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5冊目 『テンポラルのドッペルゲンガー研究』 その20

 里音の言葉に、俊介は目を丸くしました。


「封印って、あ、そうか、黒い背表紙の本ってことは!」


 声を上げる俊介を、里音はあきれ顔で見つめました。


「あんた、今ごろ気づいたの? そうよ、さっきのニセモノは、人間界に逃げた魔界図書館の本、『テンポラルのドッペルゲンガー研究』で創られたドッペルゲンガーなの。これでドッペルゲンガーは全部倒したんだし、とりあえず封印するのもやりやすくなったわ」


 里音の言葉に、今度は花音がぽかんとした顔をしました。それには気づかず、里音はこった肩をほぐすように腕を回します。


「でも、ようやくこれで四冊目ね。花音の話じゃ、他の本はもっとやっかいだってことだし、あぁ、ホントに頭の痛い問題ね。ま、いいわ。とっとと封印して、他の本を探しましょう」

「お姉ちゃん、四冊目っていうか、多分それ五冊目になるんじゃないかしら?」

「へっ? 五冊目?」


 花音に指摘されて、里音は間の抜けた声で聞き返しました。花音はキャハハとおかしそうに笑います。


「ちょっとお姉ちゃん、ドッペルゲンガーとの戦いが終わって、気が緩みすぎだよ。『テンポラルのドッペルゲンガー研究』より先に、見つけた本があったでしょ。ついでにいうと、ドッペルゲンガーも全部倒したわけじゃないわよ。最後の一匹が残ってるでしょ」

「え、他に本があったかしら? それにまだドッペルゲンガーが残ってるって、どこによ?」


 花音ははぁっとわざとらしくため息をつきました。そして無言で空を指さします。里音はあっと声を上げ、ごまかすように舌を出しました。


「そうだった、忘れてたわ。まだ『不死鳥の飼いかた全集』があったんだったわ。待てよ、じゃあ最後のドッペルゲンガーって」

「お姉ちゃん、思い出すの遅すぎだよ……。そうよ、まさしく今、頭上で戦ってるのが、太陽と月の不死鳥と、そのドッペルゲンガーよ」


 頭上で赤と黒の炎が、離れてはまじり、からんでは分かれるのを見て、里音は頭を抱えました。


「うそでしょ、ようやくめんどくさいのを封印できるって思ってたのに、どうしてこんなめんどくさい本が残ってたのよ! あ、待てよ、あれって確か美緒のペットなのよね。そうか、じゃあ『不死鳥の飼いかた全集』は美緒が持ってるってことじゃないの! それをこっちによこしなさい!」

「ちょっとお姉ちゃん、落ち着きなって。だいたい『不死鳥の飼いかた全集』を封印したところで、あの太陽と月の不死鳥は封印されないんだし、あとにしなよ。それよりまずはあのドッペルゲンガーをどうにかしないと。いくらあたしたちでも、吸血鬼の天敵の不死鳥相手にやりあうのは無理よ!」


 美緒に飛びかかろうとする里音を、花音がなんとか押さえました。美緒も警戒するように『不死鳥の飼いかた全集』を両手で抱えます。


「ちょっと、まさか里音ちゃんまで、わたしのピーちゃんを封印しようなんて思ってるんじゃないでしょうね? そんなの絶対ダメよ! ピーちゃんがセキセイインコじゃなくても、そのなんとかの不死鳥だったとしても、わたしの大切なペットなんだから! いくら里音ちゃんでもそんなの許さないからね!」

「許さないって、じゃああんた魔界の鳥が人間界にいていいと思ってんの? あいつはそりゃあかわいいかもしれないけど、魔界の不死鳥なのよ。その気になれば、人間なんて簡単に焼き殺すことができる凶悪なやつなのよ! そんな危険なやつを野放しにするなんて、あんた正気なの?」

「ぼくたちにとっては、里音ちゃんや花音ちゃんを野放しにしてるのも、とんでもなく危険だと思いたたたたっ! ちょ、やめて、耳がちぎれるぅ!」


 口答えする俊介の耳を、里音ががっちりつかんで思いっきり引っぱります。涙目になる俊介の耳に、さらにゲェーッという不快な鳴き声が聞こえてきました。


「そんな、ピーちゃん!」


 美緒の悲鳴も聞こえてきて、俊介は急いで里音の手を振りほどきました。美緒は空に目がくぎづけになっています。俊介も急いで頭上を見あげました。


「ああっ、ピーちゃんが!」


 赤い炎をまとった、本物のピーちゃんめがけて、黒い炎をまとったドッペルゲンガーが、一気に体当たりしたのです。赤い炎が黒い炎に焼かれて、真っ黒なけむりが立っています。里音が顔をしかめました。


「まずいわね、あれじゃうまく飛べそうにないわ。このままじゃドッペルゲンガーにオリジナルがやられちゃう!」

「里音ちゃん、なんとかできないの? 魔界図書館の本で、ドッペルゲンガーだけ狙い撃ちにするとかは?」


 俊介に問いつめられても、里音は首をふるだけでした。


「距離がありすぎるわよ、それにあそこまで届くような遠距離系の本で、なおかつドッペルゲンガーだけを狙うなんて、そんな精度の高い攻撃はできないわよ! 空を飛ぶような本はあるけど、わたしたちが近づいたらドッペルゲンガーはわたしたちの影を狙ってくるだろうし、オリジナルもわたしたちを敵とみなす可能性があるわ!」

「でも、このままじゃピーちゃんがやられちゃうわ!」


 美緒の悲痛なさけびに、里音はグッとこぶしをにぎって空をにらみつけました。


「わたしだって助けてあげたいけど、でもどうしようも」

「ああっ!」


 美緒が再びさけび声を上げます。急いでピーちゃんを目で追うと、黒い炎が一気に羽を焦がして、こっちへ落下してきたのです。美緒が急いでかけていきます。


「ピーちゃん、危ない!」


 最後の力をふりしぼって、ピーちゃんはなんとか美緒の胸の中へと羽ばたき、落下しました。羽はこげて、赤い炎も消え、プスプスとけむりが出ています。それでもかまわず、美緒はピーちゃんを抱きしめました。


「ああ、ピーちゃん! ダメ、死んじゃダメよ! 里音ちゃん、お願い、ピーちゃんを助けて!」


 ピーちゃんは美緒に、弱々しく「ピィ……」と鳴きました。涙目の美緒に見つめられて、里音は右手に赤い光を集中させます。


「わかったわ、とにかくその子を回復させて、ドッペルゲンガーをやっつけましょう! ……って、危ないっ!」


 美緒が抱えていたピーちゃんめがけて、ドッペルゲンガーが急降下してきたのです。里音の、そして美緒のさけびがあたりにこだましました。


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