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4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その26

「聖人の血って……えっ、でも、俊介は普通の人間の男の子だし、そんな、聖人だなんて」


 里音の言葉をさえぎるように、花音が「あっ」と声をあげました。


「そうか、だからだわ!」

「だからだわって、いったいなにがよ」


 里音が肩をいからせて花音につめよります。花音はつとめて冷静に、里音に説明しました。


「俊介の記憶よ! あたしたちが記憶を吸い出そうとしたら、ものすごいまずさで吸い取ることができなかったでしょ。あたしずっと引っかかってたのよ。そりゃああたしたちもグルメとかそんなんじゃないから、記憶の味の違いなんて全然気にしなかったけど、それでもあいつの記憶は異常だった」

「そりゃあね、あのゲロまず記憶はどう考えても異常だったわよ」


 うっぷと口を押さえる里音に、花音は説明を続けました。


「でもそれが、聖人の血による拒絶反応だったとしたら? あたしたちが記憶を吸い出そうと、つまり俊介に害を与えようとしていたのを、俊介の聖人の血が感じ取っていたとしたら?」

「そうか、それなら記憶があれだけまずいのも納得がいくわ。記憶も聖人の血に守られているから、それでってことね。……って、それじゃあ俊介を治療できないじゃないの!」


 いきなり里音が大声を出したので、花音はびくっと身をちぢめました。完全に取り乱している様子で、里音はブラックにつかみかかります。


「ちょっと、どうにかならないの? 俊介を治療できないってことなの? あんたマカイシャでしょ、それなら聖人の血だってなんとかできるんじゃ」

「わたしのオペ室ならうまくいくかもしれない。だが現在のわたしは、君の本によって召喚された、いわば君自身の魔力そのものなのだ。だからどのような治療法を使おうとも、聖人の血によって守られている彼を治療することはできない」

「そんな、うそでしょう! 俊介を、俊介を助けてよぉ!」


 里音にからだをゆさぶられても、ブラックにはどうすることもできません。里音の感情が乱れたからか、ブラックのからだがフッと消えてしまいました。『マカイシャ毒ター・ブラックのカルテ』が閉じられて、消えていきます。


「どうすればいいの? 魔界図書館の本は全部、わたしの魔力がもととなってるなら、わたしの力じゃどうにもならないってことじゃないの! 俊介、俊介ぇ……」


 ふらふらと俊介のそばによってきて、里音はがっくりとすわりこみました。そのすがたは完全に、小学一年生の女の子そのものでした。力なくすすり泣く里音を、美緒がぎゅっと抱きしめます。


「ごめんなさい、悪いのはわたしよ。俊介君はわたしをかばって、助けてくれたんだ。それなのにわたし、俊介君にいろいろ意地悪いって、絶交するなんていって……。俊介君はわたしのこと、こんなに守ってくれていたのに、わたし……」


 里音を抱きしめる美緒のひとみから、大粒の涙がこぼれました。それをじっと見つめていたピーちゃんが、美緒の視線の先、俊介の顔をまじまじと見ます。そして一声、「ピィーッ」と、すずやかな笛の音のような、長い長い鳴き声を空に向けて奏でたのです。


「……涙……? ピーちゃんも、泣いてくれているの……」


 美緒がぽつりとつぶやきました。里音もその声につられてふりかえると、ピーちゃんの赤い目から、きらめく涙がこぼれていたのです。まるで宝石のようなその涙は、目からこぼれると、そのまま地面に落ちることもなく、空中で太陽のように温かな輝きを放ちはじめたのです。里音はだぼだぼのそでで、ごしごしと目を乱暴にふき、それから魅入られたように宙で輝く涙を見つめていました。


「……不死鳥の……涙……」


 ピーちゃんはその涙をくちばしでそっとくわえました。涙は砕けることもなく、ピーちゃんにくわえられたまま、なおも輝きを失いませんでした。ピーちゃんはおぼつかない足取りで、よちよちと俊介へと近づいていきます。美緒と里音が見つめる中、ピーちゃんは俊介の胸の傷の上で、注意深く涙を離しました。ゆらめきながら、涙はゆっくりと傷の上に落ちていきます。


「……あ」


 傷にふれた瞬間に、涙がジュッという音とともに蒸発してしまったのです。目をみはる里音と美緒の目の前で、俊介の胸の傷が赤く透明な炎に包まれました。


「キャッ、俊介君!」

「待って!」


 あわてて炎を消そうとする美緒を、里音が制しました。


「見て、俊介の傷……」


 赤く透明な炎からは、少しも熱を感じることはありませんでした。ただ、それからは不死鳥の炎を凝縮したかのような、強い圧迫感がありました。その炎が俊介の傷を燃やしていくとともに、じわじわと傷がふさがり、つらぬかれたからだが再生していったのです。それはまるで、炎から生まれ変わる不死鳥のすがたそのものでした。


「すごい……」


 しばらくの間、美緒も里音も口を開くことはできませんでした。赤く透明な炎は、パチパチとはぜるような音とともに、最後はけむりとなって消えていきました。


「う……うん……」


 かすかにうめき声を上げてから、俊介がゆっくりとからだを起こしました。胸にあったはずの傷はおろか、破れた服すら完全に元通りになっています。


「あれ、ぼく、いったい……」

「俊介!」

「俊介君!」


 里音と美緒に同時に抱きつかれて、俊介の顔が一気に赤く燃え上がりました。まったく状況がわかっていない様子で、口をパクパクさせています。


「え、え、えぇ? えっと、どういうこと……?」

「俊介君! よかった、本当によかった……。心配したんだよ、もうダメかって思ったんだよ! うぅ……」


 俊介の胸に顔を押しあてて、美緒がからだをふるわせています。里音もぎゅうっと俊介をしめあげながらバンバン背中をたたきます。


「バカ、バカ、バカ、バカ! ドレイのくせに、どれだけわたしに心配かけるのよ! このバカ!」

「ちょちょちょ、ちょっと、痛い、痛いよ里音ちゃん! やめて、背中たたかないで、許してよ!」


 二人にせまられ、もみくちゃにされて、俊介はうれしいやら苦しいやらで、目が回りそうになっています。そんな三人の様子を、花音は面白そうににやにやしながらながめています。


 ――これはこれは……。面白くなりそうじゃん――


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

本日はあと1話投稿予定です。いつもの19時台に投稿する予定です。

そちらもお楽しみにお待ちいただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして!! 児童文学と書かれてたのでひらがなが多いのを覚悟して読んでましたが、最初の方は設定の割に子供向けすぎて尚且つ俊介がいじられすぎてメソメソしてるとこに苛立ちを感じてましたが、…
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