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5冊目 『テンポラルのドッペルゲンガー研究』 その13

「ドッペルゲンガー? いったいどういうことなの? あ、もしかしてあなた、本物の里音ちゃんじゃなくて、ニセモノなんじゃ」


 里音はくっくとくぐもった笑い声を出して、にやりとうなずいたのです。すぐに手に持っていた黒い背表紙の本を、美緒たちに向けて開こうとしました。しかし……。


「なにこれ、本が、開かない!」


 里音がすっとんきょうな声をあげました。手に持っていた黒い背表紙の本は、銀色に輝く細いひもで、グルグル巻きにされていたのです。


「なんなのよ、このひもは! くっ、ほどけないわ、それに切れない! こんな細いひもなのに!」


 里音の右手が赤い光を放ちました。黒い背表紙の本とは別に、雪の中にたたずむ男の人が表紙に描かれた本を出現させたのです。


「こんなひも、切り刻んでやるわ、『ハサミ男と血塗られた雪』よ! ハサミ男、やっちゃって!」


 里音のさけび声とともに、『ハサミ男と血塗られた雪』が、両手がハサミのハンサムな男性に変化したのです。ハサミ男は、両手のハサミをぎらぎらに光らせて、黒い背表紙の本をグルグル巻きにしていた銀のひもを、ハサミで切ろうとします。しかし、ひもは少しも切れませんでした。


「どうしたの、早く切り裂きなさいよ! こんな細いひも、楽勝でしょ?」


 里音にあおられますが、ハサミ男のハサミは全くひもを切ることができません。それどころか、ひもはほつれることさえせず、逆にハサミ男のハサミがペキィンッと鋭い音を立てて折れたのでした。ハサミ男がけむりのように消えていきます。


「どうしてなの? こんな細いひもが、ハサミ男のハサミを折るほど頑丈だなんて」

「残念だったわね、『テンポラルのドッペルゲンガー研究』はもう開くことができないわよ。観念しなさい、このニセモノが!」


 うしろからも里音の声が聞こえてきたので、俊介と美緒がはじかれたようにふりむきました。


「それにしても、やられたわね。まさかニセモノのドッペルゲンガーが、花音まで封印しちゃうなんて。さすがわたし、っていいたいところだけど、そんな余裕はないわね。本当に甘く見てたわ」

「えっ、里音ちゃん? でも、こっちにも里音ちゃんが……って、うわっ!」


 俊介がまぬけな悲鳴をあげました。黒い背表紙の本、『テンポラルのドッペルゲンガー研究』を持っていた里音のからだが、真っ黒く染まっていったのです。ですが、その右手だけは色を保ったままでした。


「いまいましいやつね。わたしの右手を奪うなんて」


 もう一人の里音が、はきすてるようにいいました。その右うでは根元からなくなっていて、左手一本で本を持っていたのです。再び俊介が悲鳴をあげます。


「里音ちゃん、どうしたのその手! えっ、でも、あっちの里音ちゃんは右手があるし、え、いったいどうなってるの?」

「あいつはわたしのドッペルゲンガーよ。ドッペルゲンガーの意味は分かる?」

「いや、そりゃわかるけど、え、じゃああいつはニセモノ?」


 真っ黒く染まった、ドッペルゲンガー・里音は、にやりと口角をゆがめてうなずきました。


「あーあ、ばれちゃったわね。せっかくあんたたちを本物のすがたで油断させて、うまいことドッペルゲンガーを作ろうって思ったのに。ま、でもいいわ。そこの二人よりもうんと強力な、最強の不死鳥のドッペルゲンガーを作り出したんだから」

「まさか、それじゃあ!」


 焦った声を出す里音に、ドッペルゲンガー・里音はふふんと鼻で笑いかけます。


「そうよ。太陽と月の不死鳥のドッペルゲンガー。今は本物と空中戦をくり広げているけど、ドッペルゲンガーが勝ったら、あんたたちもおしまいね」


 アハハと笑いだすドッペルゲンガー・里音を、里音はぎりりっと歯ぎしりしながらにらみつけました。


「それじゃあやっぱり、ピーちゃんは不死鳥なのね。でも、どうしてわたしには、セキセイインコのヒナに見えてたのかしら?」


 美緒の問いかけに、里音はうっとうしそうに首をふりました。


「その話はあとでいいかしら。わたしにはまだ大仕事が残ってるんだから。いくら太陽と月の不死鳥がとんでもなく強かろうと、そのドッペルゲンガーが出現していようと、結局やることは変わらないわ。『テンポラルのドッペルゲンガー研究』を封印してしまえば、そのドッペルゲンガーも消滅する。単純なことよ」

「そうね、でもあなたにできるかしら? 右手を失って、左手だけでどれだけわたしについてこれるかしらね」


 ドッペルゲンガー・里音が、挑発するように笑います。しかし里音は全く気にも留めずに、逆に笑いかえしたのです。


「……なにがおかしいのよ?」


 これにはドッペルゲンガー・里音のほうが、しゃくにさわったようでした。まゆをつりあげて里音をにらみつけます。里音は余裕しゃくしゃくな表情で、肩をすくめました。


「だって、一番めんどくさい本を使えないようにしたんだから。『テンポラルのドッペルゲンガー研究』で、わたしや太陽と月の不死鳥をどんどんコピーされたら、いくらわたしでもお手上げだったわ。でも、それを封じた今なら、あんたを封印することくらい、左手一本でも簡単なくらいよ」


 ドッペルゲンガー・里音が、怒りでこぶしをわなわなとふるわせました。里音をにらみつけて声を荒げます。


「減らず口をたたくんじゃないわよ! こんな細いひもで、『テンポラルのドッペルゲンガー研究』を封印したつもりなの?」

「細いひも? あんた、それがいったいなんなのかわからないの? はぁ、それじゃあホントにニセモノね。魔界の図書館司書だったら、そのひもを見ればなんなのかくらい、すぐにわかるものなのに」


 里音の再三の挑発に、ドッペルゲンガー・里音はキーッとヒステリックにどなりました。里音は左手に持っていた本を見せて、ドッペルゲンガー・里音に説明しました。


「そのひもは、『魔界の足かせ、グレイプニル』よ」


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

明日は2話投稿する予定です。

お昼ごろに1話と、いつもの19時台にもう1話投稿します。

明日もどうぞよろしくお願いいたします。

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