4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その25
炎の稲妻と化したピーちゃんは、一気に俊介の足元、正確にいえば俊介の影に向かって燃え盛る羽を飛ばしたのです。一歩も動けない俊介を素通りして、羽は影に突きささり、影が一気に燃え上がります。
「ひゃあっ! 熱い、熱いわ!」
影の中から声がして、ぼふんっという間の抜けた音とともに影から誰かが飛び出してきました。だぼだぼのエプロンドレスのすそに火がついていて、手をパタパタふりまわして火を消そうとしています。そのすがたを見て、俊介はすっとんきょうな声をあげました。
「里音ちゃん! えっ、いったいどういうこと? なんでぼくの影から、里音ちゃんが出てくるのさ」
俊介の質問は無視して、里音はなおもパタパタ手をはたきます。そのすがたを見て、ピーちゃんはギュウンッと再び上空へ舞い上がり、ゲェーッといかくするような鳴き声をあげました。
「あぁっ、大丈夫、里音ちゃん? かわいそうに、かわいいエプロンドレスが台無しじゃない。今度お姉さんが燃えちゃったところ縫ってあげるね。うさぎさんのアップリケつけたら、焦げちゃったところもうまく隠せるわね」
「あのねぇ……。何度もいうけど、わたしはあんたよりずっと年上なのよ、むしろわたしのほうがお姉さんなのに、どうして年下あつかいされなきゃなんないのよ! それに黒のドレスなのに、うさぎのアップリケなんてふざけたもんつけたら、どう考えてもアンバランスだわ」
「えー、でもかわいいと思うけどなぁ。あ、もしかしてうさぎさんきらいだったかしら? くまさんのほうがよかった?」
「子供あつかいするなぁ!」
バタバタ手をふりまわしながら、里音は美緒に飛びかかろうとしますが、もちろん美緒に頭を押さえつけられて、里音の突進はいとも簡単に止められてしまいます。くやしそうに美緒をにらみあげる里音に、俊介が文句をいいます。
「ちょっと、いったいどこにいってたんだよ! ぼくはてっきり、美緒ちゃんを説得するのをサポートしてくれるとばかり思ってたのに。いや、待てよ、影の中にいたってことは、さてはまた魔界図書館の本を使って、ぼくのことを監視するかなんかしてたんだな? 人にはさんざんパンツのぞき魔とかなんとかいっておいて、ぼくのこと監視するなんて、里音ちゃんこそのぞき魔じゃないか!」
「誰がのぞき魔よ。っていうか、あんたそんなことよりわたしの心配しなさいよ! いきなり不死鳥におそわれるなんて、危ないじゃないの!」
里音の言葉に、俊介はハッと空を見あげました。ピーちゃんはグルグルと旋回しながら、地上の様子をうかがっているようです。もちろんその羽は、さっきと同じようにきらめくような赤と金の炎をまとっています。
「そうだった、里音ちゃん大丈夫だったの? 吸血鬼は影を焼かれたら大変だっていってたけど、大丈夫なの?」
俊介に聞かれて、里音はふふんっと鼻を鳴らしました。
「大丈夫よ、だって今のはあんたの影だったからね。わたしは影の中にひそんでいたから、ダメージはないわよ。出てくるときにちょっとドレスを焼かれちゃったけど」
得意そうにいう里音に、美緒は目をぱちくりさせながら問いかけます。
「ねぇ、里音ちゃん、さっきから俊介君もいってるけど、不死鳥ってどういうこと? まさか新しく、魔界図書館の本で不死鳥でも出てきたってこと?」
美緒の質問に、今度は里音が目を白黒させました。
「はぁ? いや、あんたいったいなにいってんのよ? どう考えたって、不死鳥ってあいつのことじゃないの」
里音は空を優雅に飛ぶピーちゃんを指さしました。ピーちゃんがゲェーッと不快な鳴き声を上げます。
「だって、ピーちゃんはセキセイインコで、あれ、でもさっき羽が燃えていたような……」
「あぁ、なるほどね。そうだったわね、太陽と月の不死鳥は、幻術も使えるんだったわ。あんたあいつにだまされてたのよ。あいつは、えーっと、ピーちゃんっていってたかしら。あいつはセキセイインコなんかじゃないわ。人間界の鳥でもない。あいつは不死鳥。魔界に住む太陽と月の不死鳥よ」
里音たちの会話が聞こえたのでしょうか、再びピーちゃんがゲェーッと怒りに満ちた鳴き声を上げ、炎を身にまとって急降下してきたのです。
「うわっ、来たよ! 里音ちゃん、早く魔界図書館の本でなんとか封印してよ!」
「うるさいわね、いわれなくてもやるわ。ただ、封印するんじゃないけど、ねっ!」
急降下してくるピーちゃんに向かって、里音が開いたのは、黒い背表紙の本でした。本から青い光がピーちゃんに放たれます。真っ赤に燃え盛る炎の稲妻が、黒い炎とまじりあい、それから赤と黒の二羽の不死鳥へと分離したのです。
「えっ、なに、いったいどうなってるの?」
真っ赤な炎をまとったピーちゃんは、燃え盛る羽をバサバサッとふって、炎の羽を何本も飛ばしました。黒い炎をまとったピーちゃんも、同じように羽ばたき、黒い羽を飛ばしました。赤と黒の羽が、空中でぶつかりあって燃えて相殺されていきます。度肝を抜かれる俊介と美緒に、里音はにやりと笑いました。
「ふふ、うまくいったわ。いくら太陽と月の不死鳥が強くても、自分と同じドッペルゲンガーを相手にすれば、悪くても相打ちになるはずよ。さ、次はあんたたちの番。あんたたちのドッペルゲンガーも作って、人間界をわたしたちドッペルゲンガーの世界にしてやるわ!」




