門前 【月夜譚No.37】
ここを任されたからには、鼠一匹通させはしない。門の前に立った少年は背筋を伸ばし、身の丈の二倍はあろうかという槍の尻を地面に打ちつけた。同時に、門の両端の篝火がゆらりと揺らめく。
国の中央に聳える王城。ぐるりと周囲を石塀で囲み、下界と繋ぐのはたった三つの門のみだ。その内の一つ――北に位置するこの門は、唯一橋に面していた。固く閉じられた門の正面から、石造りの頑強な橋が向こう岸まで伸びている。橋の下を覗き込めば、轟々と川が流れている。
昼間は橋の前を通行人が行き来するが、今は水音と炎の爆ぜる音以外に聞こえるものはない。静かな夜だ。不意に頬を掠めていった冷たいに風に、少年は身震いをした。
夜は始まったばかり。日の出の時間までここを守り通さねばならない。少年は片手で襟元を合わせて、そっと白い息を吐き出した。