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4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その21

 ――いっぽうそのころ、俊介と美緒は――




「ねぇ、美緒ちゃん、いったいどこに行くつもりなの?」


 美緒はピーちゃんが入った鳥かごを持って、外に出たのです。俊介もそのあとをだまってついていきましたが、美緒がなにもいってくれないので、たまらず質問してしまったのです。美緒はじろりと俊介をふりかえりました。


「別にいいでしょ、どこに行っても。俊介君こそいったいどうしてついてきてるのかしら? 里音ちゃんたちのところに戻らなくていいの?」

「美緒ちゃん……」


 傷ついたようにうつむく俊介を見て、さすがの美緒もやりすぎたと思ったのでしょうか、バツの悪そうな顔で鳥かごを見ます。


「ごめんね、ちょっといいすぎちゃったわね。……あのね、ピーちゃんを外に出してあげようって思って、学校なら広いし運動になるかしらって思ったの」


 その言葉を聞いて、俊介は思わず「えっ?」と聞き返してしまいました。いぶかしげに美緒が首をかしげます。


「どうしたの? わたしなにか変なこといった?」

「美緒ちゃん、あのさ、ふしちょ……いや、ピーちゃんはその……セキセイインコなんだよね?」


 突然俊介にたずねられて、美緒は目をぱちくりさせました。


「どうしたのよ、さっきまでピーちゃんのこと、不死鳥だのなんだのいってたくせに、いきなりそんなこといって。でも、そうよ。ほら、この本のこのページ見てよ。セキセイインコの育てかたが載ってるでしょ」


 美緒が俊介に、『不死鳥の飼いかた全集』を見せてきました。しかし、もちろんそこに載っている鳥は、俊介には太陽と月の不死鳥にしか見えませんでした。ピーちゃんは勝ち誇るように、ゲッゲッと不気味な鳴き声を上げます。ですが俊介は、重要なことに気がついたのです。


「ねぇ美緒ちゃん、ぼくもさ、鳥ってすごい好きなんだよ。だけど家だとお母さんが鳥きらいだから、飼わせてもらえなくて。でも鳥は好きだから、よく鳥の飼いかたが書かれた本を読むんだ」

「うん、それは知ってるわ。ホントはね、俊介君って鳥のこと詳しかったから、ピーちゃんの飼育方法をいろいろ聞きたいなって思ってたの」


 美緒のサイドポニーが、いたずらっぽくゆれました。ぱっちりした目で見つめられて、俊介はどぎまぎしてしまいます。それでも俊介はぐっとこらえて、しっかり美緒に向かい合ったのです。


「あのね、美緒ちゃん。ぼくが読んだセキセイインコの飼いかたには、絶対に鳥かごから出しちゃダメって書いてたんだ。鳥かごから出したら、どれだけなついてるインコでも、すぐに外に逃げちゃうって。だから、その本に書いてあるのって、本当かなって思ったんだけど」


 俊介にいわれて、美緒は目をぱちくりさせました。俊介はというと、美緒がどんな反応をするのか心配なのでしょう、緊張したおももちで美緒を凝視しています。ですが、俊介の嫌な予感は的中したようです。美緒の表情が、さっきまでのいたずらっぽいものから、警戒するような険しいものへ変わっていったのです。


「えっ、それ、どういうことかしら? でも、この本にはちゃんと外に出して運動させるようにって書いてあるわよ。そうしないと、ヒナの羽がちゃんと育たないって」

「でも、外に放したらどんな鳥でもそのまま逃げちゃうはずだよ。家の中とかだったら、窓を閉めておけば逃げられちゃうこともないけど、屋外でかごの外に出したら、きっと戻ってこないと思うよ。だから……」


 俊介はうっと言葉を飲みこみました。美緒の視線が警戒するようなものから、冷ややかなそれへと変わっていたのです。さっきよりも一オクターブ低い声で、美緒が俊介にたずねます。


「それじゃあ俊介君は、わたしのピーちゃんが、鳥かごの外に出したらそのまま逃げて、帰ってこないっていいたいのね」

「え、それは、でもだって……」

「わたしのピーちゃんはそんなひどい子じゃないわ! こんなになついてくれているのに、逃げてなんていかないわよ。それより外に出さずにずっと鳥かごの中に閉じこめているほうが、ピーちゃんがかわいそうでしょ」


 美緒にじろっとにらみつけられては、もう俊介もなにもいえませんでした。美緒は俊介が納得したと思ったのでしょうか、険しかった表情がわずかにゆるみました。


「ね、やっぱり鳥は広い空で遊ばせてあげるほうがいいのよ。この本にだって、ヒナは最初に見た人のことを親だって思ってるから、絶対逃げずに戻ってくるって書いてるわ。ちゃんと毎日外に出してあげて、羽ばたかせてあげないと運動不足でストレスになるって」


 いとおしそうに鳥かごをなでる美緒を、ピーちゃんはきりっとした赤い目で見あげます。そして、心地よい笛の根のような、ピーッという鳴き声を上げたのです。それは俊介に対して出す、あのゲッゲッという不快な鳴き声とは全く違いました。


「ほら、ピーちゃんだってこんなに喜んでるじゃない。ピーちゃんはわたしのこと、ちゃんとママだってわかってるのよ。ね、ピーちゃん」


 再びピーッという、耳がいやされる鳴き声を上げるピーちゃんを、俊介はうらやましそうに見つめました。そして、ハッと我に返ったのです。


 ――なにぼくはうらやましいなんて考えてるんだ! 違う違う、こいつは魔界の鳥なんだ、美緒ちゃんをだまくらかす、悪い不死鳥なんだ! だまされちゃダメだ。美緒ちゃんのためにもがんばらないと――


 俊介はなんとか相手の弱みを見つけようと、ねめつけるような視線をピーちゃんへと送りました。再びピーちゃんが、ゲッゲッと耳が痛くなるような鳴き声を上げます。


 ――こいつ、調子に乗りやがって……。でも、どうして外に出すようになんて、『不死鳥の飼いかた全集』には書いてあるんだろう? ぼくが前に読んだ、セキセイインコの飼いかたマニュアルには、どんなになついてても、屋外でかごの外に出したら逃げちゃうから、絶対ダメって書いてあったのに――


 鳥かごの中で、ピーちゃんが退屈そうに羽をばたつかせました。それを見ていた俊介に雷鳴が走ります。


「そうだっ!」

「えっ、どうしたの、俊介君?」


 美緒がふりかえって俊介を見ます。俊介はあわてて首をふりました。


「あ、いや、なんでもないよ、ホントだよ」

「ホントかしら? あ、まさかなんだけど、実は近くに花子ちゃんがいて、またテレパシーでないしょ話してるんじゃないの?」

「そんな、違うよ! 花子は里音ちゃんたちと」


 グッと言葉を飲みこんだので、美緒はけげんそうな顔をするだけで、それ以上はなにもいいませんでした。ホッと胸をなでおろしてから、俊介はキッと鳥かごの中のピーちゃんをにらみつけました。


 ――でも、わかったぞ、こいつの弱点が。見てろよ、うまいことぼろを出させて、お前に対する美緒ちゃんの信頼を、地に引きずり落としてやるからな――


いつもお読みいただきありがとうございます。

同時連載中でした『魔法の人形ソフィア ~人間になりたい戦争兵器~』が無事完結いたしました。

また、明日から新作『スパイのカイと賢者の砂』も投稿予定です。もしよろしければそちらもどうぞ♪

ご意見ご感想などもお待ちしております♪

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