4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その22
「ねぇねぇ、美緒ちゃん。ピーちゃんってすごいかわいいよね。ぼくもずっとふし……じゃない、セキセイインコ飼いたかったからさ、どこで見つけてきたか教えてよ」
唐突に俊介に聞かれて、美緒は目をぱちくりさせました。それからかすかに首をかしげて、考えこむように空を見あげます。
「そういえば、わたしどこでピーちゃんを見つけたのかしら。最近、よね、ピーちゃんと出会ったのは……。でも、どこでだったかしら」
とまどう美緒を見ながら、俊介はひひっとほくそ笑みました。そしてピーちゃんを見おろすと、俊介の予想通り、ピーちゃんはおびえたように美緒を見あげています。
――そうだ、こいつが美緒ちゃんに幻術をかけてだまくらかしているんなら、その矛盾点をついていけば、絶対ぼろを出すはずなんだ。ぼろを出せば、そこからまたぼろが出てくるはずだ。そうすればもうこっちのもんだ。見てろよ――
気合を入れる俊介でしたが、すぐにその目が驚きに見開かれました。ピーちゃんの羽がかすかに赤く光ったのです。けれどもそれ以上に驚かされたのが、そのあとの美緒の言葉でした。
「そうそう、ピーちゃんは近所のペットショップで買ってもらったの。あそこのペットショップ、かわいい鳥やうさぎがいっぱいいるから、よく学校帰りに寄ってたのよ」
「えっ、ペットショップ? でも、花子の話じゃ本屋さんで……」
俊介は再び口を閉ざしました。美緒の疑わしげな視線が俊介につきささります。俊介はあわてて首をふりました。
「違うんだよ、美緒ちゃん。その、なんというか……」
「ねぇ、俊介君、やっぱり俊介君、花子ちゃんとテレパシーで話してるんじゃないのかしら? だっていま、花子ちゃんの名前だしたでしょ」
「えっ、いや、違うってば、ホントにテレパシーなんて使ってないよ。誤解だよ」
「どうかしら。だって今日の俊介君、この間と同じ感じで、なんだか上の空だもん。わたしの話って、そんなに面白くないのかしら」
少し傷ついたようにうつむく美緒を見て、俊介は頭がもげそうになるほど首をふりました。
「そんなことないよ、美緒ちゃんとおしゃべりするの、とっても楽しいよ。だってぼく、美緒ちゃんが」
美緒への想いを口走りそうになって、すんでのところで俊介は言葉を飲みこみました。目を白黒させる美緒をしり目に、俊介はピーちゃんを憎々しげににらみつけます。
――くそっ、こいつにぼろを出させようとしてたのに、危うくぼくがぼろを出すところだったよ。でも、さっきのこいつの羽の光、あれは絶対に幻惑の光に決まってる! 美緒ちゃんに幻術をかけて、自分をペットショップで買ったって思わせたんだ。もう許さないぞ、美緒ちゃんをもてあそぶだけもてあそびやがって! なんとしてもこいつからぼろを出させないと――
そんな俊介の怒りには全く気づかない様子で、ピーちゃんは鳥かごの中で羽をゆっくりばたつかせました。きりっとした赤い目で、退屈そうに曇り空をながめています。
――あ、そうだった、もう一つこいつの弱点があるんだった、見てろよ――
俊介はにやりと笑って、再び美緒に話しかけました。
「でもさ美緒ちゃん、さっきは外に出して運動させてあげたほうがいいっていってたけど、ぼくはやっぱりやめたほうがいいと思うんだ」
「……どうしてかしら? 俊介君、まだわたしとピーちゃんのきずなをうたがってるの?」
美緒のまわりの温度が、さっきよりもスーッと下がったように感じます。けれども俊介はめげることなく、へへっとご機嫌を取るような笑いをうかべて続けました。
「まさか、ぼくはもう美緒ちゃんとピーちゃんが、本当の親子みたいに仲が良いってこと、疑ってないよ」
「ホントかしら? すごく怪しいけど……」
ジト目で見てくる美緒でしたが、俊介はあきらめずに粘り強く話を展開していきました。
「もちろんホントだよ。だってこんなに仲良さそうにしてるんだもん。ピーちゃんの鳴き声も、美緒ちゃんに甘えるときはすごいかわいい声出すもんね。もう完全に親子だよ。ぼくもうらやましいなぁ」
「俊介君……。そうかなぁ、うん、ありがとうね。そういってもらえるとわたしもうれしいわ」
疑いと不信感で閉じられていた美緒の心が、少しずつ開かれていきます。手ごたえを感じながら、俊介はじょじょに核心へと話を持っていきました。
「でもね、だからこそぼく、心配なんだよ。美緒ちゃんがピーちゃんを鳥かごの外に出しても、きっと逃げたりはしないと思うさ。けど、ピーちゃんはまだか弱いセキセイインコのヒナだよね。そんな小さなピーちゃんを外に出して、飛ばしたらさ、もしかして他の鳥に襲われるんじゃないかって心配になったんだよ」
ピーちゃんが、ゲッゲッと抗議するような鳴き声を上げました。しかし、もちろんそんなことで話をやめるような俊介ではありません。美緒の顔に不安の色が見えるのに、俊介は目ざとく気づいていました。
「そういえばぼく、聞いたことあるんだ。ペットのセキセイインコの死因で一番多いのって、屋外で飛ばしてるときに、他の鳥におそわれることによるものらしいんだ。だからみんな、特にヒナの間はなるべく外に出さないようにしているらしいよ。ストレス発散は、家の中でもできるからね」
ゲッゲッゲッゲッと、ピーちゃんが羽をばたつかせて鳴き出します。俊介は笑いをこらえるのに苦労しながらも、美緒を気にかけるようにゆったりした声でさとしました。
「美緒ちゃん、やっぱり今日はやめておいたほうがいいんじゃないかな。ううん、今日だけじゃなくて、ピーちゃんが大きくなるまでは待ってあげるほうがいいよ。ぼくもピーちゃんが他の鳥に傷つけられて、悲しむ美緒ちゃんを見たくないから」
「俊介君……。ありがとう、心配してくれるんだね。わたし、俊介君につらく当たったり、意地悪したりしてたのに、そんなわたしのこと気にかけてくれるなんて。ごめんね、俊介君。でもありがとう」
美緒がまぶしそうに俊介を見あげました。サイドポニーがふわりとゆれて、ぱっちりした目が頼もしそうに俊介を見つめています。対照的に、ピーちゃんはゲェーッと耳が痛くなるような不快な鳴き声を上げます。けれどもそれは、俊介にとって負け犬の遠吠えのようにしか聞こえませんでした。
――ふん、ざまぁみろ、お前は不死鳥だからな。羽を伸ばして、空を自由に飛びたかったんだろ。でもそうはさせないぞ。美緒ちゃんを説得して、絶対にお前を自由にしないようにしてやるからな――
いつもお読みくださいましてありがとうございます。
本日から新しく、『スパイのカイと賢者の砂』という作品を連載しています。
興味があるかたはそちらもどうぞ♪




