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5冊目 『テンポラルのドッペルゲンガー研究』 その18

「さぁ、準備は整ったわ。魔人の中でも、最も凶悪でおぞましい……それでいて強力な切り裂き魔よ、出でよ! 『魔人切り裂きジャックの一生』よ!」


 ドッペルゲンガー・里音の右手に、血塗られたハサミの絵が表紙に載った、血みどろの本が出現しました。ドッペルゲンガー・里音がその本をポイっとほうり投げると、本は一瞬でバラバラに切り刻まれ、次の瞬間真っ赤に染まったハサミを持った、紳士風の男が出現したのです。男は感覚を確かめるかのように、ハサミをチョキチョキさせています。


「魔人ジャックよ、『テンポラルのドッペルゲンガー研究』に巻きついている、いまいましいグレイプニルを切り裂きなさい!」


 ドッペルゲンガー・里音のどなり声にうなずいて、ジャックは空中でハサミをチョキチョキさせました。そのとたん、『テンポラルのドッペルゲンガー研究』を封印していたグレイプニルが、バラバラに切断されてしまったのです。目をみはる里音たちに向かって、魔人ジャックはぺこりとお辞儀して、それから『魔人切り裂きジャックの一生』の本に戻ったのです。


「ね、いったとおりでしょ。グレイプニルほどの封印具を切り裂くのは、確かに難しいけど、不可能じゃないわ。魔界図書館にはありとあらゆる本がそろっているんですもの。最強の盾があれば、最強の矛もある。それが魔界図書館というものよ」


 ふふんっと勝ち誇ったように笑い、ドッペルゲンガー・里音は『テンポラルのドッペルゲンガー研究』を拾いました。それと同時に、俊介が抱えていた『マカイオオカミ絶滅までの軌跡』も消えてしまったのです。グレイプニルが切り裂かれたからでしょう。俊介が悲鳴まじりに里音に泣きつきます。


「里音ちゃん、どうしよう! このままじゃ、里音ちゃんが何百人もコピーされて、地獄のハーレムが誕生しちゃうよ! そんなハーレムこっちから願い下げなのに!」

「あんた、あとで覚えときなさいよ!」


 目をむく里音に、ドッペルゲンガー・里音がアハハと笑って勝利宣言します。


「あら、あんたにあとでなんてないわよ。まぁでも安心してちょうだい。あんたになりかわったあとに、俊介はわたしがお仕置きしておくから。ま、でもせっかくだし、里音ちゃんハーレムを俊介には体験させてあげるわよ……って、えっ?」


 ドッペルゲンガー・里音の視線が、地面にくぎづけになっています。なにごとかと俊介も視線の先に目をやりました。別段変わったところはないように思えましたが、俊介ではなく美緒のほうが先にあっと声をあげました。


「影があるわ!」

「影? いや、そりゃ影ぐらい……って、そうだ、ドッペルゲンガーでも、里音ちゃんは吸血鬼だから、影はないはず!」


 俊介たちの言葉に、ドッペルゲンガー・里音も困惑したように自分の影を凝視しています。


「それじゃあ、この影はいったい……グフェッ!」


 ボゴンッという派手な音とともに、ドッペルゲンガー・里音のからだが宙に舞いました。ドッペルゲンガー・里音がいたはずの場所に、いつの間にかショートパンツにノースリーブのシャツを着た女の子のすがたが現れていたのです。


「花音ちゃん!」


 そこには封印されたはずの花音が立っていたのです。こぶしを高々とかかげて、にやっと八重歯を見せて笑います。


「さっすがお姉ちゃん。影を出現させてあたしを逃がしてくれるなんて、やっるー♪」

「影を出現させた? えっ、いったいどういうこと?」


 目をぱちくりさせる俊介ですが、その質問は俊介以上に、ドッペルゲンガー・里音がしたかったようです。ぐったりしながらも、なんとか頭を上げて、里音をにらみつけました。


「へぇ、花音のパンチを食らっても、まだ生きてるなんて。少なくともあんた、わたしよりも強度だけは優れているようね」


 里音があざけるように笑いました。ドッペルゲンガー・里音は、花音にあごを思いっきりなぐられたので、うまくしゃべれない様子でしたが、それでもなんとか問いただします。


はんへ(なんで)はんはは(あんたは)ふうひんひははふ(ふういんしたはず)……」

「えっ、なんていったのよ? ……ま、いいわ。どうせなんで花音が出てきたのかって聞きたいんでしょうし。どうせ今度はあんたが封印されるんだから、冥途の土産に教えてあげるわ。……でも、本当は自分で気づいてほしいところだけどね。ちゃんと本の効果をすみずみまで覚えてたら、どうして花音が復活したかぐらい、すぐわかるはずなのに」


 里音はわざとらしく肩をすくめました。ドッペルゲンガー・里音はくやしそうに里音をにらみつけましたが、もはやしゃべる気力もないのでしょう。ゴボゴボと苦しそうな音を出すだけです。


「全く、そんなことじゃ図書館司書失格よ。……まあいいわ。それじゃあ種明かししてあげる。花音の、それにあんたの影が戻った理由、それはあんたがグレイプニルを切り裂いて、グレイプニルの封印を解いたからよ」

ほふひふ(どういう)……ほほ(こと)……?」

「……その様子じゃ、ホントに知らなかったみたいね。最初に説明したでしょ。グレイプニルは魔界中の吸血鬼の影を使って創られたって。そしてわたしたちの影は、グレイプニルに()()()()()()()って」


 里音の言葉に、ドッペルゲンガー・里音は目を見開きました。里音はにやりと笑って続けました。


「そう、グレイプニルの真の力は、切られたときに使われていた材料が()()()()ってところなのよ」


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