4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その23
「ねぇ、俊介君、でもこの本には、ちゃんと外で運動させたほうがいいって書いてるんだけど、それはどうしてなのかしら?」
美緒にたずねられても、俊介はあわてずにうまくごまかしました。
「それはあれだよ、大きくなったセキセイインコなら大丈夫ってことさ。でも、セキセイインコって個体差があって、親と仲がいいヒナほど、外に出しても飛び立たないで親のそばにいるっていわれてるんだ。美緒ちゃんとピーちゃんはすごく仲が良くて、ホントに親子みたいだからさ、きっとピーちゃんも外に出したって飛び立たないと思うよ」
ピーちゃんが俊介を見あげて、非難するようにゲェーッと不快な声を上げます。俊介はにやにやしながらピーちゃんを見おろしました。
――ふん、そんな声出したってどうにもならないぞ。お前はしゃべれないから、美緒ちゃんに誤解を解くこともできないだろ。あとはうまいことあることないこと美緒ちゃんに吹き込んで、お前の行動を縛っちゃえばいいんだ――
ピーちゃんがなにもいえないことをいいことに、俊介はどんどん調子に乗っていきます。不安がっている美緒に、さらにうそを重ねていきました。
「でもさ、美緒ちゃん、セキセイインコって仲が良くなるほどスキンシップを嫌うようになるって知ってる?」
「えっ、そうなの? でも、仲が良くなれば羽をさわらせてくれたり、肩や頭に乗ってくれたりするんじゃないのかしら?」
「ぼくもそうかなって思ってたんだ。でもね、前にぼくが読んだ本には、仲が良くなりすぎると、親、つまり美緒ちゃんのことを本当に仲間の鳥って思うようになるらしいんだ。ほら、セキセイインコが他のセキセイインコの肩や頭に乗るって、そんなことはないだろう。だから本当の鳥のように思っちゃって、うまくスキンシップできなくなるらしいんだよ」
「でも、それじゃあどうしたらいいのかしら? せっかくこんなにかわいいから、わたし、ピーちゃんともっとスキンシップしたいわ」
俊介は美緒に気づかれないように、にやりとほくそ笑みました。ピーちゃんはというと、俊介がまたも美緒にうその知識をふきこもうとしていることに気がついたのか、ゲェーッゲッゲッと不快な声を上げます。
――バカめ、お前がどんなに抵抗しようとも、しゃべれないならどうにもならないだろ。でもまだまだだぞ――
俊介は考えこむふりをしてから、少し間を取ったあとに、美緒を安心させるような猫なで声で答えたのです。
「うーん、一応うまくスキンシップ取る方法あるんだけど、でも、美緒ちゃんがちょっと悲しむかもしれないなぁ。だけど、ちゃんとこの方法でやれば、もっとスキンシップできるんだけど」
「いったいどんな方法なの? ねぇ、教えてよ」
じれったそうにいう美緒を、俊介はいとおしそうに見ていましたが、やがて続けました。
「わかったよ、美緒ちゃんがいうなら教えるね。あのね、最初にスキンシップを取らないようにして、自分が親だけど、人間で、ピーちゃんを飼育しているってわからせないといけないんだよ」
「えっ……?」
あからさまにいやそうな顔をする美緒でしたが、それも俊介の計算通りでした。わざとあわてたように手をふり、美緒に確認します。
「やっぱりいやだよね。ごめんよ、美緒ちゃんたちがこんなに仲良しなのに、そのきずなを裂こうとするなんて。でも、美緒ちゃんにもっとスキンシップの楽しみを知ってほしいって思って提案したんだ。ただ、余計なお世話だったよね……?」
あとを引くような俊介のいいかたに、美緒はつられて首をふりました。
「ううん、そんなことないわ。わたし俊介君のこと信用しているから。ねぇ、教えて。ピーちゃんとスキンシップできなくなるのはいやだもの。……でも、飼育しているってわからせるなんて、ちょっと残酷じゃない?」
「もちろん、ずっとそうするわけじゃないよ。ただ、ピーちゃんが大きくなるまでは、そうしてあげたほうがピーちゃんのためになるんだよ。ほら、ライオンは子供を谷底へ落として育てるってよくいうじゃないか。ライオンよりもっと危険な不死鳥なんだもん、それくらいしても平気さ」
ちらりとピーちゃんに目をやると、やはりずいぶんあせっているようです。俊介をきりっとした赤い目で見あげ、ゲッゲッと抗議の鳴き声を上げています。
――残念だったな、これでお前は美緒ちゃんとスキンシップもできなくなるぞ。美緒ちゃんと触れ合えるなんて、鳥のくせに生意気だからな。ぼくですら触れ合えないのに。うらやましい思いばかりしてるから、こういう天罰が下るんだ。ざまぁみろ――
「俊介君、不死鳥ってどういうこと? ピーちゃんはセキセイインコじゃないのかしら?」
美緒にたずねられて、俊介は「えっ?」と目をぱちくりさせました。さっき自分がいった言葉を思い出し、しまったとあわてて首をふります。
「あ、いや、違うよ、あの、いい間違えさ、間違えただけだよ。そうだよね、ピーちゃんはセキセイインコだもんね。ごめんごめん」
しかし、美緒は疑わしげな目で俊介を見ています。さっきまでうまくごまかせていたのに、それが一気に無駄になりそうになったので、俊介はあわあわしながら言い訳を続けました。
「ほら、ピーちゃんってさ、けっこうかっこいいじゃんか。きりっとしてて、くちばしも金色でさ。だから不死鳥みたいだなって思ったんだよ。なんというか、ほら、たとえっていうかさ」
苦しい言い訳でしたが、なんとか美緒は納得したようです。ホッとしてピーちゃんを見おろす俊介でしたが、その顔が恐怖に染まりました。




