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4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その16

 俊介の目が大きく見開かれました。信じられないといったおももちで里音を見かえします。


「まさか、普通の人間のぼくなら、近づいても燃やされないとか、そんなこといわないよね」

「あら、今日はずいぶん鋭いじゃない。そのとおりよ」


 にべもなく里音にいわれて、俊介はブンブン首を激しくふりました。


「いやだよ、絶対いやだよ! そんな言葉のあやみたいなので、そんな危険なことしたくないよ! 燃やされちゃったらどうするのさ?」

「大丈夫よ、太陽と月の不死鳥は、敵に対してはようしゃないけど、弱い生き物、特に人間に対してはとっても優しいって、なんかの文献で読んだからさ」


 花音が軽い調子でいいました。もちろんそんな言葉、俊介は信じることなどできません。頭だけでなく手もふって、全身で「ノー」と伝えます。


「やだやだ、そんなの無理だって! だいたいぼくは里音ちゃんみたいに魔界図書館の本なんて使えないんだよ。それなのにどうやって封印するっていうんだよ!」

「そんな難しく考えなくても大丈夫よ。あんたはとりあえず、美緒を説得してから、『不死鳥の飼いかた全集』を回収してくればいいんだから。あとの封印とかは、全部わたしがやってあげるからさ。ほら、簡単でしょ」

「さっき里音ちゃんがいったんじゃんか、『不死鳥の飼いかた全集』にも幻術がかかってるって! ぼくが回収しようとしたら、どう考えても美緒ちゃんがおかしいって思うだろ。しかももし回収して封印しようとしてるって、太陽と月の不死鳥が気づいたらどうするのさ? いくら人間でも、ぼく絶対燃やされちゃうじゃん」

「へぇー……。そっか」


 里音の声のトーンが変わったので、俊介はハッとして里音を見おろしました。里音はいつもの威圧的な声でも、俊介を引っかけるときの甘ったるい声でもなく、ただただ静かな声で続けました。


「そっか。あんた、愛しの美緒ちゃんが、魔界の不死鳥に幻術かけられてても、だまってるんだ。魔界の不死鳥をインコだと思ってかわいがる美緒を、そのままにしておくんだ。へぇー、そっかそっか」

「う、なんだよ、そのいいかたは。なんだか調子狂うじゃんか」

「別に、ただがっかりしただけ。あんた、口ではいつも美緒のこと守るとかなんとかいってるけど、ちょっと危険がせまっただけで、もう美緒のこと見捨てちゃうんだね。はぁー、そっか」


 静かな声なのに、里音の言葉はチクチクと俊介の胸にささります。それでもうじうじしている俊介へ、里音だけでなく花音も花子も冷ややかな視線を送ります。


「ま、その様子だとどうして美緒が怒ってるのか、美緒がなにを反省してほしいのかも、全然わかってないみたいだし、いいわ。もう封印はわたしたちだけでやるから」

「里音ちゃん……」


 俊介のすがるような視線をふりきって、里音は美緒の家に向かおうとします。その背中に俊介が声をかけました。


「待って! わかった、ぼくが封印するよ」

「いやいやするなら別にいいわ」

「いやいやなんかじゃない、美緒ちゃんを守るのはぼくにしかできないんだ。だからぼくは美緒ちゃんを守る! やらせてくれよ!」


 里音の胸の奥で、キュンッとなにかが音を立てました。里音はバッと花音と花子を見ますが、二人ともけげんな顔をしているだけで、音には気づいていないようです。里音はごまかすように、早口でまくしたてました。


「ふん、そこまでいうならいいわ、あんたに譲ってあげる。でも、危険は承知なんでしょうね?」

「もちろんさ、危険だろうがなんだろうが、美緒ちゃんのためならそんなのどうってことないよ」

「やっるー、初めてあんたのことかっこいいって思ったわ」


 花音が口笛を吹きました。花子も見直したように俊介をながめています。


「じゃあ決まりね。それじゃ俊介、うまくやるのよ。なんとか美緒を説得して、うまいこと『不死鳥の飼いかた全集』を回収してきてちょうだい。ただ、わかってると思うけど、うまく説得できずに奪ったりしたら、飼い主に害を与える敵として、太陽と月の不死鳥はあんたも攻撃してくると思うから、気をつけてね」


 一瞬俊介は息を飲みましたが、里音が挑戦的な視線を送ってきたので、意地になってうなずきました。


「うまく説得できなかったら、だろ。ちゃんとうまくやるさ。それが美緒ちゃんも守ることになるんだから、死ぬ気で説得するさ」

「やだ、ホントにかっこいいわね……」


 花子がぽつりとつぶやきました。里音がじろりと花子をにらみましたが、すぐに俊介に向きなおってから、その背中をバンバンっとたたきました。


「よし、それじゃあ行ってきて! 幸運を祈ってるわよ」

「うん、行ってくるよ。待っててね、美緒ちゃん」


 俊介は大股で、美緒の家へと向かっていきました。残された三人は顔を見合わせて、小声でひそひそ話しはじめました。


「なによあいつ、いつの間にあんなかっこよくなったのよ。ちょっとドキッとしたじゃない」

「お姉ちゃんも? あたしもびっくりしたわ。でも、お姉ちゃんがうまくたきつけたのが効果あったんじゃない? あれなら心配なさそうね」

「わたしもちょっとほれそうになっちゃったわ。ホントは年上のお兄さんがタイプなんだけど、ああいうのもアリね。今度美緒のからだを使って、うまいこと誘惑……あ、失礼、じょうだんよ」


 里音と花音にジト目で見られて、花子はコホンッとせきばらいしました。ごまかすようにわざと明るい声で、花子は続けました。


「で、わたしたちはこれからどうするの? 俊介のこと待っておくわけ?」


 花音が首をふりました。けげんそうな顔をする里音に、花音は二ッと八重歯を見せて笑いました。


「せっかく俊介がやる気だしてくれてるんだし、あたしたちももう一仕事しないとね」


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

明日からはまたいつも通り毎日1話ずつ投稿予定です。

明日からもお楽しみいただければ幸いです。

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