5冊目 『テンポラルのドッペルゲンガー研究』 その12
ドッペルゲンガー・花音のおたけびとともに、持っていたマジカルセイバーに、青い光が宿っていきました。ゆらめく水に刃が包まれ、あたりの温度が一気に下がります。
「さぁ、これで相殺よ! そのあとはあたしのターンだわ、反撃開始……なに? どういうこと?」
マジカルセイバーをおおっていた、青い光が消えていったのです。驚き、目をみはるドッペルゲンガー・花音に、里音の火球がおそいかかります。
「どうして魔法剣が、キャアァァァッ!」
すさまじい温度の火球に飲みこまれ、ドッペルゲンガー・花音の断末魔がコロシアム中にひびきわたります。火球は一気に火柱となって、天まで届かんばかりに燃え上がります。そしてようやく、その炎がおさまっていき、最後は消えていきました。あとに残ったのは、真っ黒こげになって横たわる、ドッペルゲンガー・花音のすがただけでした。
「あーあ、影だからもともと真っ黒だけど、焦げてさらに真っ黒こげになっちゃったわね」
「……うぐ……、どう……して?」
じりじりとからだを動かし、ドッペルゲンガー・花音が顔をあげました。里音は感心したように目を見開きました。
「へぇ、わたしの魔法、『メテオフレア』を受けてもまだ息があるなんて、ニセモノとはいえさすがは花音ね。驚いたわ」
「メ……『メテオフレア』ですって……? そんな、ウインドウには……『ファイアバレット』って……」
「そりゃそうでしょ。あんたの難易度じゃ、炎の最上級魔法は『ファイアバレット』なんだから、そのウインドウしか出ないわよ」
「いったい、どんな……ずるっこした……のよ……」
もはや虫の息のドッペルゲンガー・花音が、すがるように里音に問いかけました。里音はハァッとため息をついて、それから説明を始めました。
「いいわ、説明してあげる。いくらニセモノとはいえ、わたしのかわいい妹が知りたがってるんだものね。教えてあげるわ。まずはそうね、どうしてウインドウに書かれた魔法名が『ファイアバレット』だったのに、実際は『メテオフレア』だったか、種明かしをしてあげる」
里音はにやりと笑って、それからパチンっと指を鳴らしました。里音の頭上に、ステータスバーが表示されます。今度は先ほどまでのような、『????』という表示ではありませんでした。
「そん……な……。魔力、87ですって……?」
魔力だけではありませんでした。他のステータスも、のきなみ二けた後半の数値ばかりでした。魔法防御力にいたっては、103ポイントもあります。
「うふふ、どう? 驚いたかしら。ここまで育てるの、すっごく大変だったのよ。まぁ、結局ゲームクリアはしてないんだけどね。ほら、あんたもいってたように、わたしさいころ運ないからさ」
「さいころ運が、ない? こんな……、こんな、めちゃくちゃなステータスなのに?」
ドッペルゲンガー・花音が目をむきました。里音はアハハと笑ってうなずきました。
「そりゃそうよ。他のステータスは全部、レベルをあげまくったからここまで高くなったんだもん。魔力の初期値が17だったときは、泣きそうになったわ」
「初期値が、17? どうして、そんなの……六面さいころ二つで出せる数値じゃ……」
「もちろん。だってわたしが育てたキャラの難易度はハード。対してあんたは初心者だから、難易度イージーでしかプレイできないわ。ちなみに難易度ハードで初期ステータスを決めるには、六面さいころじゃなくて六十面さいころを二つ使うのよ。難易度が高いほど、自分のステータスも、相手のステータスも高くなるってわけ」
「なっ……」
ドッペルゲンガー・花音は言葉を失いました。その様子を里音は満足そうに見つめています。
「ホント、あんたがいうように、わたしのさいころ運はめちゃくちゃよね。最大120ポイント出せるさいころなのに、まさか初期値17なんて数値になるなんて。だから大変だったのよ。序盤の村に出てくるプチスライムにすら、ボコボコにされそうになっちゃって、死にかけて……。まぁでも、かなりやりこんだから、なんとかこんなステータスまで持ってこれたけどね」
自信満々の里音を、ドッペルゲンガー・花音がくやしそうに非難しました。
「なにが、『イカサマしてない』よ……。がっつり、イカサマしてるじゃないの」
「そりゃそうよ。さいころ運がめちゃくちゃなあんた相手に、イカサマなしで勝てるはずないじゃない。ちなみにあんたのジョブをマジックナイトにしたのも、実はイカサマなのよ」
「えっ? ……どういうことよ……?」
いぶかしげに見あげるドッペルゲンガー・花音を、里音はアハハとバカにするように笑い飛ばしました。
「まったく、なんてまぬけな顔してるのよ。やっぱりあんたニセモノね。花音だったら絶対そんな顔しないもん。まぁいいわ。教えてあげる。マジックナイトってジョブは、本来難易度ハードじゃないと使い物にならないジョブなのよ」
「どうして……? だって、強い上級ジョブなら、難易度イージーでも、強いんじゃないの?」
「残念ながらそれは違うわね。だってマジックナイトが使う魔法剣って、とんでもない量のマジックポイントを消費するのよ。ちなみにあんたがさっき使った、『ライトニングブースト』だけど、マジックポイントを12ポイント消費するわ」
「そんな、じゃああたしのマジックポイントは……」
絶句するドッペルゲンガー・花音の言葉を、里音は楽しげに引きつぎました。
「あの時点ですでに尽きていたわね。ちなみに『ウォータースプラッシュ』は18ポイント消費するわ。どうやったって、難易度イージーの序盤じゃ使えないわよ。つまりあんたの魔法剣が消えたのは、単にあんたのマジックポイントが足りなかったから。ただそれだけよ」
「くっ……。お姉ちゃんの土俵に、乗った時点で……あたしの、負け……だったのね……」
がっくりと力尽きるドッペルゲンガー・花音を見て、里音はビッとブイサインしました。ドッペルゲンガー・花音は黒いけむりとなって消えていき、里音のまわりの景色は、もとの公園のものへと変わっていきました。
「さて、わたしはなんとかニセモノをやっつけたけど、花音はうまくやれたかしら?」
里音は公園をきょろきょろ見まわしました。
「あっ、お姉ちゃん。よかった、お姉ちゃんもうまくニセモノやっつけたんだね。わたしもちょうど今やっつけたところよ。楽勝だったわ」
花音が里音と同じように、ビッとブイサインしました。
「よかった、あんたもうまくやったらしいわね。ま、わたしがやられるのはちょっとしゃくだけど、それはいいわ。さ、早く『テンポラルのドッペルゲンガー研究』を封印しちゃいましょう」
里音が花音に近づいていきます。花音も笑顔でしたが、うしろに隠した手には、『魔界カメレオンの冒険』を持っていることに、里音は気づいていませんでした。花音は里音に笑いかけ、そして里音の右腕にふれました。
「里音ちゃん、ダメッ!」
花子のさけびが聞こえ、里音がハッと手を引っこめましたが、遅すぎました。
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