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5冊目 『テンポラルのドッペルゲンガー研究』 その1

 里音は目をぱちくりさせて、花音の顔を見あげました。花音はにやにやしながら里音を見かえします。


「そりゃあそうでしょ。だってお姉ちゃん、俊介をあれほどあおったじゃんか。そのお姉ちゃんががんばらなきゃ、ドレイにかっこつかないんじゃないの?」

「いや、まあ俊介はドレイってわけじゃないけど……」

「あれ、お姉ちゃんまさか……」


 にやにや顔の花音が、ほおのあたりをによによさせて、完全にバカにした表情をうかべています。里音はむきになって手をブンブンふりまわしました。


「違う違う、違うわよ! あいつはドレイよ、ふんっ! いいわ、いったいなにすればいいの? 魔界図書館の本で、俊介をサポートするわけ?」

「いやいや、そんなことしたら太陽と月の不死鳥に気づかれて、全部台無しになっちゃうでしょ」


 花音に冷静にツッコまれて、里音はムーッとほおをふくらませます。ぷぷぷと笑う花子を、里音はじろりとにらみつけました。


「もう、いいから早く教えなさいよ! いったいなにをするわけよ」

「なにをって、あたしたちがする仕事は一つでしょ。魔界図書館の本の封印よ」


 花音にいわれて、里音はぽかんと口を開けたまま固まってしまいました。目をしばたかせて、花音の顔を見あげます。


「魔界図書館の本の封印って……いや、今俊介がやってくれてるじゃん。それを手伝うってこと? え、でも」


 あきれたようにはぁっとため息をつくと、花音は首をふりました。


「違う違う。あたしたちが封印するのは、『不死鳥の飼いかた全集』とは別の本よ。あのね、近くにもう一冊あるの。だから俊介が待ってる間に、あたしたちで封印しちゃいましょうってことよ」


 ようやく話が見えたのでしょう、里音はなるほどとうなずきました。それから慌てて首を横にふります。


「ちょっとちょっと、ダメよそんなの! だって今俊介が『不死鳥の飼いかた全集』を封印しようとしてるんだよ。それなのに、わたしたちが他の本にかまけてたら、もし万が一俊介になにかあったら」

「あれ、里音ちゃん、もしかして俊介のこと心配なの?」


 里音がバッとふりかえりました。いつの間にか花子も、花音と同じくによによ顔で里音を見ています。ボッとほおが熱くなり、里音は声を荒げて否定します。


「そんなことないに決まってるじゃない! ただ、あいつがなにかヘマしたときにわたしがいないと、また面倒なことになるんじゃって心配しただけよ。あいつの心配なんか……」

「ま、いいわ。そういうことにしといてあげる」


 面白いおもちゃが見つかったかのように、花子がまだによによ笑っています。里音がじろりとにらみつけました。


「あんた、俊介から『トイレの花子さんの生態』返してもらうわよ。んでもって魔界図書館のトイレに流すわよ、トイレの花子さんだけに」

「……いや、全然うまくないし、そんな真っ赤な顔でいわれても、怖くないよ、里音ちゃん……」


 気の毒そうな顔をする花子から、ぷいっと顔をそむけて、里音は花音に向かい合いました。


「別にあいつのことなんかどうだっていいわ。それより次の本、いったいなんなのよ? 早く教えなさい」

「まぁまぁ、そんなあせんないでよ。すぐ教えるからさ。ま、俊介のことは大丈夫だと思うよ。あれだけあたしたちに大ミエ切ったんだし、ちゃんとうまくやるでしょ。それにそんなに心配だったら、あたしたちもパッパと封印して、すぐに戻ってくればいいんだしね」

「別に心配してないって! ほら、早く教えなさいってば」


 里音がだぼだぼのすそをパタパタするので、花音はキャハハと笑ってうなずきました。


「わかったわよ。でも、とりあえず近くにあるのはあと一冊よ。最後の一冊はちょっとよくわかんないのよ。でも、どっちもとんでもなくやっかいな本だから、心して聞いてね」


「ふん、『不死鳥の飼いかた全集』よりやっかいな本なんて思いつかないわよ。ま、なにがきたってやってやろうじゃない。で、なんなの、五冊目の本は」

「『テンポラルのドッペルゲンガー研究』よ」


 里音のあごがガクッと落ちて、口があんぐり開きました。目と鼻の穴が大きく開いて、なんとも不細工な表情になっています。思わず花子が笑いましたが、それに文句をいうことすらできません。笑っていた花子もだんだん不安になってきたのか、真顔になって里音にたずねました。


「……え? そんなにやばい本なの、それ?」

「やばいっていうか、とんでもなくめんどくさい本よ。めんどくささでいえば、『不死鳥の飼いかた全集』の上を行くわ。ていうかあんたも聞いたことあるでしょ、魔界のマッドサイエンティスト、アイラロート・テンポラルの名前くらいは」


 花子はぽかんとした顔で、里音を見つめています。里音ははぁっとため息をついてから説明を始めました。


「アイラロート・テンポラル。時間や空間の魔法研究を行っている魔人よ。魔界の海の孤島で、とんでもなく高い塔を建てて、いろいろ怪しい研究してるマッドサイエンティストよ。自らは『時の魔術師』なんて名乗ってるけど、どう考えてもおかしなマッドサイエンティストだわ」

「キャハハ、そうそう。変人魔人よね、あいつ」

「で、こいつの出してる本って、チンプンカンプンなうえに、やたら使いづらいから利用者からいろいろクレームが来てるのよ。ま、クレーム出せるのは運がいい利用者なんだけどね」

「えっ、運がいいの? だってクレームつけるってことは、めんどくさいことに巻きこまれたってことじゃないの?」

「だって生きて帰れたわけだからね。だいたいは利用者は行方不明、で、本だけ魔界図書館に戻って来るパターンが多いわね」

「……魔界図書館の本の身であるわたしがいうのもなんだけど、あんたのとこの図書館、貸し出す本を考え直したほうがいいと思うわ」


 花子の言葉は無視して、里音は説明を続けました。


「まぁ、今回の『テンポラルのドッペルゲンガー研究』はまだましなほうよ、特にわたしたち双子にとってはね」


 ふふっと笑って里音が花音を見あげました。花音が肩をすくめて答えました。


「ましかなぁ? だってお姉ちゃんとでしょ。絶対うまくいかないと思うけど。だってあたしたち、双子だけど正反対の性格してるじゃん」

「えっ、どういうことなの? 双子じゃないと封印できないの? ていうかそもそもそのドッペ……なんとかってなんなのよ?」


 花子が首をかしげて問いかけます。これには花音が、目を輝かせて説明し始めました。


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