4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その14
「……さ、それじゃあ花子、ちゃんと説明してもらうわよ。いったいあんたになにがあったのか。まぁ、その様子を見ると、どうやらちょっとばかし遅かったみたいだけどね」
パンパンッと手をはたいてから、里音が花子にたずねました。花子はうなずき、ぶるるっと身をふるわせました。
「とんでもないわね、悪魔の調味料は……。なめ放題だとかいってる場合じゃなかったわ。まさか美緒ちゃん、こうもたて続けに魔界図書館の本に遭遇するなんて」
「やっぱり、それじゃあ美緒が『不死鳥の飼いかた全集』を開いたのね」
里音が頭を抱えました。心なしか、花音の顔も少し青ざめています。
「あ、それじゃああんたたちも四冊目の本がなんなのか、もう知ってたのね。それなら話は早いわ」
花子は里音と花音に、ことのいきさつを説明し始めました。
「今日は美緒ちゃん、本屋さんにいってたのよ。で、もちろんわたしもとりついてるから、ついていったんだけど、そこにあったのよね、四冊目の黒い背表紙の本が。で、美緒ちゃんも黒い背表紙の本が、魔界図書館から逃げ出した本だってことは知ってるじゃない。それでその本つかんじゃったのよ」
「ええっ! なにやってんのよあの子は……」
里音は信じられないといった顔で花子を見つめました。花子も肩をすくめます。
「しかたないじゃん。あの子、なんだかんだいってむだに責任感が強いっていうか、自分でなんとかしようってところがあるからさ。だからきっと、本屋さんに本があるから、他の人が開いたら大変なことになる、それなら自分が……とか思ったんだと思うわ」
「で、それで開いちゃったってわけ?」
花子は首を横にふりました。
「まさか、さすがの美緒ちゃんもそこまでめちゃくちゃはしないわ。本屋のど真ん中で本を開いて、万が一こないだの『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』みたいな、とんでもない本だったら大変だからね。だからとりあえず里音ちゃんたちのところへ持っていこうって思ったみたい。でも」
「……でも?」
聞き返す里音に、花子は暗い顔で答えました。
「美緒ちゃんったら、『当たり』を引いちゃったみたいでさ、本にふれたとたんに現れたのよ、『太陽と月の不死鳥』が」
「……マジ?」
里音も花音も、口をあんぐり開けて花子を見つめました。
「ふれたとたん現れるって、いったいどうなってんのよ? あ、もしかして、美緒の悪魔の調味料に反応したのかしら? それなら納得だけど、でもとんでもないのを出現させたわね」
「あたしも知ってるわ、それってウルトラスーパーレアな不死鳥じゃん! っていうか、よくそんな超希少種が『不死鳥の飼いかた全集』に入ってたわね」
花音が興奮気味にしゃべります。里音も顔を真っ青にしてから頭を抱えました。
「どんだけ運がいいのよ、いや、運が悪いのよね、この場合は。とにかくむちゃくちゃだわ、普通の不死鳥ですら吸血鬼の天敵なのに、まさか太陽と月の不死鳥が出てくるなんて」
「あのさ、その太陽と月の不死鳥っていったいどんな不死鳥なの?」
俊介が、口をもごもごさせながらたずねます。真っ赤にはれ上がったほおには、三人分どころか三十人分はあろうかという手形のあとが、くっきり残っていました。三人はじろりと俊介をにらんで、それからぷいっと顔をそむけました。
「ひどいよ、ぼくだってあんなもん、見たくて見たわけじゃ……あ、いや、なんでもないです」
再び鬼の形相になる三人に、俊介が平謝りします。まだにらまれていましたが、俊介はめげずに聞きました。
「それで、いったいどんな不死鳥なのさ。ねぇ、教えてくれたっていいだろ」
「うるさいわねぇ、いわれなくても教えるわよ。太陽と月の不死鳥てのは、魔界で最も珍しく、そして最強の不死鳥といわれているやつよ。その名の通り、昼と夜とですがたを変えるのよ。だから太陽と月ってのがつくわけ」
里音がうっとうしそうに俊介を見てから説明を続けます。
「珍しくて、しかもこいつはとんでもなく忠誠心が強い不死鳥なの。だから、魔界でも一番人気の、それでいてとんでもなく飼育が難しいことで知られているわ」
「そんなやつを出現させちゃうなんて、その美緒って子はとんでもない強運の持ち主ね。……でも、それでよくあんた生き残ったわね。太陽と月の不死鳥の炎は、並みの悪魔やゆうれいだったら、一瞬で燃やし尽くして灰にしちゃうのに。もしかしてあんた、とんでもなく強いゆうれいなの?」
ちゃかすような花音の言葉に、花子はあきれ顔で首をふりました。
「違うわよ。わたしはごく普通のゆうれいだわ。生き残ったのはたまたま運が良かっただけよ。出てきた太陽と月の不死鳥が、まだとっても小さいひな鳥だったから助かっただけ。もしあれが成鳥だったら、こうしてここでしゃべってられなかったと思うわ」
「えっ、ひな鳥なの?」
声をあげる俊介に、里音が肩をすくめました。
「ひな鳥でも、ゆうれいを燃やすことぐらいはできるわよ。なんせ最強の不死鳥なんだから。むしろ、完全に燃やされなかっただけ本当に運がよかったといえるわね」
「あ、いや、違うんだ。ぼくがまずいって思ったのはそこじゃなくて、ひな鳥ってところだよ。ひな、つまり小さくてかわいい生き物ってこと。美緒ちゃんにどストライクだなって思って」
里音の顔が引きつりました。花子もあちゃーと頭を抱えます。
「それじゃあ、うまく説得して本を渡してもらうのも難しそうね」
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