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4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その34

「はぁ、はぁ、ねえ美緒ちゃん、ホントにピーちゃんはもう涙出せないの?」


 真っ赤にはれ上がった耳を押さえて、俊介が情けない声でたずねました。美緒が冷ややかな視線で俊介を見ます。


「里音ちゃんの話じゃ、俊介君を治したときの一回分で終わりみたいね。それに女の子にあんなひどいこという俊介君には、ピーちゃんの涙が残っていても使わせないわ」


 ふんっとそっぽを向く美緒を、俊介はあごをあんぐり開けて見つめています。里音がほおをによによさせながら、俊介に近づいてきました。


「あーあ、かわいそう。俊介ったら、こんなに耳を真っ赤にして。わたしが治してあげよっか?」

「いやだよ、ぼくに近づかないでよ! ちょっと、なに手を赤く光らせてるんだよ! ちょっと待って、本出さないでってば! わかった、もう二度とあんなひどいこといいません、だからお願いちょっと待って!」


 里音が取り出した、『治療に使えるなめなめくじ~こいつで治すくらいなら死んだほうがましだ~』を必死で開かせないように押さえて、俊介が助けを求めるように花子と花音に目を向けました。もちろん二人とも知らんぷりして目すら合わせてくれません。『治療に使えるなめなめくじ~こいつで治すくらいなら死んだほうがましだ~』がついに開かれ、俊介の耳にべっとべとの巨大ななめくじが現れました。


「うぎゃーっ! 取って取って、ぼくなめくじだいっきらいなんだ! お願いだから取って!」

「へー、なめなめくじならうまく治療できるみたいね。どうやら聖人の血は、俊介の好き嫌いよりも、それが俊介に害を及ぼすかどうかで効くか効かないか決まるみたいね」

「ちょっと里音ちゃん、お願い、このなめくじ取って! べとべとが、うわっ、顔にまで、やめろ、髪にもくっつくな!」

「さっきの『マカイシャ毒ター・ブラックのカルテ』は、多分生命の危機におちいっていたから、聖人の血が過剰に反応しちゃったみたいね」


 俊介の必死の頼みはもちろん無視して、里音は冷静に観察しています。


「お姉ちゃん、それじゃあ俊介をもっと痛めつけて、生命の危機におちいったときに、なめなめくじで治療できるか確認したほうがいいんじゃない?」

「ちょ、花音ちゃんもなに怖いこといってんの? やだよそんなの! うわ、耳の穴に入ろうとするな! やめてぇ、べとべとはやだぁ!」

「ねぇねぇ里音ちゃん、他の本も試してみようよ。治療だけじゃなくてさ、俊介のからだを強化したり、動きをすばやくしたりとかないの? もちろん副作用があるやつで」

「花子っ! お前までぼくにひどいことしようとするなんて! って、うそだろ、このなめくじ分裂した? やめろぉ、耳以外はケガしてないって、いや、むしろ耳もケガしてないのに、やだよぉ!」

「でもあのなめくじちゃん、なんだか目がぷっくらしててかわいいわね」

「美緒、あんたいったいどんな趣味してるのよ……。どう考えてもゲテモノじゃないの」

「ちょっと美緒ちゃん、なごんでないでお願い、このなめくじぶぇっ! くひにっ、くふぃにはいっふぇふるなっ!」


 顔の上で何匹にも分裂して、俊介の耳の穴や鼻の穴、口にまで入ろうとしてくるなめくじを、俊介は必死になって引きはがそうとします。その様子をみんなジト目で見つめています。


「とにかく俊介君には、しっかり反省してもらいたいわね」

「ホントよ。いくら本当のことだからって、相手のいやがることをいうなんて……、あ、いや、本当のことじゃなかったわね」

「あんたの顔にもなめなめくじ出現させてあげようかしら?」

「まぁまぁ、お姉ちゃん、そんな怒らないでよ。それになにはともあれ、ようやく封印する本が残り一冊になったんだからさ」


 花音の言葉に、里音は顔をほころばせてからうなずきました。


「そうよ、それよ! 本当に長かったわ、ここまでの道のりは……。でも、それもあと一冊で終わりね。こんな大変な目にあったんだし、最後の本はもちろんちょろいやつなんでしょうね?」


 里音が期待をこめた目で、花音を見つめました。花音ははぁっとわざとらしく肩をあげてから答えました。


「お姉ちゃん、今朝いったじゃんか。残ってる三冊はどれもとんでもなくやっかいだって。もう忘れちゃったの?」

「だってしかたないじゃないの。今日はとんでもなく大変な目にあったんだから。もう一生分のやっかいごとを引き受けた感じだわ。……で、いったい最後の本は何なのよ?」


 じたばたしながらなめなめくじと格闘する俊介をしり目に、里音が花音にたずねました。花音はもったいぶったように目をつぶり、それから最後の本の名前を告げました。


「六冊目、そして最後の本は、『魔界怪盗ネームレスのゲームブック』よ」

「はぁっ? ゲームブックですって? まさか、ネームレスのゲームブックシリーズの?」

「うん。そうよ。あたしはもちろんやったことないけど、お姉ちゃん遊んだことあるの?」


 花音が里音に問いかけましたが、里音は固まってしまってなにも答えませんでした。花音が里音の顔の前で手をふりますが、里音はぶつぶついいながら、まったく反応しませんでした。


「うそでしょ、まさか、よりにもよってゲームブックだなんて。しかもネームレスの……。どうすんのよ、どう考えても、よくて死人が出る結果になるわ。もうっ、誰よ、そんなとんでもない本を人間界に投げた不届き者は!」

「いや、だからそれはお姉ちゃんだって……」


 花音の冷静なツッコみも、ただ里音をいらだたせるだけでした。キーッとヒステリックに里音は花音に食いかかります。


「なに冷静になってんのよ! ネームレスのゲームブックよ! 今までの五冊を束にしても、おつりがくるぐらいに大変な本じゃないの! ああ、もう、どうするのよぉ……」

「はぁ、はぁ……。ようやく全部とれたぞ、このなめくじどもが! ……どうしたの、里音ちゃん。そんな深刻な顔して」


 なめなめくじでべとべとになった顔で、俊介が里音に向き合いました。里音はまた耳を引っぱろうとして、べとべとになっているのに気がつき手を引っこめました。


「あんたなんだか変なにおいがするわよ。なめくじくさいわ!」

「……誰のせいだよ、誰の……。それより、どうしたんだよ、そんなこの世の終わりみたいな顔してさ」

「あんたはゲームブックのこと知らないからそんなこといえるのよ。とんでもなく面倒くさい本だわ、これ……」

「里音ちゃん、いったいそのゲームブックって、どんな本なの? ゲームについてまとめてるの?」


 美緒に聞かれて、里音ははぁっと肩をすくめました。


「違うわよ、ゲームブックっていうのは……」


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

ひとまずこれで4冊目および5冊目の話は終わりとなります。

次から2話分、裏話的な話が入って、そのあといよいよ6冊目の章に入っていきます。

それと、いったん区切りがいいのでまたおまけの話も投稿しようと思います。

今回は3話分ありますので、このあと1話、さらに本日20時台と明日に1話ずつ投稿します。

よろしければそちらもどうぞ♪

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