、君にばれない様に地面に撒いておいたんだ。簡単な話だろう?」


 彼にばれないようにするために、僕は執拗に魔銃の銃口に意識を向けさせた。初撃で魔銃の脅威を植え付け、それを額に押し付けることで意識を離せなくした。その間に僕はしゃがみこみ、彼の這いつくばる地面にこの魔板をばらまいたのだ。

 種を明かせばなんてことないことだった。


「だ、だけ、……ど、そんな、小さな術式で……っ」


「そこまで教えてやる義理は無いな……。ただ一つだけ言えるのは、これは君達が、いや僕も含めた全員が馬鹿にし続けた魔力のおかげだってことだけだ」


 停滞という魔力特性により、僕は術式に対して常軌を逸した魔力密度を込めることができるようになった。これにより、飛躍的に魔術の威力が向上したのだ。


「な、にを言って……? ぅ……っ」


 そこまでで彼の意識は限界だったようで、がくりと意識を失った。


「「デ、ディッセル!」」


 彼の取り巻きが慌てたように駆け付け、抱き起こしていそいそと医務室へと連れて行った。

 彼らの姿が見えなくなったところで、僕はようやく修練場から降りて近くの椅子へと腰かけた。


「ふぅ……」


 軽く息を吐く。

 汗ばんだ掌を見ると、緊張からか軽く震えていた。

 当然だ。僕は今まで、彼らに勝てたことなどただの一度たりとも無かったのだから。

 先程の試合にしたって、ディッセルが油断して初撃を0距離で受けてくれたから何とかなったものの、最初から対等な立場で試合を始めていたらどうなっていたか分からない。


「でも、……勝った。……僕の力で、勝ったんだ……」


 薄氷の上でむしり取った勝利を確かめるように、僕はぎゅっと両拳を握った。

 勝利の余韻に浸っていると、不意に目の前の地面に影が落ちた。


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