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4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その33

 『テンポラルのドッペルゲンガー研究』の封印は、驚くほどにあっけなく終わりました。美緒とドッペルゲンガー・美緒が、すたすた『テンポラルのドッペルゲンガー研究』に近づいて、二人同時に本を閉じて、それで終了したのです。生み出されたドッペルゲンガー・美緒が消えてしまい、美緒はビッとブイサインしました。


「まさかこんな簡単に封印できるなんてね。今までの死闘がなんだかバカバカしく思えてくるわ」


 疲れたように肩を回して、里音がはぁっとため息をつきました。花音もキャハハと楽しげに笑います。


「ホントね。あたしのドッペルゲンガーがちゃんと生き残ってたら、こんなめんどくさいことにはならなかったのに、お姉ちゃんが消しちゃうのがいけないのよ」

「あのねぇ、もとはといえばあんたが勝手に『テンポラルのドッペルゲンガー研究』使って、わたしにちょっかいかけてきたのが原因でしょうが! そのおかげでこっちはとんでもなく苦労して、しかも魔界図書館の人間の利用者を二人も作っちゃったのよ! オニババに知られたらどう思われるか……」


 頭を抱える里音に、美緒がぷくっとほおをふくらませて近づいてきました。手には閉じたての『テンポラルのドッペルゲンガー研究』を持っています。


「もうっ、里音ちゃんったらひどいわ。せっかく魔界図書館の本を借りれるっていうのに、なんだかやっかいものみたいないいかたして。『テンポラルのドッペルゲンガー研究』開いちゃおうかなぁ」

「バカッ、やめなさい、それ開いたらさっきよりとんでもなくめんどくさいことになるじゃないの!」

「うそに決まってるじゃないの。はい、じゃあ早く封印しちゃってね」


 『テンポラルのドッペルゲンガー研究』を受け取り、里音はジト目で美緒を見あげました。ですが、すぐに『テンポラルのドッペルゲンガー研究』の背表紙に軽くキスしたのです。里音のくちびるにくぎ付けになる俊介を、美緒がじろりとにらみつけました。


「俊介君、なにいやらしい目で里音ちゃんを見てるのよ」

「えっ、いや、違うよ、そんなつもりは……」


 どぎまぎしてあわてて首をふる俊介を、美緒がいたずらっぽく笑って見ています。里音がはぁっと、わざとらしいため息をつきました。


「ほら、封印は終わったわよ。まったくもう、とんでもない本だったわね。さ、次は『不死鳥の飼いかた全集』だけど、その前にまずは美緒に図書カードの契約をしてもらいましょうね」


 里音は『テンポラルのドッペルゲンガー研究』をフッと消して、それから再びエプロンドレスのポケットから、真っ黒なカードを取り出しました。魔界図書館の図書カードです。


「それじゃ、このカードを持ってそこに立ってちょうだい」

「わかったわ。でも魔法の契約なんて、なんだか魔女っ娘になるみたいでドキドキしちゃうな。なにか魔法の呪文とか、杖使ったりとか、ほうき使ったりしないの?」

「するわけないじゃないの。いっておくけどとんでもなく地味よ。とりあえずそのカード持っててね。それじゃあ契約を始めるわ。『魔界図書館の司書見習いとして、汝を魔界図書館の利用者として認める』。さあ、あとは図書カードをかかげて、自分の名前をさけぶのよ」


 美緒はノリノリで、クルクルッとターンしてから図書カードを天にかかげました。サイドポニーがふわりとゆれて、大声で名前をさけぶ美緒を、里音はあきれ顔で見ていました。ですが、契約はちゃんと成立したようで、真っ黒だった図書カードが赤く光りはじめました。


「まったく、なに余計なことしてんのよ。ターンしなくても普通にかかげればちゃんと契約できるんだから」

「えー、でもこうしたほうがなんだか魔女っ娘っぽくてかわいいじゃない」

「知らないわよ。とにかく図書カード見せてみて。……ああ、うまくいったみたいね。これであなたも、今日から魔界図書館の利用者よ」


 里音が図書カードを美緒に渡しました。図書カードにはおどろおどろしい文字で、『池山美緒』と書かれています。


「わぁ、うれしい! これでわたしも、里音ちゃんたちの仲間ってことね!」

「いや、仲間とかじゃないけど……。ま、でもあんたがわたしたちの関係者になったってことには変わらないし、とにかくこれからいろいろあると思うけど、よろしくね」


 里音が差し出した手を、美緒は満面の笑みでにぎりました。そのまま美緒から『不死鳥の飼いかた全集』も受け取り、そして背表紙にキスします。美緒にじっと視線を送られたので、俊介はあわてて顔をそらします。


「さ、それじゃあ最後に、この本をあんたに貸し出すわ。あ、ちなみに今までは魔界図書館の本の文字、ちんぷんかんぷんだったと思うけど、あんたが利用者になったことで、魔界言語を理解できるようになっているわ。だからちゃんと『不死鳥の飼いかた全集』も読めるから、しっかりピーちゃんの世話をするのよ」


 里音は二ッと八重歯を出して笑い、それから美緒に向きなおりました。


「それじゃあ契約を始めるわ。『魔界図書館の司書見習いとして、汝に『不死鳥の飼いかた全集』を貸し出す』。さ、図書カードをかかげて、本の名前をさけびなさい。いや、ターンはしなくていいってば」


 里音が止めるのも聞かず、美緒はノリノリでクルクルッとターンして、両手でハートを作りつつも図書カードをかかげました。サイドポニーがいたずらっぽくなびきます。里音は思い切り頭を抱えて首をふりました。ですが、どちらにしても無事に借りることができたようです。図書カードには、やはりおどろおどろしい文字で、『不死鳥の飼いかた全集』と書かれています。


「とりあえず貸出期間は、あんたがピーちゃんの飼い主でい続けている間でいいわね」

「えっ、貸出期間って、里音ちゃんが勝手に決められるの?」


 美緒に聞かれて、里音は胸を張ってうなずきました。


「そうよ。これは司書に与えられた特権なの。どうかしら、わたしの偉大さが身に染みてわかったでしょ?」

「司書見習いの、お子様吸血鬼のくせに」


 自分では絶対に里音に聞こえないようにいったつもりだったのでしょうが、俊介は里音の地獄耳を甘く見すぎていたようです。里音が一瞬で俊介の足元に飛びかかってきて、全体重をこめて耳を引っぱったのです。


「うぎゃあっ! ちぎれる、ちぎれちゃうってば!」

「大丈夫よ、ちぎれても魔界の本で治してあげるから」

「治せないんじゃなかったのかよ!」

「だから実験よ。どの本で治るのか、いろいろ試してみましょう。でも、試すためにはあんたの耳がくっついたままじゃダメでしょ。さ、それじゃあ引きちぎりましょうか」

「バカ、やめろって、うぎゃあぁぁっ!」


 もはや何度目でしょうか、俊介の絶叫が空に吸いこまれていきました。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

明日は2話投稿する予定です。

少し時間がいつもとずれまして、15時台に1話、20時台にもう1話投稿する予定です。

明日もどうぞよろしくお願いいたします。

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