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4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その30

「ダメよ! この本は絶対渡さないわ! いくら里音ちゃんのお願いでも、それだけはダメよ! だって里音ちゃん、ピーちゃんのこと封印しようって思ってるんでしょう!」


 ようやく公園に戻り、『本日は閉店しました~クレーマーは絶対に入れない名店特集~』で人払いをしたあとのことです。里音が美緒に、『不死鳥の飼いかた全集』を貸すようにいって、当然のごとく美緒が反発したのです。


「ちょっと待ちなさいって、だから、別にピーちゃんを封印しようなんて思っていないっていってるじゃないの」

「絶対うそよ! だって里音ちゃんは、魔界図書館から出て行った本を封印するために、人間界に来ているんでしょう? なら『不死鳥の飼いかた全集』だって封印するに決まってるじゃないの。この本が封印されたら、ピーちゃんとだってもう会えなくなっちゃうんでしょう? そんなのいやよ!」


 怒り狂う美緒に、里音はもうたじたじです。しかも美緒だけでなく、俊介までもが反対したのです。


「そうだよ、美緒ちゃんのいう通りだよ。ピーちゃんはすっごく美緒ちゃんになついてて、本当のお母さんみたいに思ってるんだよ。それなのに二人を引き離すなんて、そんなのひどすぎるよ! 鬼だよ、吸血鬼だよ!」

「いや、どっちにしてもわたしは吸血鬼なんだけど……。って、そんなことはどうでもいいわ。さっきからなんどもいってるけど、わたしだってそんなひどいことはしないわよ。その不死鳥は、ピーちゃんは、美緒の子供みたいなものだろうし、それに俊介の命の恩人なんだもん。封印なんてひどいことしないわよ」

「そうやって油断させて、うまいこと封印しようって思ってるんだろ、そうはいかないぞ!」


 美緒の前に立ちはだかる俊介を、里音はしおらしい表情で見あげました。


「……そっか。あんた、わたしが親と子を離れ離れにするような、冷酷な鬼、吸血鬼だって思ってるんだ」


 いつもと違う様子の里音を、俊介はいぶかしげに見ていました。里音が美緒に視線を向けると、美緒は困惑気味にたずねました。


「……でも、封印しないと里音ちゃん、お母さんにすっごく怒られちゃうんでしょう?」

「怒られるだけですむなら、どれだけ幸せなことか……。たぶん百回ぐらい八つ裂きにされるでしょうね」

「それなら、どうするつもりなの? ピーちゃんを封印しないと、大変なんでしょう?」

「ダメだよ美緒ちゃん、だまされたら! 里音ちゃんのいつもの手だよ、こうやっておどしと泣き落としで、ぼくは今までどれだけひどい目にあわされたことか……。でももうその手には乗らないんだからな!」


 いきり立つ俊介を、里音がキッとにらみました。


「なによ、この分からず屋! どうしてわたしを信じてくれないのよ!」

「いっつもぼくのことをハメてるのに、信じられるはずないだろ!」

「ほらほら、ちょっと二人とも落ち着きなって。とりあえずお姉ちゃんは封印しないでどうするか説明しなよ。そしたら俊介たちも納得するはずだからさ」


 花音があわてて二人のあいだに入ります。里音はまだ八重歯を見せて、シャーッといかくしていましたが、やがてふんっと鼻を鳴らしました。


「いいわ、じゃあどうするつもりか説明するわよ。だいたいわたしの話を注意深く聞いてたら、わたしがひどいことをしようと思ってないことくらい、すぐにわかったはずよ。さっきからわたしは、ピーちゃんは封印しないっていってるじゃない」

「でも、『不死鳥の飼いかた全集』は封印するつもりだろ。それって同じことじゃないか!」


 俊介のツッコみに、里音は肩をすくめて答えました。


「同じじゃないわ。だってピーちゃんは、『不死鳥の飼いかた全集』にもともと封印されていたんだから。だから『不死鳥の飼いかた全集』を封印しようと、ピーちゃんまで封印されたりしないわ。魔界図書館に本を返したとたんに、せっかく出現させた自分のペットまで消えちゃうなら、誰も『不死鳥の飼いかた全集』を借りようとは思わないでしょう」


 里音にいわれて、俊介はきょとんとしていましたが、美緒は納得したようにうなずきました。


「なるほど、それなら安心ね。わたしてっきり、『不死鳥の飼いかた全集』を持っているから、ピーちゃんが出てるとばかり思ってたけど、そうじゃなかったのね」

「そうよ。……とはいっても、結局この本がないと、あんたも不死鳥をうまく育てられないでしょう。不死鳥は普通の鳥とは育てかたが全然違うからね。それにこうもあんたがトラブルばかり引き寄せるなら、もういっそあんたにもたっぷりかかわってもらったほうが、監視やらなんやらしなくていいだろうし」

「えっ、それって、どういうこと?」


 警戒するように美緒が里音を見つめました。里音は首をふって、それからエプロンドレスのポケットから、真っ黒なカードを取り出しました。赤くおどろおどろしい文字で、魔界図書館専用と書かれています。


「あっ、それって魔界図書館の図書カードだ! ……じゃあ、まさか里音ちゃん、美緒ちゃんに!」


 俊介がすばやく美緒の前で、手を大きく広げました。里音が苦虫をかみつぶしたような顔でたずねます。


「なにやってんのよ、あんたは」

「なにって、美緒ちゃんを守ってるに決まってるだろ! 里音ちゃん、美緒ちゃんまで魔界図書館の利用者にしようと思ってるんじゃんか。そんなのダメだよ!」

「なんでダメなのよ?」

「えっ?」


 里音に問いかけられて、俊介は目を丸くしました。ですが、すぐに目を三角にとがらせ、里音に食ってかかります。


「そんなの決まってるじゃないか! これ以上美緒ちゃんを巻きこむなんて、そんなことダメだよ! 美緒ちゃんだけは、巻きこまないようにしないといけないのに、図書カードまで渡すなんて、そんなことぼくが許さないからな!」

「……らしいけど、美緒。どう思う?」


 背中に強い殺気を感じて、ハッと俊介がふりかえりました。美緒が能面のような無表情で、静かに俊介を見つめていました。


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