4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その15
花子のつぶやきに、里音も難しい顔で考えこみます。
「そうね、しかも太陽と月の不死鳥は、とんでもなく忠誠心と、あと嗅覚も優れているから、こっそり近づいたりとかはできないわ。飼い主に近づく悪魔やゆうれいとか、とにかく魔界の住人ならみんな敵だと思って燃やし尽くすんだもん」
里音の言葉に、花音がパッと顔をあげました。なにかを考えこむように、首をひねっています。
「全くもう、本当にトラブルばっかり引き寄せるんだから!」
里音がうんざりしたようにいって、花子を見ました。
「で、美緒はいったいそのあとどうなったの?」
「わたしに聞かれてもわかんないわ。さっきいったじゃん、美緒ちゃんが『不死鳥の飼いかた全集』をとったとたんに太陽と月の不死鳥が現れたの。で、いきなり美緒ちゃんのからだから追い出されて、炎で一気に燃やされちゃったんだから。でもあいつの炎、わたしだけを正確に焼き払って、本棚や他のお客さんとかはすす一つつけてなかったのよ」
「えっ、それがいったいどうしたんだよ?」
不思議そうに口をはさむ俊介を、里音と花子は「なにをいってるんだ」といわんばかりに白い目で見ました。
「ちょっとさっきからみんなひどいよ! なんかぼくを完全にダメなおバカキャラみたいに扱ってるだろ!」
「すきあらばパンツをのぞく変態野郎が抜けてるわよ」
冷静に花子にツッコまれ、俊介はがくぜんとしました。そんな俊介に、しかたなさそうに里音が説明します。
「ひな鳥なのに、そこまで炎をコントロールできるってところがポイントよ。しかも人間界にいきなり現れたのに、自分が危険な鳥だと疑われないように、しっかり擬態もこなしてる。さらに飼い主……この場合は親っていったほうがいいかもしれないけど、親にとりついている花子をすぐに排除した。忠誠心も相当なものね。わたしもうわさにしか聞いてなかったけど、とんでもなくやっかいね」
「でも、花子を燃やしたときに、美緒ちゃんも炎をあげるところを見てるんじゃないの? それなら普通に気づくんじゃない? っていうか、黒い背表紙の本だったわけだし、話せば案外わかってくれるんじゃないかな?」
のんきなことをいう俊介の耳を、里音がぎゅうっとつねりました。痛みにうめく俊介の耳元で、里音が大声をあげました。
「さっきから何回もいってんじゃん、相手は擬態するんだって!」
「わあぁっ! ちょ、耳が、鼓膜が破ける! 大声出さないでよ!」
「あんたがちゃんと聞いてないからでしょ。まったく、何度いえばわかるのかしら。特に太陽と月の不死鳥ほどの魔力と知能を持ったやつなら、飼い主はもちろん、他の人間たちに幻術をかけて、幻覚を見せることぐらいわけないわ。だからきっと今の美緒には、不死鳥のすがたはインコかなにかに見えてるんだと思うわ」
「ああ、それじゃあますますまずいよ。美緒ちゃん前にインコ飼いたいなっていってたもん」
里音たちは、そろって頭を抱えるくらいしかできませんでした。ただひとり、花音だけはなぜか首をひねったままです。
「でもさでもさ、黒い背表紙の本があるなら、不死鳥のすがたがインコに見えてても、さすがにぼくたちのいうことを信用してくれるはずだよ。だって美緒ちゃんだって、黒い背表紙の本が魔界図書館の本だってことは知ってるんだから」
「それも無駄だと思うよ。だって、自分のすがたすら幻術で別のすがたに見せるんだもん。『不死鳥の飼いかた全集』にだって絶対幻術をかけてると思うわ」
花子がなすすべもないといった様子で、肩をあげました。
「じゃあ、今の美緒ちゃんには、『不死鳥の飼いかた全集』も魔界の本じゃなくて、なんか別の本に見えてるってわけ?」
「そうでしょうね。たぶんインコの飼いかたかなんか、そんな感じの本に見えてるんじゃない? ホントに、用心深いにもほどがあるわよ」
「あぁーっ」と頭を抱えたまま、里音がじだんだをふみました。
「もう、どうすればいいのよ、このままじゃ本は封印できないし、封印できなかったらママに殺されちゃうし、八方塞がりだわ」
「ねぇ、お姉ちゃん。どうして本が、いいえ、太陽と月の不死鳥が封印できないんだっけ?」
それまで黙っていた花音が、突然里音に問いかけました。里音は切れ長の目をピッとつりあげ、花音にかみつくように答えました。
「それもさっきから何度もいってるじゃない! 太陽と月の不死鳥は、飼い主に近づくやつは、魔界の住人ならみんな敵だと思うのよ! 近づくことすらできないじゃない」
「それよ! その習性を利用するのよ!」
花音が目を輝かせて里音の手を取りました。なんのことかわからずに、里音たちはみんなぽかんとしています。
「もう、鈍いわねぇお姉ちゃんは。お姉ちゃん、今いったじゃんか。太陽と月の不死鳥は、魔界の住人ならみんな敵だと思うんでしょ」
「だからそれがどう……」
里音は切れ長の目を細めて、それから大きく開きました。キッと俊介をふりかえったので、俊介は反射的に顔を手で防ぎました。
「許して、なにも見てないよ!」
「なにいってんのよあんた? ん、見てない? あんたまさか、またわたしのパンツを!」
「いやいや、違うよホントに! だっていきなり怖い顔するから、またたたかれると思っただけだよ、ホントだよ」
まだ怪しんでいるようでしたが、里音はふうっとため息をついて、改めて俊介の顔を見ました。
「まぁいいわ、今回は信用してあげる。でも、そのかわりあんたには今回がんばってもらうからね」
「へっ? え、がんばるって、なにを?」
「だから、太陽と月の不死鳥の封印をよ!」
「いやいや、無理だよ! 里音ちゃんたちですら焼き尽くされちゃうのに、ぼくみたいな普通の人間が封印なんて、そんなのできるわけないじゃないか。近づいたとたんに燃やされるのがオチだよ」
里音はふふんと鼻で笑って、ちらりと花音を見ました。
「花音に気づかされたのよ。太陽と月の不死鳥の弱点をね。いいかしら、さっき花音は、魔界の住人ならみんな敵だと思うっていったでしょ。それって逆にいえば、魔界の住人じゃなければ、つまり、普通の人間だったら……」
いつもお読みくださいましてありがとうございます。
本日19時台あたりにもう1話投稿予定です。そちらもお楽しみいただければ幸いです。




