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4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その31

「ひぃっ! み、美緒ちゃん……?」


 思わずあとずさりする俊介を、美緒は全く感情を失ったような無表情で、ずんずんと俊介に近づいてきます。俊介は首がもげそうになるほど横にふって、早口で言い訳します。


「ちょっと待ってちょっと待って、違うんだ、その、ぼくはピーちゃんと美緒ちゃんが心配だからいっただけで、別に美緒ちゃんを怒らせようとか、そんなことは全く考えてなくてそれで」

「俊介君、わたしがどうして怒ってるか、当ててみて?」


 表情だけでなく、声のトーンも完全に無感情になっています。そしてそれは、美緒の怒りが沸点をとうに超えていることの証明でもありました。助けを求めるように里音と花音をふりかえりますが、二人はもちろん全く目を合わせようとせず、我関せずといった様子でした。美緒が追い打ちをかけます。


「ねぇ、早く当ててみてよ。絶交されたくないんでしょう?」

「そりゃもちろんだよ、でも、でもさ、その……」


 あわあわいいながらも、俊介は頭をフル回転させます。美緒のひとみから、どんどん色が失われていくのを、汗だらだらになりながらも見つめて、なんとかして正解を探ろうとします。


「わたし、このあいだいったはずよ。ちゃんとわたしが怒った理由をちゃんと伝えてくれないと、絶交だって。あのあと、ちゃんと考えてくれたのよね?」

「もちろんだよ、でも、その、いろいろ心当たりがあって……」


 美緒の目がきらりと不気味に光りました。スーッと右手がふり上げられます。絶体絶命のピンチに、俊介はヒッと息を飲みました。しかし……。


「ピィーッ!」


 高原にひびく笛の根のような、すんだ鳴き声が公園にひびきわたりました。みんな一斉にピーちゃんの入っている鳥かごに視線を向けると、ピーちゃんが俊介をじっと見ていたのです。


「ピーちゃん……」

「ピィーッ! ピュイッ! ピュイッ! ピィーッ!」


 美緒に向けて、何度もピーちゃんがすんだ鳴き声をあげます。それはまるで、美緒に「待って」といい聞かせているように見えました。美緒はしばらくピーちゃんを見つめていましたが、やがてふり上げかけた手を下ろしたのです。


「……そうね、俊介君はわたしを助けてくれたんだもん。ごめんね、わたしそれを忘れて、またひどいことをいっちゃった」

「美緒ちゃん……。ぼくのほうこそごめん、美緒ちゃんがどうして怒ってるか、わかんなくて……。でも、これだけは信じてほしいんだ、ぼくあのあと、必死で考えたんだよ。なにがぼくに足りなかったのか、ずっとずぅっと考えたんだ。本当なんだよ」

「ま、その結果わかんないどころか、とんちんかんな答えを出してたけどね」


 あっけらかんと笑う里音を、俊介はぎりりっと歯ぎしりしながらにらみつけます。美緒はふうっと小さくため息をつきました。


「それはもういいわ。俊介君が考えてくれたんなら、それだけでもうれしいし。でも、欲をいえば、ちゃんと当ててほしかったけどな」

「美緒ちゃん……。ごめんよ、ぼくもっとがんばって考えるよ、美緒ちゃんがどうして怒ったか考えるよ! だってぼくだって、美緒ちゃんのこともっと知りたいから、美緒ちゃんと仲良くなりたいから、だから……」

「わかったわ。じゃあ答えはいわないでおくから。でももし俊介君が、どうしてわたしが怒ったか当ててくれたら、そのときは……」


 なんともいい雰囲気になる二人を、里音が面白くなさそうにながめていましたが、やがてパンパンッと手をたたきました。


「ほら、二人ともそれくらいにして、話を元に戻すわよ。とりあえず美緒には、魔界図書館の利用者になってもらうわ。つまり、魔界図書館の本を貸すのよ。別にいいわよね?」

「えっ、本を借りれるの? 借りたい借りたい! ぜひ借りたいわ! あ、じゃあまずは、あの、『魔界カメレオンの冒険』を……」

「いやよ、あんたに貸したら、どうせろくなことしないだろうし、それに残念ながら人間は、一冊しか借りることができないわ。で、なにを貸すかはもう決めているのよ。……それよ」


 里音が指さしたのは、美緒が持っていた『不死鳥の飼いかた全集』でした。美緒があっと声を上げてうなずきました。


「気づいたようね。そうよ、その本があれば、あんたもピーちゃんの世話をしやすいでしょう。それに魔界図書館の利用者になれば、あんたもわたしたちの仲間になる。つまり、オニババ……ママに万が一あんたたちのことがバレても、わたしは殺されないって寸法よ」

「そうね、それなら里音ちゃんも無事ですむし、わたしもピーちゃんをちゃんと飼うことができるわ。それに、里音ちゃんたちの仲間になれるなんて、すごく楽しそうじゃないの」

「えっ、どういうこと? でも、美緒ちゃん里音ちゃんたちのこと、迷惑って思ってなかったの?」


 驚いたように目を白黒させる俊介を、みんなあきれ顔で見つめています。里音がわざとらしく肩をあげて、同情するように美緒にいいました。


「あーあ、あれじゃああいつ、当分あんたがなんで怒ってるかわからないわよ」


 里音の言葉にも、俊介はぽかんと口を開けたまま、なにがなんだかわからないといった様子でつっ立っているだけでした。


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